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【しろまる先輩は距離感がおかしい。】20話「ようこそでっかいどうへ」
前のお話▼
◆ ◆ ◆
北海道旅行2日目。
本日の目的地は北海道一の都市札幌だ。移動手段のJRに乗るため、一行は函館駅へと向かったのだが…………………………
「!」
行きしなに、雪音が道端であるものを発見した。
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それは函館から国道5号線を北上した場合における、各都市までの距離表示だった。
書いてあるのは、
長万部 105km
札幌 282km
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函館〜札幌間の280kmという距離を東海道新幹線に当てはめると、東京から愛知県の豊橋の手前まで行けてしまうほどの長さである。
それを同じ都道府県内で完結させてしまっているのだから恐ろしい。
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しかし元道民の先輩からすれば、この距離も大したことがないらしい。でっかいどうの地に来たことで、彼女のおかしな距離感がより際立っている。
「函館とか札幌ってもっとこう、気軽にまとめて観光できるものだと思ってました」
「絵に描いたような北海道初心者発言、いいね」
先輩は、なんだかとても楽しそうだ。
「これから電車で札幌まで行くんですよね?」
「そだよ」
「ちなみにそれってどれくらい時間かかるんですか?」
「特急で4時間弱」
「よっ……」
出発前からお尻が痛くなりそうだ。
◆ ◆ ◆
やって来た函館駅は頭端式のホームが特徴的で、まさに「終着駅」や「ターミナル駅」といった言葉に相応しい構造をしていた。長くカーブしたホームは、青函連絡船時代に超大編成の列車が行き交っていた往時の情景を彷彿とさせる。
そんな豪奢な駅の設備を大幅に持て余し、車止めよりにちょこんと停まっているのが本日の相棒だ。前面の黄色い貫通扉と紫のラインが印象的なキハ261系。札幌行きの特急「北斗」である。
「うぅ……4時間かぁ」
指定席に収まった雪音がこれからの旅路に懸念を抱く。昨日も東京から青森まで新幹線に乗ったが、あちらは贅の極みを尽くしたグランクラスだったため比較するとどうしても劣って見えるのだ。
「川井さん、北海道観光は移動時間に大半を割かなきゃいけないのが運命だからしょうがないよ」
「先輩は移動そのものが好きだから羨ましいです」
「そう。その通り。だから———」
言いながら、先輩はいつの間にか手にしていたビニール袋の中身を座席の背面テーブルに展開した。どうやら、改札前に駅で買った品々のようだ。
内容物は駅弁、
お菓子、
ジュース、
そしてSAPPORO CLASSIC。
「あっ!美味しいビール」
味を覚えた雪音がすかさず食らいつく。
「列車旅は移動中の自由度が高さが取り柄だからね。こうやって楽しんでいかないと」
ブォォオオオオォォォォオオオオォォォォオオオオン!!!
気動車らしくエンジンを唸らせ、北斗は函館を出発した。
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新幹線との接続駅である新函館北斗と駒ヶ岳山麓に広がる大沼公園を過ぎて峠を下ると、進行方向右手の視界が一面の海原に埋め尽くされた。
噴火湾だ。
道南を模る渡島半島は、この噴火湾を抱え込むように「くの字」に折れ曲がっている。
そのため陸路は湾を大きく迂回する必要があり、本来の直線距離であればもっと近いはずの札幌圏と道南地域が余計に遠く感じるのだ。
タタン タタン…… タタン タタン……。
ブォォオオオオォォォォオオオオォォォォオオオオン!!!
タタン タタン…… タタン タタン……。
列車は加減速を繰り返しながら海岸線を縫うように走る。緩急のある走行音も、慣れてくると心地よいものだ。
ブォォオオオオォォォォオオオオォォォォオオオオン!!!
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買い込んだ食べ物にあらかた手をつけ会話が途切れたタイミングで、雪音は以前熱海で出た話題をもう一度掘り返してみた。
車にまつわる話だ。
前回は曖昧に濁されてしまったが、今の心の距離感なら違う反応が得られるかもしれない。
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先輩は一瞬言い淀んでから、続けた。
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「しない。運転はしてない」
返ってきたのは強い否定。
「そ、そうなんですね……」
車の運転をしないという事実は変な情報ではないはずなのに、雪音はなぜか腑に落ちなかった。自分で聞いておきながら、この後の言葉が出てこない。先輩もだんまりを決め込んでいる。
タタン タタン…… タタン タタン……。
2人の間に気まずい空気が流れた時、一定の速度を得ていた列車は惰性走行に興じていた。唸りが止み、線路の繋ぎ目の音だけが車内を包んでいる。
あぁ、今だけはあのけたたましいエンジンが恋しい。
「それちょうだい」
話の流れを変えるように、雪音の思考を断つように、突如先輩が函館で買い出ししたレジ袋をガサゴソと漁り始めた。
「これもらうね」
「ど、どうぞ……」
先輩が取り出したのは、1本だけ残っていたSAPPORO CLASSICだ。普段飲酒をしないはずなのに、これは珍しい。
カシュッ。
ブォォオオオオォォォォオオオオォォォォオオオオン!!!
先輩が缶を開けたと同時、思い出したかのようにエンジンが唸りをあげた。
我々の目指す札幌は、まだ遠い。
(つづく)
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しろまるがハンドルを握らない世界線……?
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