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運命の輪 第1章 第2話
第2話 信じるという呪い
1.同級生との再会
「紗枝?」
声をかけられ、私はゆっくり顔を上げた。
「…明日美」
そこには高校時代と変わらない雰囲気の明日美が立っていた。
彼女は私を見て、懐かしそうに微笑んだ。
「久しぶりだね」
「うん…なんか緊張する」
私は、手元のカップをぎゅっと握りしめる。
本当は、こんな形で会いたかったわけじゃない。でも、もう誰にも相談できなかった。
「それで、今日はどんな相談?」
彼女は私の目をまっすぐ見つめる。
「…彼氏と結婚できるか知りたくて」
私がそう言うと、明日美の瞳がわずかに揺れた気がした。
けれど、何も言わずにカードを取り出し、シャッフルを始める。
「どんな結果が出ても、正直に伝えるけどいい?」
「うん…」
私はこくりと頷いた。
何度も繰り返した言葉——「彼は奥さんとは終わってる」「もうすぐ一緒になれる」
それを、占いで証明してほしかった。
でも、並んだカードを見た瞬間、明日美の表情が僅かに曇った。
2.突きつけられた現実
「…あまり良い結果ではないよ」
「えっ…」
胸がどくんと跳ねる。
「『塔』が出てる。築き上げたものが突然壊れる暗示」
「…」
「それから、『悪魔』。これは依存や執着を意味することが多い」
「依存…?」
「うん。そして、最後の『月』。これは不安や迷い、相手に隠し事がある可能性を示してる」
「…隠し事…」
私は奥歯を噛みしめた。
本当は、もう分かっていたのかもしれない。
彼が「奥さんとは終わってる」と言いながら、離婚を先延ばしにし続けていること。
「…ねぇ、紗枝。正直に言って。彼との関係、何か問題があるんじゃない?」
私は、何かを振り払うように小さく笑った。
「…実はね、彼、既婚者なんだ」
明日美の表情が硬くなる。
それでも私は続けた。
「もう3年になるの」
「…3年…?」
「奥さんとは冷めきってるって言ってて、離婚するって…。でも、なかなか進展しなくて」
「それ、本当に離婚するつもりあるの?」
その言葉が胸に突き刺さる。
「あるって言ってる。ただ…仕事が忙しいとか、子どもがまだ小さいとか…」
「その言い訳、3年も続いてるの?」
「…」
どうして、そんな冷静に言えるんだろう。
私は彼を信じているのに。
「…紗枝、私は占い師としてじゃなく、友達として言うね」
明日美の目が、まっすぐ私を捉えていた。
「別れた方がいい」
私は、すぐに言葉を返せなかった。
「でも…」
「彼は離婚しないよ」
「そんなことない。彼は私を愛してるって言ってるし、ちゃんと一緒になるって…」
「だったら、期限を決めたら?」
期限。
「いつまでに離婚するか、ちゃんと約束してもらうの」
「…うん」
私は頷いたけれど、本当は分かっていた。
彼にそんな話をするのが怖いということ。
もし「今は無理だ」と言われたら、どうしよう。
それでも、私は信じるしかなかった。
彼の言葉を、彼の気持ちを。
だって、それを捨てたら、私は何を頼りに生きていけばいいのか分からないから。
私は、彼を信じることしかできなかった。
それが、私自身にかけた呪いだとも知らずに。
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