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血まみれJKと夢見るDK

20時前に会社を出られたのは久しぶりだった。

プロジェクトが佳境を迎えており最終チェックに余念がない。22時を過ぎたのに気づいて「そろそろ帰るか」という毎日を送っていた。

電車に乗る時間が2時間も違うと混雑度も客層も変わってくる。いつもより混んでいるし酔っ払いも少ない。毎日このくらいの時間に帰れると健全なんだけどな、と思いながら貴重な1時間の通勤時間を無駄にしないよう、イヤホンをつけて音楽を聴きながら本を読み始めた。

電車が駅に着いた。1人の女子高生が乗り込んでくる。普段の私の帰宅時間だったら補導対象だな、なんて考えながらチラッと女子高生を見た。頬から血を流していた。

見てはいけないものを見てしまった気がしてすぐに目線を外した。そしてもう一度見た。頬にはジュクジュクと痛そうな傷ができており、そこから血が流れている。電車に乗る直前に出来たかのような生々しい傷だった。

駅でころんだのか、はたまた彼氏にでもやられたのか、何かしてあげられることはないかと考えていると答えに辿り着いた。もう一度彼女を見る。相変わらず頬の傷は痛々しいがそれがシールであることがわかった。そうだ今はハロウィンの時期で、この駅は某テーマパークのある駅だ。ハロウィンメイクでテーマパークを楽しんで帰るところだったのだ。

ホッとしたと同時に自分が季節のイベントに無頓着な生活をしていることに気づいた。もともとハロウィンに何かする人間ではないけれど。

ふと10年前のことを思い出した。その日も同じように仕事帰りにこの駅に到着した時のことだ。男子高校生の3人組が乗り込んできて開口一番、

「うわっ!サラリーマンばっかり!」

と言った。普段の使っている通学電車とは違う客層と混雑に驚いたのだろう。それだけではなかった。感受性豊かな彼は車内の淀んだ空気を感じ取りこう言った。

「サラリーマンとか絶対嫌だわ!満員電車もスーツも嫌!そうだ、オレ社長になる!そんで運転付きの車で会社に行くわ!」

周りのサラリーマンの男子高校生を見る目が変わった。そんなことお構いなしに彼らは夢のような話を大声で語り続けた。夢の国から出てきた直後の彼らには、疲れ切ったサラリーマンを運ぶ電車がさぞ暗く陰鬱に見えたのだろう。

あの時の彼らは今どうしてるだろう。サラリーマンになって数年を過ごしているか、それとも本当に社長になっているだろうか。

社長になっているといいなぁ。もしなっているとしたら、10年前の陰鬱なサラリーマンの1人だった自分も彼の夢の一助になれたと思えば少しは浮かばれる。



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