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運命の輪 第1章 第1話

第1章 運命の輪は回らない


第1話 10年ぶりの再会

1.懐かしい同級生
冬の午後。曇天の空の下、珍しく鳴ったスマートフォンを手に取ると、見覚えのない番号が表示されていた。

「はい?」

少し警戒しながら応じると、電話の向こうから遠慮がちに名乗る声が聞こえた。

「…もしもし、私、紗枝。覚えてる?」

その名前を聞いた瞬間、記憶がさかのぼる。

高校時代の同級生——安河紗枝。決して仲が良かったわけではないが、どこか影のある彼女の姿を鮮明に思い出す。群れることを好まず、けれど孤独ではなく、どこか儚げな雰囲気を纏っていた。

「えっ、紗枝? 久しぶり!」

意外な相手からの突然の連絡に驚きつつも、懐かしさが込み上げる。

「ねぇ、突然で悪いんだけど…占い、お願いできる?」

「占い?」

私は、昼間は会社で事務の仕事をこなし、夜は部屋の灯りを落として、カードを並べていた。誰かの未来を占う、ささやかな副業は、私にとって現実逃避のようなものだった。 その占いに口コミでじわじわと評判が広がってはいたが、まさか高校の同級生が依頼してくるとは思わなかった。

「いいけど…どうしたの?」

「一度見てもらえないかな?」

「いつにする?」

「今日、会えない?」

今日? ずいぶん急だ。よほど切羽詰まった相談なのだろう。

私は時計を確認し、夕方に予定していた作業を後回しにすることにした。

「わかった。じゃあ、カフェでどう?」

こうして、私は十年ぶりに安河紗枝と再会することになった。


2.久しぶりの再会

待ち合わせたのは、駅前のカフェ。大きな窓から外の景色が見える、落ち着いた雰囲気の店だった。

カフェのドアを開けると、奥の席で俯き加減に座っている女性が目に入る。

「紗枝?」

声をかけると、彼女はゆっくり顔を上げた。

「…明日美」

驚くほど、彼女は変わっていなかった。いや、細かく言えば変わっているのだろうが、あの頃と同じように、どこか憂いを帯びた雰囲気を纏っていた。

「久しぶりだね」

「うん…なんか緊張する」

「そんなかしこまらなくても。高校以来だから、十年ぶり?」

「そうだね」

彼女はかすかに微笑む。

私はメニューを開きながら軽く雑談を交わしたが、彼女はどこか上の空だった。会話の端々に、張り詰めたものを感じる。

本題に入った方がいいだろう。

「それで、今日はどんな相談?」

私はカップを置き、彼女の目をじっと見つめた。

「…彼氏と結婚できるか知りたくて」

彼氏と結婚。

単純な恋愛相談ならば、タロットを引くまでもなく、ポジティブな言葉をかければ済むことも多い。

しかし、彼女の表情には迷いや不安が滲んでいた。

「…分かった」

私はバッグからタロットカードを取り出し、テーブルの上に静かに並べる。

「どんな結果が出ても、正直に伝えるけどいい?」

「うん…」

彼女はこくりと頷いた。

私はカードを丁寧にシャッフルし、彼女にカットを促す。

そして、一枚ずつカードをめくる。


3.不吉な暗示

目の前に並んだカードを見た瞬間、胸の奥がざわついた。

「…」

「どう?」

不安げに尋ねる彼女に、一瞬言葉を選ぶ。

「…あまり良い結果ではないよ」

「えっ…」

私は慎重に言葉を続ける。

「『塔』が出てる。これは、破綻や崩壊を示すカード。築き上げたものが突然壊れる暗示」

彼女は息を飲んだ。

「それから、『悪魔』。これは、依存や執着を意味することが多い」

「依存…?」

「うん。そして、最後の『月』。これは不安や迷い、相手に隠し事がある可能性を示唆してる」

「…隠し事…」

彼女はぎゅっと手を握りしめる。

「…ねぇ、紗枝。正直に言って。彼との関係、何か問題があるんじゃない?」

一瞬、彼女の表情が強張った。そして、長い沈黙の後、ぽつりと呟いた。

「…実はね、彼、既婚者なんだ」


4.動かぬ運命の輪

私は息をのんだ。

まさか——そういうことか。

「…もう3年になるの」

彼女は視線を落としたまま続ける。

「奥さんとは冷めきってるって言ってて、離婚するって…でも、なかなか進展しなくて」

私は、深く息を吐いた。

「それ、本当に離婚するつもりあるの?」

「あるって言ってる。ただ…仕事が忙しいとか、子どもがまだ小さいとか…」

「その言い訳、3年も続いてるの?」

彼女は黙る。

「…紗枝、私は占い師としてじゃなく、友達として言うね」

私は、真っ直ぐ彼女を見つめた。

「別れた方がいい」

彼女の瞳が揺れる。

「でも…」

「彼は離婚しないよ」

「そんなことない。彼は私を愛してるって言ってるし、ちゃんと一緒になるって…」

「だったら、期限を決めたら?」

私は淡々と続ける。

「いつまでに離婚するか、ちゃんと約束してもらうの」

「…うん」

彼女はどこか納得していない様子だったが、それ以上私は何も言えなかった。

目の前のカードは、すべてを物語っていた。

運命の輪は、回らない。

このままでは、何も変わらない。

それでも——彼女がそれを信じたくないのなら、私にはもう止めることはできなかった。



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あすみ
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