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カポエイラで、肌の色を超えたブラジルの「黒」人意識
ブラジル黒人意識の11月
(2021年11月26日)
日本のカポエイラ仲間の多大な力を借り、オンラインでコブラ先生(Mestre Cobra Mansa)のワークショップと講義を企画、日本時間明日11月27日夜に開催されることとなった。
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黒人意識の11月をテーマにした講義で東洋人の我々に向けて話をと頼んだら、織田信長の家臣となった黒人の侍弥助の話をしよう!と言い出し、一体どんな講義になることか興味津々。
そんな折に講義の宣伝に使おうかと過去の写真をのぞいていたら、2015年11月、黒人意識の月をテーマにカポエイラを子供達に見せ話しをする企画で、サルヴァドール郊外で比較的低所得層が住む地域の公立学校をいくつかコブラ先生と回った時のものが出て来た。
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世界的に著名な師匠とブラジルでの現実
先生はちょうどとあるイベントで子供とジンガ(カポエイラの基本ステップ)をしただけで、左脚アキレス腱切断してしまうという怪我を負ったばかりで松葉杖状態。45年以上カポエイラで酷使したためかという医師の診断だった。
一日中ミニバスで揺られ歩き回る地味に大変な企画で、報酬はジュースやサンドイッチ。回った学校は全て公立なので予算なども無く、勤めている知り合いの教員に頼まれただけの企画。
一緒に行ったのは、たまたまカポエイラ繋がりでサルヴァドールのキロンボに共同生活していたロシア人女子、チリ&ウルグアイ人男子と私日本人。
黒人意識をテーマにカポエイラを見せるという企画にも関わらず、黒人はカポれない松葉杖のコブラ先生のみ。大半が黒人系の子供と先生たちにカポエイラをやって見せたのは、全員肌が黒くない外国人だった。
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海を超えて繋がるアフリカの魂
バイーアに来てから特にカポエイラは「アフロ」ブラジリアンだと体感した。しかしコブラ先生はじめ1980年代から海外に渡った先駆者の師匠たちの功績もあり、カポエイラは世界中に広まった。
アフロ文化・アフリカ性(africanidade)は肌の色や場所を超えた部分で、世界中の人たちの生の根底にある先祖性(ancestralidade)とでもいうものに触れるので、世界中で人を惹きつけるのかもしれない。
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西洋発のものがいわゆる「文化」の基準・標準となり、主に西洋で発達した科学・技術は我々の生活様式を一変させ、身体も精神までもがいわゆるグローバル化していく傾向は未だ止まらない。
しかしそれを単純に進化・発展としてきたことで、我々どの人種(これも西洋で作られたもの)でも根底にある、生き物としてその風土の中で、生きて死んでいった先祖たち、土地そのものとのと繋がりながらの生活から徐々に切り離されて行った。
カポエイラからアフリカ性に繋がった世界各国の現代人たちは、カポエイラが体現する、生と死のあいだを行き来するかのような感覚から、自分たちの今現在の生命へと繋がる、生と死を超えた先祖性や風土といったものへ繋がり直すのだろう。
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そこには肌の色は各自生き物としてあるのみだし、400年もの奴隷制度を戦って生き抜いてきた人々が作り上げたカポエイラの息吹は、現在、進化・発展を疑わずに必死に生き延びる世界各地の現代人に届き、奴隷とされた過去の人々の精神や魂に触れ、今の私たちの生き様に突き刺さっているのかもしれない。
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師匠の生き様から繋がってゆくもの
カポエイラ界では知らない人がいないほど著名で、世界中からイベントに呼ばれ一見華やかそうに見えるコブラ先生、そしてその他ブラジルの大勢のカポエイラの先生たちも、実は大半がこういう地味で大変だが何も報酬にならないカポエイラの日常を過ごしている。
そして、そんな師匠たちがカポエイラに生涯を捧げたおかげで、カポエイラはアフリカ=ブラジルを超え、肌の色を超え、世界中の人々に届き、現代人をアフリカ性を通してそれぞれの生命の根源といったものへと回帰させる。
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進化・発展・利潤に無関係のレベルで、カポエイラを通して「黒人意識」を子供たちと語り合う肌の色が薄い外人たち、そういう人たちを世界各地からバイーアへと集める力のあるカポエイラ、それを伝えて来た師匠たちの一人としてのコブラ先生。
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オンラインという技術を介し失われる部分も多いが、それでも伝わる、感じることができる部分もカポエイラには大いにある。少なくともリモートで日本のカポエイラ仲間と話し合い企画することで、大いに繋がりができたと感じる。明日の先生のワークショップと講義も、そんな事を振り返りながら楽しみにしている。
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