天狼院メディア・グランプリ掲載記事まとめ
天狼院書店のライティングゼミで掲載になった記事をまとめました!
2021年9月1日
鋭い言葉が刺さった朝に
心が痛い、痛い、痛い。
とある夏の朝、私は仕事へ行くため家を一歩出た。その瞬間、まるでバケツにいっぱいになった水が溢れ出すように、突然涙が溢れた。枯れることを知らない泉のように止めどなく溢れ、嗚咽がこみ上げた。
私はその年の3月に大学を卒業し、4月から社会人になった。私の仕事は、最初の2年間に様々な部署を数ヶ月ずつ経験し仕事内容を覚える。それまでに経験した3つの部署はどれも学びがあり、何より楽しかった。この仕事に就いて良かったと思ったし、新人ながらにとてもやりがいを感じていた。
2021年9月8日
人の感情に触れる○○○の魅力
ブザーが鳴って幕が上がる時、胸の高鳴りは最高潮に達し、心が一瞬無になる。
次の瞬間、私は既に物語の中にいる。
私が初めて観たミュージカルは、“アニー“だった。あれは、8歳くらいの時だったと思う。
2021年9月15日
声にならない声を聴きたい~あの日、私に謝った患者さまのご家族へ~
「先生に大変失礼なことをしてしまいました。てっきり看護師さんだと勘違いして……。申し訳ありません、だそうです」
カルテを記載していた私は、患者さまのご家族からの伝言を看護師に告げられた。
その少し前、私は、腹痛を訴えて救急外来を受診したご高齢の患者さまを担当し、ご家族に詳しい話を伺っていた。
2021年9月22日
声なき声を聴く診療科
眠っている方の声を聴く、それが私の今の仕事だ。
寝ている人は話せないんじゃないの? どうやって? と思われただろうか。
私は毎日、病院の手術室にて全身麻酔で寝ている患者さまの体の声を聴いている。沢山のモニターと患者さんの顔色や尿などの指標を用いて。https://tenro-in.com/mediagp/200435/
2021年9月29日
折り鶴が教えてくれたこと~患者さんの元へ足を運ぶのが怖かったあの時の私へ~
「お母さん、私医者に向いていないのかもしれない」
医学部5年生だった私は、横で運転する母にそう言った。やっとその言葉を絞り出した私の目には、涙が浮かんでいた。
その数日前、私は耳下腺腫瘍の手術の後遺症で片側の顔面神経(顔の表情をつかさどる神経)麻痺を負ったご高齢女性を受け持たせてもらった。再発に対して化学療法を行うための入院だった
その患者さんのお部屋に伺った際、鏡を見て垂れ下がった頬を指で持ち上げながら彼女は私にこう言った。
「こんな風に(麻痺)なってしまって……。醜いわよね」
その瞬間、私は頭が真っ白になった。
2021年10月6日
ぬいぐるみが開く新しい世界
柔らかくて温かくて、触るだけでほっとする。
そんなぬいぐるみが私の日々の癒しだ。ぬいぐるみには魅力が溢れている。
私の一人暮らしの家にはスティッチ、おさるのジョージ、ミニーちゃん、ジェラトーニ、こうぺんちゃん、ミニオン、白熊やアザラシ、テディベアなど30を超えるぬいぐるみが住んでいる。彼らの中には、鑑賞用にラックに飾られている子もいるしベッドで抱き枕代わりに使われている子もいる。
2021年10月13日
“メイク”という魔法の正体
目のすぐ近く、瞼に絶妙な長さと太さで線を引く。眠気をこらえながら、目には入らないように、でも目からは離れすぎないように慎重に手を動かす。
朝起きて、歯磨きやお手洗いを済ませた後、朝ご飯の準備をしながら私は毎日20分かけて化粧をする。鏡に向かうその時間は一日をスタートさせるスイッチだ。洗面台に漂ってくる焼けたトーストのにおいと徐々に化粧で彩られる自分の顔が、眠たい私の体を覚ましてくれる。
2021年10月20日
ありのままの自分を表現することは美しい
職場の同期が2年前に天狼院書店という本屋さんの“ライティング・ゼミ”で書いた文章を読み、私は「ああ、美しい」と思った。取り繕うでもなく、自分を誇張するのでもなく、丁寧にありのままの気持ちが表現されたその文章が。
大学受験の時に進路に悩み葛藤したこと。考えれば考えるほど自分自身が何者なのか分からなくなり“模範的な動機”を求められている気がして苦しくなったこと。大学に入学してからいろいろな経験をする中でやりたい分野を見つけることができたこと。そして今はこの進路に進んで良かったと思っていること。その文章には、それらの感情が記されていた。
書かれてから既に2年が経過していた文章だったけれど、その感情は今もなお確かにそこにあって私の心を揺さぶった。
2021年11月3日
料理で愛を伝えたい
「う~ん、美味しい!」
毎日11時半、昼休憩の時間になると、まず私は職場の冷蔵庫へ向かう。電子レンジで温めたお弁当箱を開けると、私は全神経を味覚に集中させ、一口一口、少しずつおかずを口に運ぶ。その度に毎回違った味がして心踊る。「明日も一日頑張って」前日夜の自分からのそんなメッセージが聞こえてくる気がする。つかの間の、仕事から離れられるその時間は、自分にほっと一息つかせてくれる休息の時間だ。
私にとって、お弁当作りはほんの1年ほど前まで未知の世界だった。忙しい夜や朝に、次の日のお昼のことまで考えていられないし、時間が経っても美味しく食べれるメニューを容易するのは難しそうと思っていたから、それまで一度も自分でお弁当を作ったことはなかった。お弁当を始めたきっかけは、コロナだった。
2021年11月10日
サプライズの取扱説明書
「こんな経験初めて。自分のことよく知ってくれているんだなって思って、とても嬉しいよ」
彼の、それまでに見たことのないくらいの嬉しそうな表情には喜びが溢れていた。彼の前には、可愛いラックにティラミス、ケーキ、プリン、マカロン、サンドイッチなどが色とりどりな料理に並んでいた。部屋のおしゃれな雰囲気も相まって、醸し出される上品な空間はお城を彷彿とさせた。
彼の前には、誕生日プレゼントが置かれていた。
このサプライズから遡ること一ヶ月前、相手がもうすぐ誕生日だから何か出来ないだろうかと考えていた。職場の同期が仕事の休憩中にアフターヌーンティー専門店の存在を教えてくれたとき、ピンときた。お店のInstagramの写真を見て「このカフェでお祝いしたい!」そう強く思った。マカロンやティラミスなど可愛い洋風なスイーツが好きだと聞いたことがあったから、きっと喜んでくれる。
こうして私のサプライズ計画がスタートした。
2021年11月17日
自分の体調を管理することで生きやすくなった話~低用量ピルを服用してみて~
女性ならば、きっと誰しもが女性ホルモンに振り回された経験があるだろう。「生理前には食欲が抑えられないよね」「生理中ってどうしてもイライラして人にあたってしまうのよね」女性の間では、こんな症状はごく当たり前に語られる。程度に個人差はあるものの、生理や女性ホルモンの周期は女性の体や心に様々な影響を及ぼす。自分のコントロールできないところで。
私自身も、そのホルモンバランスに長く振り回されてきた。私には、生理前に理由なく悲しくなる期間があった。その時期には、誘因なく突然、とてつもない不安が自分を襲い、生きている意味を感じられなくなった。その憂鬱な時期は生理の始まりとともに嘘だったかのように改善した。
2021年12月1日
美しい傷~患者さまの一生に寄り添うものだからこそ~
「うん。美しいストマ(人工肛門)になったね」
手術中、前に立つ上司の先生が満足そうな表情で言った。その発言を聞いた時、私は“肛門”に“美しい”という表現を使うことに驚いた。肛門は便の通る場所である。その形に美しいとか美しくないとかあるのだろうか。
皆様は、おへその横に便の出口を作る“人工肛門”というものをご存じだろうか。人工肛門をつけている方向けに、多目的トイレにシャワーが設置されているのを見たことがある方もいるかもしれない。
人間は、口から入った食べ物が食道、胃、小腸、大腸と一本の管を通って便として出るように出来ている。それが大腸や小腸などで詰まると、腹痛や気持ち悪さ、吐き気の原因になる。その状態が続くと、腸がパンパンになり、酷いときには腸が破裂してしまう。そのため、腸が狭窄してしまった患者さんにはなるべく早く詰まりを解消してあげることが必要だ。狭窄より手前の腸管を切り、お腹の外に出すことで便の出口を作るのが“人工肛門”だ。ちなみに、肛門括約筋という排便をつかさどる筋肉はお腹にはないため、出した腸管の先はパウチをつけ、便はそこに溜めていく。
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