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【しろまる先輩は距離感がおかしい。】28話「うどん」
前回のお話▼
◆ ◆ ◆
とある昼休憩のこと。
例によってしろまる先輩が唐突な提案をしてきた。
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これまで何度も彼女の誘いを受けてきた雪音には分かる。
この場合の「うどん」が、近所にあるうどん屋のうどんを指しているのではない。と……
「先輩……
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「お、察しがいいね。ほらこれ」
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核心をつかれた先輩が懐から取り出したのは、切符だった。彼女がチケット類を取り出す動作は恒例行事となりつつあり、もはや切符専門の◯ラえもんである。
「東京から……高松。やっぱり!」
券面の文字を音読した雪音が叫ぶ。名物グルメに明るくない雪音でも、香川がうどん県として名を馳せていることくらいは知っている。
「ご想像の通り、四国旅行のお誘いなんだけど、どうかな……?」
「先輩のパターンにはだいぶ流石に慣れてきましたからね。日付もちょうど夏休みみたいですし、いいですよ。行きましょう」
珍しく可及的かつ平和的に旅の誘いを承諾したが、先輩はまだ何か言いたそうにしている。
「川井さんよくみて。ただの切符じゃないよ」
しろえもんに言われて、改めて切符に目を落とす。駅名の下に、列車の発車時刻と日付、そして列車名が記載されていた。
サ ン ラ イ ズ 瀬 戸 。
「さん……らいず……?」
そこに記されていたのは、なんとなく名前だけ聞き覚えがある列車名だった。詳細を知るべく先輩へ視線を送ると、話したくてたまらなかったのか堰を切ったように解説が飛び出した。
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「寝台特急、かぁ……」
先輩の話を聞いた雪音が物思いに耽る。
「川井さん? ……やっぱり普通のホテルがよかった?」
「あ、違うんです。青森でしろまる先輩が夜行列車について語っていた時から、その類の話を聞く度に何か引っかかるというか、思い出すというか……旅行に行くのは楽しいんですけど、大切なものを忘れている気がして」
「なるほどね……旅行っていうのは非日常の世界に飛び込むことだからね。旅をきっかけにみえてくる自分の新しい一面とか過去の記憶もあるよ。もし嫌だったら遠慮なく言ってね。無理には誘わないから」
「ありがとうございます。大丈夫です!」
川井雪音の社会人初の夏休みは、四国行きで決定した。
◆ ◆ ◆
旅行当日。
「「お疲れ様さまでした」」
盆休み前の仕事を納めた雪音と先輩は揃って定時退社を宣言した。あまりの威勢の良さに上司が好奇の視線を向けてくるが、今は気にしない。
無敵の退勤を達成した2人の意識はとっくに日常にはなく、これから向かう旅の目的地に向いているからだ。
彼女らの夏休みは、すでに始まっている。
(つづく)
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サンライズはいいぞ〜
次のお話▼
2025/2/14 更新よてい