クラフトビールブームの波を引き寄せた、インドネシアの「経済成長」と「多様性の豊かさ」【Love! Indonesia Crafr Beer】vol.3
大都会の首都ジャカルタで、若者ウォッチング
半年前に渡航していた夫を追いかけて、私は2019年に初めてインドネシアの地に降り立った。当時は首都ジャカルタで夫婦2人だけの生活。「異国での子どものいない専業主婦」は、たっぷりとぜいたくな自由時間を謳歌した。
「よし、歩こう!」散歩が好きだった私は、渡航後1か月ほど家の近所をよく歩いて過ごした。はじめの2週間は紙の地図を片手に、現地用携帯が使えるようになるとGoogle Mapを片手に、一日3時間くらい街並み探訪。てくてく、てくてく、歩く。
ジャカルタの街は、想像以上の大都会だった。外資系企業の高層ビルがずらりと肩を寄せ合い、世界最先端のブランドがデパートに軒を連ねてキラキラ輝く。スタイリッシュなカフェや高級感あふれるレストランもにぎわっているし、スターバックスやマクドナルドなども大盛況している。
ちょうど同年開通した地下鉄MRTは、自動改札だって設置されていて、とても便利。まるで日本のように安心して利用でき、通勤時間は満員だった。道路や建物がいたるところが工事中で、これから栄えていくだろうエリアがいくつもあった。立派な遊歩道もあれば、気を抜いたら車に引かれてしまいそうな道路もあったけど、だいたいは舗装されて歩ける道ではあった。
もちろん、トタン屋根の並ぶ心許ない通りや整備の行き届いていないエリアもある。「むむ、この空気は危ないぞ」と私のレーダーが反応すると、そそくさと引き返した。夜には屋台にたくさんの人たちが押し寄せ、毎日がお祭りのように騒がしかった。街に人が多く、車やバイクも多い。パワーがみなぎっているのが伝わってくる。
散歩に飽き始めた頃、インドネシア語を勉強しようと現地の大学に通い始めた。欲張りな私は、さらに現地の英会話スクールも追加。ここで私は、20代から30代の活気に満ち溢れたインドネシア人の若者たちの姿を、怪しまれない程度にずーっと観察していた(怪しかったかも)。
インドネシアは特にイスラム教の人が多く、大盤のスカーフで髪の毛を覆うヒジャブを身につけている女性をよく目にする。でも若者を中心にヒジャブなしで、明るい髪色やまつ毛エクステ、ネイルなど、オシャレを自由に楽しむ女性の多さに気がつく。1日に7回もあるという礼拝は、する人もしない人もいる。
あれ??
印象的だったのは、英会話スクールで仲良くなった28歳のリア。自分で会社を経営しているという彼女は、私よりずっと上手に英語を話した。天真爛漫で好奇心が強く、人懐っこい。よく笑い、世話好きだった。「ランチしよう!」「ズンバ(エクササイズダンス)をやろう!」「ショッピングに行こう!」「バイクタクシーに乗ろう!」と半ば強引に、私をあちこち連れ回してくれた。
そんなリアも、イスラム教を信仰している。
リアが教えてくれた人気のビアホールは、インドネシア人の若者に人気の店だった。道端では屋台のジュースが約50円くらいなのに、約900円のクラフトビールが店内のあちこちで注文されていた。
リアのお財布の紐は、どうなってるんだ??
クラフトビールブームの舞台を深掘り
右肩上がりの人口と生産年齢が主力の人口構成
ジャカルタで、リアのような若者は珍しくない。そして彼女らのような消費に活発な若者が、今のインドネシアの主力人口なのだ。インドネシアの人口は、中国、インド、アメリカに次ぐ、世界第4位。その数は2億7,000万人に及び、2030年代には3億人に届くのでは、とも言われているそう。
それなのに、人口の平均年齢が20代というからびっくりする。世界第4位の人口の国でありながら、経済を支える生産年齢人口(15〜64歳)の割合がそれ以外の人口の2倍以上!少子高齢化が叫ばれる、日本と比べると状況がまるで違う。人口増加も当面続くともあれば、これからますます経済成長が加速していく姿が簡単に想像できる。
経済成長真っ只中のインドネシア
この豊富な労働人口が消費市場を活性にし、インドネシアの経済成長を促進させている。現に中間所得層が2000年は30%だったのに対し、2020年には70%にまで伸びた。
この20年間で一人当たりGDPはなんと6倍!インドネシアは天然資源が豊富で輸出依存率が低く、若者を中心に国内消費が拡大しているということで、経済基盤も盤石だ。
多様性たっぷりのイマ先生イズム
インドネシアは世界最大の島国国家と言われ、島ごとに文化や習慣、言葉が異なる。民族数は多く40%を占めるジャワ系を中心に主要6民族から成り、しかしその他の民族の比率は30%超。国是にも「多様性の中の統一」を掲げるほど、国民の多様性が豊かだということだ。
大学でイマ先生という女性に、インドネシア語を教わった。彼女は生粋のインドネシア人でイスラム教徒。でもヒジャブは被らず、毎日の礼拝もしていなかった。表情豊かで声が大きく、「おかあちゃん」という言葉の似合う朗らかな先生。
彼女は「朝ごはんはどうしてる?家族は何を食べた?」と私に聞いたので、「私はパンとスープ。夫はいつも何も食べないの」と答えた。私の想定の返事は困った顔で「それは良くないわね」だった。でもイマ先生は弾ける笑顔でこう言った。「彼はそういう習慣の人なのね。無理に食べさせたら、きっと逆に体調を崩しちゃうわ」。
えーー!?
私は想定外の斜め上をいくイマ先生の返事に、とても驚いた。日本であれだけ「朝ごはんは食べましょう」「一日3食、栄養バランスを整えた食事を!」と決まり文句のように言われるのに、えーー!??
しかも私に「無理に食べさせるな」と暗に伝えている。夫のことを慮(おもんぱか)る姿勢にも、相手への配慮が伺える。
でも、そういうことなのだ。インドネシアは多様性が豊かで、許容力が高く、個々の思想や習慣をとても尊重する。それがまざまざと感じられるやり取りで、ここでそれを知っておけて良かったと思う。
クラフトビールブームも、どんと来い!
この「経済成長」と「多様性の豊かさ」が、クラフトビールブームを柔軟に受け入れているインドネシアなんだろうな、と私は考える。閉鎖するのではなく、受け入れる。取り入れて、その存在を認める。そしてそのブームを支えるのは、インドネシア人口の60%を超える経済成長の主力たる元気な若者たちなのだ。
クラフトビールブームは東南アジアでもその片鱗があるという。でも私が注目するのは、8割がビールを飲む習慣がないインドネシアで起こるクラフトビールブームなのだ。私はこのブームの先が、楽しみで仕方がない。
どんな未来が起こるだろうと想像しながら、今宵も一杯。
ぷしゅ!
【参考】
インドネシア基礎データ/外務省
医療国際展開カントリーレポート/経済産業省
【コラム】増え続ける総人口 若い労働力を抱えるインドネシアの未来図とは/インドネシア総合研究所