俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。
俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。
そしてめでたく本日、オリンピックが再開される運びとなった。
今この世界に生きるほぼ全ての人類がそれをめでたく思っていた。
そしてここに、それを祝わぬ奴らがいた。
無論、俺たち家族+愛犬のポチ助だ。
最初聖火が家に安置されると聞いた時は、困惑と誇らしさが胸に去来したのを覚えている。
だが、それは安置後一週間で消えた。
たまたま聖火に近づいた愛猫のタマ吉が、聖火の火の粉に触れた瞬間、原子レベルにまで分解された。
なんだこれは、腐っても神の与えた火ということか。
そして半年間、必死に燃料を絶やさず、必要以上に近づかず、火を守り続けた。
そして、この有り様だ!
装甲車のナビのテレビが、新国立競技場の、聖火を灯すはずだった台座があったはずの場所に、我が家がある様を全世界に写し出した。
お偉いさんが、聖火の預かり最終日に「聖火が貴方たちの家に座標が固定されているために、トーチに移せませんでした」と言い、すぐに「という訳で貴方の家ごと聖火を運ばせて頂きます」とほざいたと思ったら、スーツ姿の役人が、素手で我が家を持ち上げやがった。
それを唖然として見ていた俺らは、何も出来ず、ただ家を持ち去られるのを見ている事しかできなかった。
そして聖火リレー、どいつもこいつも老若男女全員が我が家ごと聖火を運びやがった。
なんだお前ら、いつの間に俺たち家族は別世界に来ていたんだ。
役所に何度話をしに行っても取り合わず、全世界が俺たち家族に泣き寝入りしろと強要している。
だが、諦めてなるものか。
自衛隊から奪った装甲車、それに俺たちはいる。
全員、諦めていない。
ポチ助もタマ吉の残したマタタビをキめ「アーイイ…」と臨戦態勢だ、いつの間に話せるようになったんだテメー。
「始めよう、みんな」
俺はアクセルを踏んだ。
敵は世界、だが相手にとって不足無し。
さあ、今こそ始めよう、俺たちの聖火リレーを。