
ザ・ストーム・アンド・カーネイジ・インサイド・マイ・ヘッド#3
「息子が、どれだけ多くの女性たちに惨いことをしていたかは理解していました」男の前で年老いた男がドゲザをしていた。「ですが、妻の忘れ形見で、私自身年を取ってからの一人息子で…深く注意をすることができませんでした」
男の鼻腔をセンコの香りがくすぐる。ドゲザする男の後方。広いリビングの片隅に置かれたオブツダンには、中年の女性が穏やかな笑みを浮かべた写真立てが置かれていた。「息子の死が、息子の行いによるインガオホーだと言われたら、反論はできません。受け止めましょう…ですが…!」
「キンジロを殺した犯人が何の裁きも受けないということだけは、我慢が出来ないのです…!」顔を上げた年老いた男の顔は憤怒と悲しみに彩られていた。「私自身、裏社会の人間とはそれなりの付き合いからわかるのです。あの残虐さ…息子を殺したのはニンジャだと!」
「市警では恐らく対処できません。設立が噂されているハイデッカーなる部署も…」年老いた男は、男の前に小切手を差し出した。そこには過剰なまでの額が書かれていた。「貴方が私の依頼に気乗りしていないのは理解してます。ですが、どうか…!どうか…!」
男、イチロー・モリタは眼を閉じ、数秒の逡巡の後、小切手を受け取った。「よかろう」
【ザ・ストーム・アンド・カーネイジ・インサイド・マイ・ヘッド#3】
「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーとメガロマニアのチョップが激突!衝突によって生じた衝撃波により、割れ残った窓ガラスは全て外部へと吹き飛ばされた!BLAMBLAM!パラケルススの放った弾丸は二発!ケンゴの頭部とパラケルススのコメカミ!∽∽∽無駄だ!∽∽∽だが!
「ヌゥッ!?」ニンジャスレイヤーとパラケルススのぶつかり合ったはずのチョップの腕が、突如空を切る!「イヤーッ!」メガロマニアは瞬時にケンゴの前に現れ弾丸を弾き、そしてパラケルススの目の前に再出現!頭部めがけトゥーキックを放つ!
「イヤーッ!」パラケルススはブリッジ回避!BLAM!そしてノールック射撃!「イヤーッ!」メガロマニア消失!ニンジャスレイヤーの眼前に出現し、その手に握るカタナで逆袈裟切りを放つ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは屈み回避!∽∽∽俺の振るうカタナは雷のごとき速さだ!∽∽∽
「イヤーッ!」だが、振り上げたはずのカタナはゼロコンマ数秒の猶予もなく袈裟切りとして返って来た!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブレーサーで受け流す!∽∽∽ならばこうだ!∽∽∽突如、室内に響く唸り声!いや、機械の駆動音!カタナは既に電熱を帯びた電動ノコギリへと変化していた!
電動ノコギリはブレーサーを切断し始める!このままでは腕ごと切断するだろう!「ヌゥー!」カウンターか?いや、回避!ニンジャスレイヤーは即座にブレーサーを外し離脱!その直後、ブレーサーは切断され、電動ノコギリはペントハウスの床を切断し始める!∽∽∽小癪な真似を!∽∽∽
「そのガキを守るってことは、ソイツを殺せばお前も爆発四散するって事だろ!」BLAMBLAMBLAM!四方八方にばら撒かれる改造チャカの弾丸!
キィンガキンバキン!弾丸は跳弾を重ね、一点を狙う!トリップし続けるケンゴを!BLAMBLAM!そして引かれるデッカーガンの論理トリガー!全ての弾丸は一切の乱れなくケンゴの急所を狙う!∽∽∽だから、無駄だと言っただろう!∽∽∽
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」再びケンゴの目前に出現するメガロマニア!するとその肉体が変形し、多腕と化し周囲にパンチを放ち弾丸を叩き落す!パラケルススは歯噛みし、警棒を取り出す!警棒は電光を帯びる!違法改造警棒だ!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」ぶつかり合うパラケルススとメガロマニア!(((グググ…まさかかようなタイガーオブハリコが現れるとは)))その時、ニンジャスレイヤーのニューロンに邪悪な声が響く。ナラク・ニンジャ。(ナラク。この者のジツはなんだ)
(((…あれは、ブンシン・ジツの亜流よ。あの呆けているコワッパこそが生きた投影機。奴さえ殺せば済む話よ)))「イヤーッ!」「イヤーッ!」メガロマニアは警棒の電流を受けようとも堪えるような素振り無し!ナラクの言葉を証明するかのように、生物的な反応を返さない!
(((かのジツは、知恵ある者ならば誰もが脳髄に飼いならす誇大の虚妄の獣を外に放つジツ。本質的には妄想の手慰みよ)))二人のニンジャの争いの傍でトリップし続ける青年。彼こそがメガロマニアの本体か。
(((だが、フジキド。警戒せよ。地水火風すべてのエテルによって形作られた虚妄の影は、コワッパの願うが通り変幻自在。怪力乱神)))「ハハハ!」メガロマニアの両腕が炎を帯びたブレーサーを纏う!(((制するは骨が折れるぞ!)))
「イヤーッ!」「グゥーッ!」パラケルススは炎を帯びたメガロマニアの両腕から放たれるラッシュを紙一重で躱し続ける!彼の纏うコートが少しずつ焼き焦がされる!「イヤーッ!」パラケルススも警棒で攻撃を繰り出す!しかし、いくら当てようともメガロマニアには何の痛痒も与えられない!
∽∽∽無駄だ!無駄だ!俺は何者にも殺せない!∽∽∽「イヤーッ!」「グワーッ!」遂にメガロマニアの拳がパラケルススの脇腹に当たる!肉の焦げる臭いが漂う!「イヤーッ!」パラケルススはメガロマニアを蹴り、距離を取る。だが既に跳んだ先の上空にメガロマニア!
「イヤーッ!」その腕には稲妻を帯びた槍!このままではパラケルススは縫い留められ、臓腑を稲妻が焼き焦がすだろう!パラケルススは、内ポケットからダガーを取り出さんとする!しかし、焼かれた脇腹の痛みに動きが鈍り、間に合わない!「死ね!パラケルスス=サン!死ね!」「イヤーッ!」
メガロマニアの突き出した槍は、パラケルススを貫く寸前で横に振るわれた!そこには、カマキリ・トビゲリを放つニンジャスレイヤー!槍がニンジャスレイヤーを薙ぎ払うより早く、ニンジャスレイヤーの足がメガロマニアの脇腹にめり込みだす!∽∽∽俺が窮地に陥ることなど無い∽∽∽しかし!
数ミリめり込んだ瞬間メガロマニアは消失!ニンジャスレイヤーの足は勢いそのままに床を破砕!片足が半ばまで沈む!違法耐久性評価か!「イヤーッ!」メガロマニアは両足で床を踏みしめ、両手剣でニンジャスレイヤーを両断せしめんとする!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは上体を低くし、半ばまで沈んだ足を無理矢理回転!そして放たれるは!おお!メイアルーアジコンパッソ!「グワッ!」メガロマニアは視界外からの一撃をついに喰らう!そして消失し、ケンゴの傍へと姿を現す。
姿を現したメガロマニアには、特に傷を負った様子はない。∽∽∽一撃を喰らった?この俺が?∽∽∽だが、纏う雰囲気は一変していた。∽∽∽常勝を約束された俺が?ありとあらゆる立ちふさがる者を容易く轢殺し栄光を掴む俺が?∽∽∽メガロマニアのメンポが、落ちた。
「おのれおのれ!∽∽∽オノレオノレ∽∽∽小癪な小癪な∽∽∽下賤なウジムシが∽∽∽この俺によくもカラテを喰らわせるという∽∽∽死刑に値する!∽∽∽殺す殺す殺す殺す∽∽∽もうこれ以上お前のカラテを喰らってたまるか∽∽∽俺は誰よりも強く素晴らしィィィィィィィ!」
メガロマニアの、破壊されたソファの残骸に座り続ける青年と同じ顔にいくつも口が生まれ、罵詈雑言と自画自賛、呪いの言葉を吐き続ける!コワイ!「イヤーッ!」メガロマニアは、ニンジャスレイヤーに向かって突撃を開始した!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは目前の異形ジツ生成ブンシンを前に、冷静に攻撃を捌く。彼は、幾度かの攻防により目の前の存在、ジツについて理解を深めていた。
まず、メガロマニアは自身にとって不利になるか有利になるなら、姿を消しこちらの不利になる行動を取る。そして、少なくとも攻撃の動作が必要だということ。ナラクの言う通り、まさしく虚妄。青年の頭の中が文字通り投影されたもの。影絵と戦うに等しい。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの四方八方に姿を現し、攻撃を繰り返すメガロマニア!しかし、ニンジャスレイヤーはその全てを受け流し、捌く。
ニンジャスレイヤーの今までの戦いの経験が、多数のニンジャを同時に相手取った経験が彼の身を助けていた。対して、メガロマニアは?「クソが∽∽∽クソが∽∽∽クソがァァァ!」その攻撃は単純そのもの。突然現れては姿を消し、相手が意識していないだろうと思う場所に出現しカラテを振るうだけ。
メガロマニアを作り出している青年、彼にとってメガロマニアが彼の想像しうる最強の存在なのだろう。だがそれは、あくまでも妄想。一切の経験を伴わない頭の中の物語の主人公。このイクサが始まるまでは。
「シネヤオラァァァァァァ!」慣れないヤクザスラングと共にメガロマニアが放ったのは、メイアルーアジコンパッソ!それはニンジャスレイヤーの腕に当たり少なくないダメージを与えた。その動きは、ニンジャスレイヤーの放ったそれとわずかながらにダブった。
そう、メガロマニアのカラテのワザマエは、少しずつ上がり始めていた。中身の伴わない妄想と物語に、経験が追いつき始めている。ニンジャスレイヤーらとのカラテの応酬で、成長し始めている。「アアアアアア!」このまま戦えば、いずれはニンジャスレイヤーの影を踏むだろう!
その前に、倒す!「スゥーッ!ハァーッ!」メガロマニアの猛攻を捌き行うはチャドーの呼吸!ニンジャスレイヤーが何かを行おうとしているのを感じ取り、メガロマニアは冷静さを取り戻したかニンジャスレイヤーから距離を取る。その手に握られるはデッカーガン!「死ね…!」
メガロマニアが引き金を引かんとした瞬間、その視界の端に鈍く光る刃!「ッ!」咄嗟に首を逸らし、飛んできた方向を見てしまった。そこには、脇腹を抑え、片腕を伸ばしたパラケルスス。床に、ダガーの転がる音が響きメガロマニアは目を見開く。ニンジャスレイヤー…!パ ア ン。
ニンジャスレイヤーは既に、メガロマニアの後方にいた。奇妙な破裂音の正体を探ろうとし、メガロマニアは自身の肉体が砕けていく感覚に気づき、驚愕した。「アバーッ!」全身がバラバラに崩れ、そして床に当たる端から光の粒子となり、メガロマニアは消滅した。
「フゥーッ…!」ニンジャスレイヤーは息を吐き出しザンシンした。チャドー奥義アラシノケン。メガロマニアが背後から攻撃してくる気配もない。部屋に残されたのは、ニンジャスレイヤー、パラケルスス。そして。「あー…あ、僕…」トリップし続けている青年、ケンゴだ。
ニンジャスレイヤーはカラテを構えながら、ケンゴに近づく。BLAM!その足元に、銃弾が一発。「悪いがニンジャスレイヤー=サン。そいつは俺が、いや49課がいただく」パラケルススが、デッカーガンを構えゆっくりとケンゴに近づく。
「…オヌシはこの男をどうするつもりだ」「無論、逮捕する。だが、途中で暴れるようなら射殺する」パラケルススの言葉には、一切の淀みがない。「アンタこそ、どうする気だ?」「…この男を殺す。だが、その前に問う。殺した者たちへの申し訳の言葉があるかを」
「は!遺族にでも雇われた口か。悪いがこっちは公権力だ。アンタにやるつもりはない」パラケルススは歩みを進める。既に脇腹の痛みも癒えたか、歩みはしっかりとしたものだった。ニンジャスレイヤーは動かない。距離がタタミ三枚。二枚。一枚。∽ァァアア!!!
アアアアアア!!!」」」その時、部屋の数か所から叫び声!「「ッ!」」パラケルススとニンジャスレイヤーは背中合わせになり周囲を見た。「コロスゥゥゥゥゥゥウ!」「オレハマケナイィィィィィイイイ!」「オレハカミダァァァアアア!」半狂乱のメガロマニアが三人!
あくまでニンジャスレイヤーが打倒したのはケンゴが生み出したメガロマニア!ケンゴ本人を殺さぬ限り、メガロマニアは幾度でも現れる!「チッ!」パラケルススは舌打ちし、デッカーガンの銃口をケンゴに向ける!
「「アアアアア!」」さらにメガロマニアが出現!ジャンキーめいた表情でパラケルススに飛び掛かる!一度の敗北を経て圧し折られた自尊心を回復させるために、なりふり構わぬつもりか!さらにメガロマニアの数は増え、その全てが二人に襲い掛かる!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤッ…グワー!」回避を試みるも、あまりに多勢に無勢!パラケルススは徐々に切り裂かれ、殴られ、貫かれ、焼かれ、凍てつく!なおも増え続けるメガロマニア!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーも増え続け襲い来るメガロマニアの波にカラテを振るい、スリケンを放ち迎撃する!なおも増殖を続け襲い来るメガロマニアの群れ!
ニンジャスレイヤーのニューロンにて邪悪な熱が鎌首をもたげる。ヘルタツマキにて、背後のニンジャごとメガロマニアの群れと本体を皆殺しにせよ!(黙れナラク!)ヘルタツマキでは恐らくメガロマニアの群れを越え、本体の青年に届く可能性は低い!
ツヨイ・スリケンでなければメガロマニアの妨害を越えることは厳しい。だが、力を集中させる猶予が無ければ、威力が乗りきらず数体のメガロマニアを貫いて威力を失うだろう!少なくとも1秒、メガロマニアのカラテの雨がやまねば…!
その時、あれほど暴れ狂っていたメガロマニアたちの動きが止まった。その首は、一点を向いていた。ニンジャスレイヤーらも、メガロマニアたちが見ているものを見た。青年、ケンゴが割れた窓の傍に立ち、そこから身を投げ出すのを。
「「「「「ヤメロー!」」」」」飛び降りたケンゴを追ってか、メガロマニアらは姿を消す!逃走か?それとも予期せぬアクシデントが?「イヤーッ!」だが考える暇など無い!ニンジャスレイヤーも窓の外へ!摩天楼からネオサイタマの空へと飛び出した!
ニンジャスレイヤーの真下、ケンゴは幾ばくか数を減らしたメガロマニアたちによって抱えられていた。「馬鹿め!そのまま落ちて死ね!」メガロマニアは落下するニンジャスレイヤーを嘲笑し、飛行を開始!逃亡を目論むつもりか!
「アアアアアー!」だがその時、ケンゴがその場で暴れ出した!「どうした俺!?」メガロマニアたちは初子を抱いた父親めいて慌てだす!「イヤーッ!」その隙に、ニンジャスレイヤーはフックロープを放つ!フックはケンゴの足まで届き、ロープが絡まる!
「「イヤーッ!」」メガロマニアが二人出現し、ニンジャスレイヤー目掛けトビゲリを仕掛けんとする!だが!「「「「アバババーッ!?」」」」メガロマニアらは突如痙攣を起こし、その姿は千々に乱れる!落下するケンゴ!ニンジャスレイヤーも諸共に落下!
巻き上げ機構を使い、ニンジャスレイヤーはケンゴに接近!そして、頭から落下するケンゴの真正面に移動し、ケンゴを見た。その両目は、潰されていた。「ア…アア…僕を…殺して…ください…」ケンゴの両手には、おびただしい血。己の目を己自身で潰したのか。
「ミカミ=サンが…ハイスクール時代から好きな人が…死んで…人並みに絶望を感じたのに…」ケンゴは血涙を流しながら、見えないニンジャスレイヤーに胸の内を吐き出す。「それなのに…素晴らしい自分が…偉大な自分が…僕の中から消えてくれない…!」
ケンゴの頭の中では未だに自画自賛の狂った物語が垂れ流されている。罪の告白すら、称賛され許されるべきだと声高々に叫んでいる。しかし、自分で自分の目を抉る激痛により生まれた思考の余白が問いかけていた。これは何時から始まった?メガロマニアが現れてからか?いいや違う。
「こうなる前から…僕は、そんなだった…僕は…バケモノだった…」周囲では幾度もメガロマニアが出現するが、その両目は消え失せ、お互いがお互いを攻撃しあっていた。「…ならば、何故私に殺害を願う」ニンジャスレイヤーは静かに、ケンゴに問う。地上に激突まであと20数秒。
「自害じゃ…僕の罪は許されない…ミカミ=サンたちのために…本気で怒っている人に…僕は…殺されるべきなんだ」「それが…人として素晴らしい…いや…人として…当たり前のこと…でしょう?」激突まであと15秒。
人としての理性。ニンジャとして、狂人としての本能。ケンゴは最後に、理性を掴み取り物語を捨て、人として死ぬことを選んだのか。あるいはこの決断すら、その誇大妄想が叩き出した素晴らしき幕引きのつもりなのではないのか。ニンジャスレイヤーは、あえてそれを問わなかった。「…よかろう」
「ならば受け取るがいい。オヌシが無惨に殺したモータルたちの怒りを!イヤーッ!」ケンゴの胸を、ニンジャスレイヤーの槍めいた貫き手がケンゴの胸を貫き心臓を摘出!そして、その心臓を握り潰した!「サヨナラ!」ケンゴは爆発四散した。激突まであと5秒もない!
このままでは、ニンジャスレイヤーはネギトロめいて潰れ爆発四散するだろう!「イヤーッ!」掌!肩!背中!腰!足!ニンジャスレイヤーは前転し着地した!無傷である!「……ァァァアアア」ニンジャスレイヤーは上空を見上げた。そこにはネズミ花火めいて暴れる光があった。
「死ニタクネエエエエエエエエ!」それはメガロマニアだった。いや、メガロマニアだったものだろうか。「俺ハ神ナンダアアアアアアアアアア!」メガロマニアを投影するケンゴが死んだせいか、その体は端からボロボロと崩れてゆく。全身を掻きむしるたびにそれは加速してゆく。
「オ前モ!オ前モ死ネエエエエエエエエエ!!!」メガロマニアはニンジャスレイヤー目掛け落下!チョップを構え、ニンジャスレイヤーを唐竹割りにするつもりか!「メガロマニア=サン。オヌシもあるべきところに還るがいい!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが放つはポムポム・パンチ!
「「イヤーッ!」」両者のカラテが激突した!だが、その交わりは一瞬で終わった。ニンジャスレイヤーのポムポム・パンチがメガロマニアのチョップを砕き、その五体を断裂せしめた!「アバババーッ!サヨナラ!」メガロマニアは爆発四散した!
…………「フゥー…クソッタレ」ペントハウスの床に座り、パラケルススは眼下の決着を見届けた。だが、彼の胸に宿るは怒りだった。それは獲物を目の前で横取りされた肉食動物の怒気と似ていた。「足りねぇ…力が…」パラケルススの胸に渦巻くのは渇望だった。
無茶を通す力が、カラテが!己にはあまりに足りていない。新たなカラテ、サイバネティクス。ジツ。なんでもいい!手に入れなければ、己を貫き通すことなどできはしない!「…だが、今はどこかの病院に行くべきだな」パラケルススは、傷を労わるようにゆったりと歩き出した。
◆◆◆
ケンゴらが通っていた大学は、平穏を取り戻していた。張り込むデッカーもマッポもいない。だが、変わったことがいくつかあった。女を引き連れるジョックも、見目麗しい有名なカップルも、ジョックに虐げられる眼鏡の生徒もいない。
大学の掲示板には一応、ケンゴの情報を求める張り紙が一枚だけあった。ケンゴの両親はそこまで彼を見つけることに躍起になってはいなかった。己の立場を守るのに苦心しているからだ。
大学の清掃員が、ゴミ捨て場の片づけをしていた。その時、傍の生け垣の中に本が一冊落ちているのを見つけ、拾い上げた。それは、どこにでも転がっているようなファンタジーの小説だった。清掃員はそれをゴミ袋の中に投げ入れ、立ち去った。もうここでは物語が生まれることはない。
ザ・ストーム・アンド・カーネイジ・インサイド・マイ・ヘッド終わり。