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【しろまる先輩は距離感がおかしい。】22話「偉大なる飛行機 -グレートエアプレーン-」

前のお話▼

◆   ◆   ◆

 ご乗車ありがとうございます。新千歳空港です。

 北海道旅行3日目。

 今日は関東へ帰る日だ。

「運河を見てみたい」という雪音ゆきねのリクエストで小樽を観光してから、雪音としろまる先輩は快速電車に揺られて新千歳空港へやってきた。JRが発着する地下ホームから改札階に上がったところで、先輩がクイ、クイと雪音の手を引く。

「川井さん、あれみて」

「?」

新千歳ここの名物、北海道初心者にデカさを分からせる看板だよ」

「えぇ……(困惑)」

 言われた先にあったのは、本州と北海道が重ねられた巨大な地図だ。函館駅前の標識も衝撃的だったが、こうして身近な距離感と対比されるとよりサイズ感が分かりやすい。

北海道———デカすぎる。

「はじめての北海道はどうだった?」

 先輩がこちらの顔色を伺うように聞いてくる。

「楽しかった……というより、自分の無知と視野の狭さが身に沁みました。同じ日本なのに、まだまだ知らない世界がたくさんあるんだなって」

 先輩はウン、ウンと頷いた。

「わたしも初めて北海道に来た時、同じことを思ったよ。海を超えて到達した時の喜びと独特な世界観……あとこのめちゃくちゃな距離感がクセになるよね」

「わかります」

「また来たい?」

 雪音は目の前の地図をまじまじと見つめた。今回の旅で訪れた函館から札幌というエリアは、北海道の左下にある出っ張りの部分だ。あれだけ移動したはずなのに道内にはまだまだ未踏の地があり、探究心が掻き立てられる。

「はい。また来たいです!」

「そっか。よかった」

「今度は、先輩が住んでたっていう稚内わっかないとかも行ってみたいです」

「……そうだね。稚内ね、遠いけどね、、、」

・ ・ ・

 ポーン、ポーン。 ポーン、ポーン。

 ジェットエンジンの回転数が上がり、機体がビリビリと軋みながら速度を上げた。

 背中をぐぅぅぅううっとシートに押さえつけらる力が徐々に増し、最大に達したところで浮遊感へと変わった。

 窓から3日間過ごした北の大地が離れていくのが見える。

 さようなら北海道。

 雪音と旅の思い出を乗せて、飛行機は新千歳を飛び立った

 ポーン。

 離陸からしばらくしてシートベルト着用のサインが消えた。機体が安定飛行を開始したようだ。

 雪音は窓の外を見た。

 地上の天気は好ましくない様子で、眼下には一面の雲海が広がっている。視界の奥では今日という日と旅の終わりを告げるように太陽が沈みかけていた。下界の自然現象に囚われずに悠々と大空を飛ぶ航空機は、人智と不可知ふかちの境界を垣間見れる一般人の最高到達点だ。

 陸路、海路、空路、それぞれに良さがあると思った雪音は、隣の席に座る先輩に向き直った。

「そういえば、結局帰りは飛行機なんですね。しろまる先輩のことだから、てっきり1日かけて電車で帰るとか言い出すのかと思ってました」

 ああ、それね。と言わんばかりに拳の側面で手のひらを打ってから、先輩は答えた。

「本当は行きと違う鉄道ルートか長距離フェリーにしたかったんだけどね……今回は仕方なく飛行機だよ……」

「仕方なくで飛行機乗る人初めてみましたよ」

 雪音が首をかしげる。

「まぁ、移動を目的にするタイプの人間は交通手段の優先順位が一般人と真逆だからね」

「お金はあるけど時間がない社会人は、必然的に移動時間を削るしかないってことよ。明日の今頃は定時で帰れてるといいね」

「あっ」

「なに」

「せっかく忘れてたのに、仕事の話しないで下さいよぉ」

「ごめんて」

 旅行中に現実を突きつける行為は、極めて重罪である。

◆   ◆   ◆

 ポーン。

 皆様、当機はただいま東京国際空港に到着しました。

「早っ!」「飛行機早っ!」

 東京はねだへ着陸後、雪音と先輩は座席に座ったまま驚きを口にした。往路で1日半かけた距離をわずか1時間半でワープした飛行機の速さは、まるでタイムマシンのような体感速度だった。

 初めての北海道。
 初めての乗り物。
 初めてのグルメ。

 先輩に引率されるがまま駆け巡った3日間ではあったが、前もって計画されたしろまるツーリズムの行程は特殊ながらも的を射ていて、雪音の初渡道とどうをより味わい深いものへと昇華していた。

 そして。

 降機後にボーディングブリッジを歩くしろまる先輩の背中を見ながら、雪音は今回の旅で得た確証を脳内で反芻した。

(つづく)

【22話 偉大なる飛行機】

安いけど時間を要する移動手段は食費と宿代がかかるので、結局飛行機や新幹線がコスパ◎

次のお話▼

#しろまる先輩は距離感がおかしい
#一次創作

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