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ジィの背中

ちょいと前に、家族の思い出の話で登場した、祖父。
まーいろんな逸話を遺したヒトであったが( ̄▽ ̄;)
その中で ふと。
とても優しいエピソードを思い出したので書きたくなった。

あれは夏だった。父方の従姉兄、どちらかの娘(MちゃんだったかEちゃんだったか)であったことは確かなんだが、とにかく従姪が実家に遊びに来ていた。
彼女は何歳くらいだったろう?2〜3歳くらいだったろうか。
私と妹が家にいて、遊び相手をしていた。

暫くして家の中で遊ぶのに飽き、外に行こうとして、私と妹・従姪は勝手口にいた。

そこへ、祖父が来た。

何か用事があって外へ行こうとしていたのだろう。

出てゆくのだと思って、私と妹は道を譲った。

小さなひ孫を見おろし、サンダルをつっかけて降りた祖父が、振り返って言った

「わんわん、見っか?」

そして祖父はしゃがんで、背中をひ孫の目線まで下げた。

すっ、と
何も言わず従姪は吸い寄せられるみたいに、手を伸ばして祖父の背中に乗った。
祖父は空気のように従姪を背負い、柿の木の下にある今はなき犬小屋の前まで歩いて行った。

…私も妹も、
半ば魅入られたようにその光景を見てた。
ひ孫が来ても、何の興味も示さない、ただ遠目に見ていた祖父が。
あんな。 
おじいちゃんらしいことをするなんて。
そして、あの背負い方。

祖父は、夏によくしていたように色褪せたランニングシャツ一枚、下は履き古したズボンだった。
ぴんと背筋を伸ばした板のような背を30度くらい前傾にし、べったり背中に貼りつかせる背負い方ではない。
シャツに軽く手をかけて、子供は直立に近い姿勢でいる。
まるで馬に乗っているような感じだろうか。

隣で妹が、ため息のような囁きを漏らした。
「安定してるな」
とか、そんな感じの言葉だったように思う。
同感だった。

犬小屋の犬は、吠えもせずつぶらな瞳で祖父と従姪を追い、見つめていた。
とても静かなひとときであった。

今思うと、祖父の背負い方はとても紳士的だった。
できる限り背負う者・背負われる者の接触を最小限にし、且つ安定していた。
…あの背負い方、祖父は昔やっていたのだろうか。

…私も背負われたことがあるのかな?

あのときの従姪が、何かとても貴重な体験をさせてもらっていると、思った感があり。
そしてそれは、もしや自分もしてもらったことがあるのではないかという、過去の希望的既視感になった。
羨ましかったのか?
不思議な感動を覚えた思い出。

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