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誤解だらけの牛飼いの世界
都市伝説!?それとも一般常識!?
酪農・畜産、もっと言えば、チーズだって、
世間から結構な誤解を受けています。
生産現場では当たり前すぎて、特に主張するほど
の事でもないと思っていたのに、SNSに何気なく
投稿したら、随分と拡散された…。
そんな事がよくあります。
・畜産製品は抗生物質まみれ
・畜産は環境に悪い
・ウシは成長ホルモンで肥育されている
・ウシは穀物を沢山食べている
・妊婦はチーズを食べてはいけない
挙げればキリがないですが、生産現場の
人間として、少し解説していきます。
畜産製品は抗生物質まみれ
「家畜を飼育する際には、沢山の抗生物質を使う。」
「肉や乳製品で抗生物質を摂取する事になる。」
「病気になった時に抗生物質が効かなくなる。」
そんな話を聞いた事はありませんか?
では実際の現場では、どれほど抗生物質が
使われているのでしょう?
私の専門である酪農についてのみ、お話します。
基本的に病気にならない限り、抗生物質は使いません。
【牛乳には抗生物質が入ってる?】
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) August 11, 2021
時々「抗生物質まみれの畜産製品」
という表現を見かけます。
もちろん病気になれば、抗生物質
を使います。
ただ抗生物質が検出されなくなる
まで、生乳は廃棄されます。
抗生物質が含まれた生乳では
乳酸菌が増えず、ヨーグルトや
チーズを作る事ができません。 pic.twitter.com/ihdl2WioLY
もちろん、病気になれば抗生物質を使います。
抗生物質は人間にとっても、ウシにとっても、
適切に使えば救えなかった命を救ってくれる
魔法のような薬です。
少し具合が悪そうだな…と思いながら、様子を
見ていたら翌日には息を引き取っていた。
そんな事もあります。
ウシは人間のように「具合が悪い」と主張しないのです。
あの時、すぐに抗生物質を打っておけば、
命をすくえたのに。
そう後悔する事もあります。
もちろん、治療をしている間は牛乳は出荷できません。
搾るけど、捨てなくてはいけないので、酪農家に
とっては損失です。
ごまかして、出荷するなんて事もできません。
なぜなら、集荷のたびに検査をするからです。
牛乳は集荷するたび、抗生物質の検査をします。
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) May 25, 2021
万が一、抗生物質が検出されたら、タンクごと廃棄です。
そもそも、抗生物質が入った牛乳では、物理的にヨーグルト、チーズは作れません。
乳酸菌が増える事ができないので、固まらないのです。 https://t.co/mdO48vG56s
畜産は環境に悪い
「ウシのゲップが温暖化の原因に!」
という話はどうでしょう。
確かに、反芻動物は胃袋の中で草を発酵させて、
メタンガスを出します。
そしてメタンガスは温室効果ガスと呼ばれています。
【メタンガスは本当に牛のせい?】
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) August 4, 2021
牛のゲップで、地球温暖化に!
という話を聞いたことが
ありませんか?
実際は石油採掘国と新興国が
CO2だけでなく、メタン(CH4)
の排出量を増やしています。
これらの国が悪いと言いたいのでは
ありません。
「地球を汚したのは牛ではなく
人間です。」 pic.twitter.com/n1dL2fnxtl
そもそも反芻動物というのなら、野生のエゾシカ
だって、ゲップをしてメタンガスを出します。
不思議な事に畜産を悪者にする人の中には、
害獣駆除を嫌う人もいます。
反芻動物のゲップがいけないのであれば、
「エゾシカをどんどん駆除してメタンガスを減らそう!」
という議論が出てきてもおかしくないのに、
それは聞いた事がありません。
環境問題ではなく、動物愛護の観点から
「畜産や狩猟反対!」なら分かりますが。
もちろん動物愛護の観点からも畜産は悪ではない
と主張できますが、長くなるので、こちらはまた今度。
【野生と家畜、どちらが長生き?】
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) August 3, 2021
種が違うので、単純比較はできませんが、
エゾ鹿の限界寿命は8歳。
乳牛の限界寿命は10歳を越えます。
奈良の鹿はせんべいを
もらっているので、10歳まで生きる。
私たちは牛を必要とし、また必要とされている。
エゾ鹿の年齢と寿命 https://t.co/DoRdELqf8I
そもそもメタンガスはバイオガスプラントが
普及すれば、発電に使えるのです。
火力でもなく、原子力でもない
クリーンエネルギーです。
まだ時代が追いついていないので、メタンガスが
悪者扱いされているだけで、近い将来
「宝」になるポテンシャルを秘めています。
ウシは成長ホルモンで肥育されている
結論として、国産の肉、乳製品であれば、
成長ホルモン剤を使わずに育てられているので、
心配しなくても大丈夫です。
【牛は成長ホルモン剤で肥育している?】
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) August 12, 2021
アメリカ等では肉牛はホルモン剤
を使用して育てられていますが、
日本では認可されていません。
乳牛は太らせ過ぎると、出産の
リスクが高くなるので、そもそも
使うメリットがありません。
抗生物質と同じく、間違えた認識を
持つ人がよくいますね😱💦 pic.twitter.com/YW0lEtJMuT
海外では肉牛の肥育の際に肥育ホルモン剤が
使われていますが、日本では肥育農家が
ホルモン剤を買おうとしなかったのです。
そこでメーカーが認可を求めても、
商売にならないと判断して、申請を
取り下げたのです。
なので今も日本ではホルモン剤の使用に関して、
農水省から認可が下りていません。
成長ホルモン剤を使用した畜産製品の安全に
関しては、諸説ありますが、気になるのであれば、
肉や乳製品は国産を選ぶようにしてください。
ウシは穀物を沢山食べている
皆さんは牛のエサは何だと思いますか?
牧草?それともトウモロコシ?
大きな体のウシだから、穀物を主に食べている
と思っている方もいるのではないでしょうか。
牛は穀物を食べ過ぎると、病気になり、お腹を切って手術しなくてはいけません。
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) January 7, 2021
残念ながら命を落とすことも。
肉やミルクを沢山ほしいから、欲張って、高いエサをやり、治療代をかけた上に大切な牛を死なせる。
そんな農家は経営を続けられないので、存在していません。 https://t.co/h7bgtIGSk2
ウシは体の構造上、穀物を消化するのに
適していません。
もちろん穀物はカロリーがあるので、
食べさせると肉や牛乳が沢山とれます。
ただ私達がカロリーの高い食べ物ばかりを食べる
と病気になるように、ウシも穀物を沢山食べると
病気になるのです。
穀物も少しは食べさせます。
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) January 7, 2021
醤油を作る際の大豆の絞りカスです。
パラパラとふりかけのように少しだけですが。
試しに味見してみたけど・・・これは牛さんに食べてもらったほうがいいかな😅
現場からは以上です! pic.twitter.com/RE3r0yc6uG
さらに穀物と言っても、醤油や大豆油を作る際に
残った粕などもウシたちのエサになります。
これらの産業廃棄物を美味しい肉やミルクに
変えてくれるのです。
北海道の牧場ではデントコーンと呼ばれる
家畜用のトウモロコシも沢山作られています。
これは茎も葉もみんなコンバインで砕き、
サイロに詰めて発酵させます。
人間のように実だけを食べて、残りは全て捨てる
ような贅沢な食べ方はしません。
妊婦はチーズを食べてはいけない
ちょっと番外編。
これもよくある誤解です。
国産のナチュラルチーズは加熱しなくても
妊婦さんに安心して食べていただけます!
【妊娠中はナチュラルチーズNG?】
— ASUKAのチーズ工房@土から喜びを造る人 (@asukacheese) August 8, 2021
原料乳を加熱殺菌しないで
作ったチーズはリステリア菌
による食中毒の危険があるので
妊婦さんは食べるのNGです。
ただ日本ではチーズの原料乳を
加熱殺菌することが
義務づけられているので、
国産ナチュラルチーズは妊婦さん
でも安心して食べられます😃✨
「妊娠中はナチュラルチーズNG」
という話はおそらく、リステリアによる食中毒を
心配しての話だと思います。
フランスではチーズを作る際に原料乳を加熱殺菌
せずにチーズを作ります。
そのためリステリアによる食中毒をおこすことが
あるのです。
妊娠中でなければ、リステリアはとても弱い菌
なので心配する事はありませんが、妊婦さんの
場合は流産や早産に繋がる危険があります。
日本ではチーズ製造の際に加熱殺菌が
義務付けられています。
どうしても心配な場合はピザなど加熱料理で
チーズを楽しんでくださいね。
このように生産者としてはわざわざ発信する事
でもないような常識でも、一般の人にはまだまだ
伝わっていない事が沢山あります。
特に個人が海外の英語記事を翻訳してネットに
投稿できる時代。
多くの誤解が広がる事は当然かもしれません。
だからこそ、生産者として現場の「あたりまえ」を
伝え続けていこうと思います。
「チーズや酪農の話、もっと聞きたい」
という方は、下記のリンクからメルマガに
登録していただければ少しずつウシや
チーズのお話を配信していきますね。
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