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[Photo Story]その3:桜の咲く街で
平日の朝は通勤客が多くてスマホを取り出しニュースを読むのがやっと、
当然電車で座れるはずもない。
ふと顔を上げた際に見える景色は
流れていく沢山の屋根と本日の空の色。
ラッシュの時間帯をかなり過ぎて帰途に着く。
疲れた体をシートに埋め、中吊りなどを眺めては、
何を食べて寝れば胃がもたれないかと考えている。
足早に改札を抜け、閉店ギリギリのスーパーに駆け込む。
線路沿いには川沿いにゆったりと伸びる公園があり、
小さな子供たちが走り、お父さんやお母さんと笑顔を交わしている。
休日はそんな平和な空間。
いつかは行きたいと漠然と考えているが、今日も仕事が待っている。
慌ただしく毎日をやり過ごし、
やっと休みにありついても、結構な長距離の運転に連れ出される。
一人でのドライブは楽しいが、
隣にいるのがどんな人であっても、やはり運転には気を遣う。
ましてや特に行きたいわけでもない場所であれば、苦痛ではないにせよ、
楽しいわけでもない。
そんなありふれた何かに溺れそうになっていた。
自覚症状のない、深い川。
ある時、全部が嫌になって放り出したくなって、会社を半休にした。
クラクラと目眩がしそうだった。
人混みを抜け、職場の近くのいつものカフェに倒れ込むように座り、
いつもよりゆっくりとコーヒーを飲んだ。
ふと思い出したのは川沿いの公園だ。
沢山桜が植えられており、毎年花開く時期には
電車からの眺めであっても、疲れた心に染み入る。
引っ越してから数年経っても、まだたどり着かない景色。
やっと気分が落ち着いた頃には、夕方近かった。
間に合うかな
帰宅ラッシュ前の電車に足早に飛び乗った。
西の空はゆっくりと茜色から墨色を増しており、
もう間に合わないかもしれないと少し影がさした。
到着した頃には、空は浅い闇に包まれていた。
段々闇を増していく中、桜は徐々に光を放っているかのようだった。
人々は語らい、笑い、桜より一層華やかな雰囲気を放っている。
あぁ、別世界だなと思った。
家から徒歩15分ほどの場所に、なぜ今まで来なかったのか、
来れなかったのか。
一緒に住んでいる人に言えなかったからなのか、
言わなかったからなのか。
そんなことはどうでもよかった。
桜はいつもここにあったのだから。