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[小説]白い壁4

 それから数時間。一睡もできないまま暗い部屋の中で思考をさまよわせていたあたしは、
しらじらと明けていく東の空をぼんやり見ていた。・・・夜明け。
 ふと・もう一度あの場所に行ってみよう、あたしは唐突に思った。
 立ち上がって家を飛び出し、走る。・・・よくわからないけど、家の中でいろいろ考えてるより、
何か動いていたかったのかもしれない。

 「はぁっ、はぁっ」
 休まず駆けてきたので十分足らずで「あの場所」に着いた。
 朝の空気は刺すように冷たかったし、吐く息は真っ白い水蒸気になって昇っていったけど
そんなことあたしは気にもとまらなかった。
 息が少し整うのを待って、あたしはゆっくりあの「壁」に近づいた。
 ゆうべは不気味な雰囲気があったこの壁も、朝の光の下で見ると、なんのへんてつもない
普通の白い壁だった・・・
 おそるおそる手をのばして・壁に触れてみる。
 ・・・ただ冷たくて硬いだけの壁・・・

 「はぁっ」
 あたしはがっくりと肩を落とし、両手を壁について首をうなだれた。
 (何かわかるかも、なんて、やっぱり安易な考えだったのかな) 
 そのときだった。
 不意に、うしろで土を踏む静かな音がして、壁に長い影が映った。
 あたしは振り返った。
 太陽の光が逆光になって目に入り、まぶしくてあたしは手をかざした。
 一瞬紗がかかる視界。あたしの瞳(め)は驚愕に大きく開かれた
 肩口から光をこぼし、立っていたそのひとは。

~つづく~

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