それでもニンゲンは生きてゆく #同じテーマで小説を書こう

この星が人間のことなんて忘れてから、もう十年がたった。

植物が異常成長し、ビルは植物に呑まれ、緑色じゃない大地は衛星から見えなくなり、この星は本当に緑の惑星となった。

そんな世の中でも、存外何とか人は生きてはいた。

よくわからない現象にてんやわんやだった国々も、人類が滅びるかどうかの瀬戸際になったら、それなりに協力はできたのだった。

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ベッドの上で目が覚めた私は、まずトイレに行った。

この世界になって変わったことと言えば、紙製品だとか、木に関わる品物とかがすこぶる安くなったことだった。

木もバンバン生えてくるし、桃栗三年柿八年どころか桃栗三週柿八週になったし。

トイレから出て、もろもろの出社の準備を終えた私は家を出た。

家を出ると目に入るのは一面の緑、大体の建物やら何やらが蔦とかに覆われてる。冬になれば大抵枯れて、元の壁が見えるけど。

少し肌寒い、もう5月の中旬なのに。

少しだけ走って、体を温める。

途中、何度かヒールが植物に絡まったけど、転ばずに済んだ。

電車で会社へと向かう。

先頭車両に、火炎放射器とチェーンソー、もろもろ植物を焼き払うだの薙ぎ払うだの巨大昆虫を追い払うだのの装備を搭載した文字通り戦闘車両の電車。

こんな世界になっても人類はまだ律義に時間を守っているのだ、こんな電車を作ってまで。

会社に着くまで2度、異常進化したキノコだとかに寄生された人間の成れの果てと戦闘、死体は携帯火炎放射器で焼き払った。

そのせいか、会社に着くのに5分遅刻し、上司に怒られた。

あの禿げ親父、私の言い分を何も聞きやしない。その頭キノコかコケにでも寄生されればいいのに。

デスクワークをこなし、昼食の時間、同僚と他愛もない話をしながらお弁当を食べた。

仕事を再開、今日はノー残業デーだから、それまでにキリのいいところまで仕上げなければいけない。

仕事を終えて会社を出たら、雨が降っていた。

天気予報じゃ、雨は降らないとか言っていたのに。

近くのコンビニで、傘でも買おうかと思ったら、会社のビルの横に、ブロッコリーが生えていた。

誰かの食べ残しだのなんだのが、ここで成長でもしたのだろうか。

ちょうどいい、傘を買うのももったいなかったし、あのブロッコリーを傘代わりにしよう。

腰につけていた鉈でブロッコリーを切り倒す。

「……明らかにデカすぎたかなぁ」

両腕で、ブロッコリーを抱えながら歩く。

鞄は紐を腕に通して無理やり持っていた。

『人類がプラントハザードを乗り越え2年が経ちました』

どこかのビルに埋め込まれた画面にニュースが映されていた。

『異常成長した植物から逃れるため、人類は新たなステージへと進みました。そう、植物との共生です!』

小学校で習うようなニュースが流れていた。今度の共生記念日に向けたニュースなんだろう。

『手術によって、植物と共生した人類は、植物に呑みこまれることもなく、更に、寿命も延び、その上身体能力の強化、植物の特性なども取り入れることが可能になりました』

皆、画面に目もくれず歩く。

『これから技術の発展によって、更に人間は強く!逞しく!力強く生き延び、かつての世界の如き繁栄を取り戻すでしょう』

「フッ、人間ね…」

もう、人間なんてどこにもいないのに。

髪は緑色、肌も薄く緑がかって、血管がまるで根っこみたい。

交尾なんてできなくなって、子供が欲しくなったら腕におしべとめしべを生やして受粉、塩分も取れなくなった。

一部の食虫植物と共生した人だけが、研究所で育てられるクローンアニマルを食べている。

冬になったら木と共生した人以外は春になるまで寝続ける。

これが人間?これでも人間?

植物に乗っ取られてるのと変わりないじゃない。

誰もが、あの声高にニュースを読み上げているニュースキャスターも、そんなことに気づいている。

それでも、私たちは生きている。

そんな矛盾を無理やり飲み込んで。

それが、人間だから。

その矛盾を呑み込めてこそ人間だから。

その人間性だけは、捨てられないから。

私たちは、今日も人間と植物の狭間で生きている。


「…このブロッコリーサラダにしたら何人分になるかしら」