さかしたひかるの話

いちばん好きなのはドミコです。
もう何年も、好きな音楽について聞かれたときには
こう答えている。

昔から興味のままに音楽を聴きまくり、
どっぷりはまっては飽きてつぎへ、またはまってはつぎへ
というのを数ヶ月スパンで繰り返していた私にとって、
これって実はすごいことだったりする。

はじめてドミコを聴いたのは、広島に住んでいたときだった。
真夏、大阪から友だちが遊びにきてくれて、
家の近くの河川敷の、橋の影になったところで寝転びながら
その子がiPhoneで「怪獣たちは」を流してくれた。

だらんとした曲調と、日本語なのにぜんぜん聴きとれない歌詞。
ガシャガシャでザラザラ、サイケなのかガレージなのか、なにもかもよくわからないけど
じめっとした風が吹いているなかで、仰向けになって聴くドミコの音楽は、とにかくよかった。

それからというもの、私はドミコに夢中になった。

ファーストアルバムから最新シングルまで全曲聴いて
手づくり感が愛おしいミュージックビデオも全部見た。
あらゆるメディアのインタビュー記事を読み漁った。

小学生のころに父の影響でBON JOVI、Mr.BIG、Avril Lavigne、
中学生のころはSex Pistols、RAMONES、GREENDAY、Tommy Heavenly6。
高校生のころには典型的な邦楽ロック好きになり、銀杏BOYZにアジカン、東京事変、Shout it Out、
専門学校に通いながらMy Hair is Bad、クリープハイプ、爆弾ジョニー…などなど、
メッセージ性の強い音楽ばかり辿ってきた私に、
価値観が変わるくらいの衝撃を与えたさかしたひかるのことばがある。

「音楽で何かを訴えかけるのって、めっちゃダサい。」 

あんまり歌詞に意味を持たせたくない、とか、
“まどろまない”というときの舌の動きが気持ちよくて歌にした、とか、
記事や番組で語られてきたことば一つひとつの引力に私は強烈に惹かれた。

DENIMSとの2マンで広島に来るということを直前に知り、
18時開演なのに18時半まで仕事して、広島駅から市バスに乗って、
大急ぎで4.14というライブハウスに向かった。

バス停から走って、地下に続く階段を降りる。
カッティングがなんとも気持ちいい、マカロニグラタンのイントロが爆音で響くなか、歌詞通りみるみる伝う心拍数を感じながら、
人をかき分けてできるかぎりステージに近づいた。
さかしたひかるが歌っていた。

私のはじめてのドミコのライブは、たったの10分くらい。
圧倒するだけ圧倒して、何ごともなかったかのように去っていってしまったけど、
階段を駆け下りながらドミコの音楽に突進したこの日のことはずっと忘れないと思う。

それからTENDOUJIとの2マンを聞きつけ、高松TOONICEへ。
Domicoネオンが点灯して、クリムゾンのEasy Moneyが地響きみたいに流れ、ぬるっとふたりが出てくるオープニング。
弦に指を滑らせる音も、数えきれないくらいのエフェクターを足で踏む音も、息遣いも直にきこえてくるような距離感。

ドミコはほとんどMCをしない。
だれの得にも損にもならないような嘘をたまについたりするくらい。
お客さんを煽るようなことも一切しない。
でもこちらは勝手に骨抜きにされてしまう。

なにかのインタビューの中でさかしたひかるは、
音楽を好きになるときは、それをつくっている人そのものも好きになることが多い、と言っていた。
たとえば奥田民生は、バンドマンでも、アーティストでも、ボーカリストでもない。そういう肩書きが似つかわしくない。奥田民生は、奥田民生でしかない、と。

私は、さかしたひかるもきっと、そういう好かれ方をする人なんだろうなと思う。

バンドかどうかわからない。
曲もなんのジャンルかわからない。
日本語かどうかもわからない。
ドミコはドミコという分類だし、さかしたひかるは、さかしたひかるでしかない。(というか、こんな考察をされることすら嫌がりそう)

わからないけど、だからって解明したいとも思わないし、なんならずっとはぐらかされていたい。
わからないから、だからずっと好きでいられるんだと思う。

TENDOUJIもHelsinki Lambda Clubも、
最近はK-POPも大好きだけど、
いちばん好きなのは、ドミコです。

#ドミコ
#さかしたひかる

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