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【しろまる先輩は距離感がおかしい。】23話「旅人に春は来ない」
前のお話▼
◆ ◆ ◆
最近、気になっていることがある。
雪音と同期の男性社員である八森 司が、しろまる先輩と親しくしている場面をよく見かけるのだ。今日も今日とて、2人は昼休憩に給湯室で話し込んでいる。
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旅バカで何を考えているか分からない先輩に限って色恋話があるとは考えにくいが、頑なに自分以外と交友関係を築かなかった彼女が心を開いた相手となれば、興味が湧くのは必然だ。
そもそも、仲睦まじい2人を眺めていると胸に渦巻くこの感情は……
(もしかして、嫉妬?)
ブン、ブンと邪念を振り払い、担当直入に聞いてやることにした。
「お疲れ様でーす。2人とも何の話してたんですか」
「川井さんお疲れ。いまね、今度2人でどこかに出かけようって話してた」
突如会話に乱入した雪音の無礼に顔色ひとつ変えることなく、先輩は棚の上にあった誰かの出張土産の饅頭を頬張りながらがら答えた。
「お……お出かけっ!?それって、つまりデーttt」
予想を一段階上回る返しに、思わず舌が空転する。
「ああ、俺たち意外と相性が良くてね、びっくりしたよ」
次いで司の口から飛び出した単語に、雪音の混乱は頂点に達する。
「相性……? そ、それはどう言ったご関係で……?」
先輩は饅頭の咀嚼で手一杯のため、司が代表して説明する。
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なるほど。そーゆうことか。
「しょうしょう、はちもりのやちゅてちゅどにくわひいし、ひりはいもおほいから……モゴモゴ」
「先輩はとりあえず饅頭飲み込んでから喋ってください」
雪音は、おそるおそる追加で核心的な質問をした。
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司と、饅頭を胃に収め終えた先輩は口を揃えて言う。
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あぁ……(察し)
どうやら雪音の妄想は杞憂だったようだが、むしろ人として別のベクトルで心配になってきた。
しかも、疑念はまだ残っている。
雪音は2個目の饅頭に手を伸ばそうとするしろまる先輩の方を向き、
「なんで今回は雪音じゃなくて司を誘ってるんですか?」
と、問い詰めた。
「あ〜その、、、」
ばつが悪そうに俯いてしまった先輩の代わりに答えたのは、またしても司だった。
「お金がないらしいよ」
(えっ、金欠……って、まさか)
「なんでもここ数ヶ月の旅行で贅沢し過ぎたらしくてさ、2人で格安限界旅行の計画を練ってたんだよ。流石に一般人の川井を過酷な貧乏旅行に巻き込むわけにはいかないから、俺に話がきたみたいで」
雪音には、思い当たる節しかなかった。
雪音と先輩は、先週北海道に行った。
先月は京都にも行った。
そして旅の言い出しっぺがしろまる先輩だったため、旅費の多くを彼女が負担してくれていたのだ。そりゃぁ、金欠にもなる。
「しろまる先輩、今からでも自分の分の旅費払いましょうか?」
「いやいい。旅人に二言はない。それに、お金がなくても遠出はできるから」
先輩は顔をあげて司の顔を見つめた。すると彼は先輩の意思を汲み取って、こう続けた。
「そうですよね。お金がなくても、アレなら問題ありませんもんね。いつにしますか?」
「次の土曜は?」
「空いてますよ」
「どこスタートにする?」
「東京駅でいいんじゃないっすかね」
(あの、あの、あの……)
金欠の話題を皮切りに、再び先輩と司の会話が再スタートしてしまった。なんだこれなんだこれ。
「じゃぁ時間は———
「わ、私も行きますッ!!!」
「「 !? 」」
自分抜きで進行する外出計画にいたたまれなくなった雪音は、話の全容を理解しないまま思わず参加表明をしてしまった。2人の視線が突き刺さる。
「おおめずらしい」
雪音の自発的な姿勢が嬉しかったのか、先輩はご機嫌な様子だ。
「なんだ、川井も来たかったのか。お前も鉄道オタクにならないか」
「ならない。それに私は、司が変な気を起こさないように監視役として同行するだけだから」
「失敬な、俺は鉄道一筋だから浮気なんてしないぞ」
それはそれで、問題である。
「お前らぁ……仕事しろぉ……」
遠くから上司の唯の地を這うような声が聞こえる。
休憩時間は、とっくに終わっていた。
(つづく)
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2人旅はレストランとか温泉旅館とかが利用しやすいメリットがありますね!
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