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ザ・ストーム・アンド・カーネイジ・インサイド・マイ・ヘッド#2

入学式の時以来に袖を通したスーツはえらく着づらく、己を拒んでいるかのようだった。『キンジロ=サンは我が大学の誇りであり…』キンジロのカンオケが置かれた祭壇の前で理事長が長々とスピーチするのをケンゴは、膝の上の握り拳を退屈気に崩したり戻したりしながら聞き流していた。

前方、遺族らが嗚咽を抑えんとするくぐもった声が鼓膜を叩くも、ケンゴの心には何ら波風は立たなかった。「聞いたか?キンジロ=サンが昔手を出した女が、ヤクザクランの殺し屋を雇ったって…」「いや、俺はバイオスモトリに殺されたって聞いたが…」近くで交わされる噂の数々。

良くも悪くも、キンジロは大学の有名人。華々しいラグビーでの活躍も、ケンゴを虐げる様も、多くの学生の知るところ。本気で悲しんでいるのは、キンジロの遺族と、キンジロの活躍に便乗しようとしたラグビー部と大学。あとはネンゴロだった女たちか。

大半の学生にとっては対岸の火事。大学が有名になって自分の就職などに有利になるなら黙すが、それが無ければ好き勝手にさえずるのは当たり前。いずれキンジロの悪名は週刊誌やテレビによって知れ渡るだろう。悲劇的な事件の犠牲者の一人としてではなく。

ゲームセンターの虐殺、そう言えばいかな退廃的学生と言えど耳にしたことがあるだろう。店内にいた人間が全員ゴア死。元々違法なドラッグの取引のための店という噂もあり監視カメラの類もなく犯人は未だ逃走中。ネオサイタマ市警が厳戒態勢を敷いていた。

実際、大学前でデッカーと思しきガラの悪い暴力的な女が事情聴取をしていた。さらにこの告別式に取材に来たNSTV社の取材陣の塊の奥、壁にもたれた油断ならない鋭い目つきの男。コートの首元から覗くサイバネティクス。恐らくデッカー。男を見ていると、目が合いケンゴは急いで首を前に向けた。

心臓が鷲掴みにされたかのようなプレッシャー、流れる脂汗を拭いケンゴは周りの学生たちと同じように立ち上がる。焼香の時間。前の学生がやっていた流れを真似し、違和感のないように行い、カンオケに横たわるキンジロの顔を見た。

葬儀屋によりエンバーミングが施されたキンジロは、一見安らかな死に顔をしている。だが口さがないマッポの漏らした情報や事件現場に踏み込んだ報道関係者により、その惨い死に様をケンゴは知っていた。自慢の白い歯は殆ど圧し折られ、女ウケする顔面は焦げたスシピザのようだと知っていた。

「………」しかし、ケンゴの中で何かが腑に落ちない気がした。何かが、違う気がした。この胸の内から湧き上がる充足感は?いくら虐げてきた相手が死んだからといって∽∽∽死んだから?違う。俺が殺してやった∽∽∽「オイ!後が使えてるんだから早くしろ」「ッ!ああ」

背中を小突かれ、考え込んでいたことにケンゴはようやく気付く。自身の元々座っていた椅子に戻り、焼香をしている学生たちを見る。「大丈夫か?無理なら…」「いいえ。大丈夫よ…」イジがミカミを連れ立って焼香台の前まで来ていた。

ミカミはイジに支えられ、顔面は蒼白だった。無理もない。ハイスクール時代からの知り合いが惨殺されて、良い関係でなくとも気分を悪くするなという方が無理だろう。彼女は恋人の手を、自身の手が真っ白になるほど力強く握っていた。

「………」ケンゴはそれを、ただ遠くから見つめていた。見つめていた、だけだった。

◆◆◆

ヒートリ、コマキタネー……ミスージノー、イトニー…ケンゴはPVCのカッパを身に纏い、雑踏の中を歩く。告別式から数日、大学はいつもの平穏を取り戻していた。表面上は。

未だにデッカーやマッポが大学周辺を張り込み、マスコミも面白い情報がないか探りを入れ続けている。大学の関係者が犯人ではないのか。そんな話もよく耳にした。ヘタな行動を打てば咎もないのに疑われる。それなのにケンゴが普段行きもしない場所へと向かうのには理由がある。

雑踏の切れ間、人々が足早に通り過ぎる場所があった。ケンゴは、その切れ間で立ち止まり見上げた。電光の光に溢れた街で、光の消えた建物。件のゲームセンター、ここがケンゴの目的地だった。

店の入り口には外して保持と書かれた黄色のテープがあるが、ケンゴはそれを下から潜って店内へと入った。店内に入っても、音と光の濁流がケンゴを出迎えることはない。その代わりに、数日経とうとも消えない血の香りが鼻腔をくすぐり、僅かに吐き気を催させた。

この店には数度、来たことがあった。ストレスの発散として来たが、キンジロたちがたまり場にしていることを知り、それ以降来ていなかったのだ。そして当たり前だが、店内の様子は記憶の中のそれとは様変わりしていた。

店内を照らすのは入口のガラスドアから差し込む眩い色とりどりの明かり。それが照らし出すのは茶色がかった濃い色の壁、地面、破壊された筐体。その全てに、犠牲者たちの血が染みついているのだ。恐ろしい殺戮の現場。だが。

ケンゴは近くの壁を見た。斜めに切り裂かれた破壊の後が残された壁。その破壊の後に触れる。滑らかな切断面。洗練された暴力だ。だが、触れたことによってケンゴは確信した。この破壊を為したのが己であり、チョップによってこの壁ごとキンジロの取り巻きの一人を殺害したのだと!

有り得ないことだ。キンジロたちが殺されたはずの時間、ケンゴは自宅にいたというのに。だが、このチョップの痕跡には覚えがあった。何度も頭の中で思い描いた、キンジロたちを一撃で切り捨て殺すチョップのそれが、現実になっていた。

そして、身の内から沸き起こるデタラメなまでの自己肯定感!己が何よりも素晴らしく!貴く!ありとあらゆる行いが肯定され、認められ、讃えられるべきなのだという衝動!昨今叫ばれる自我の希薄化ではない症状だが、自我科に通うべきか?ケンゴは努めて冷静でいようとした。だから気づかない。

「おい」「アイ!?」突如後ろから男の声。ケンゴは驚きのあまり飛び上がりそうになるが、突如腕を掴まれ近くの壁へと押し付けられる。「痛い!何するんですか!」「ガキ、入口の外して保持のテープが見えなかったのか?」背後から首元に押し付けられる冷たい鉄の塊。チャカだ。

「ここで亡くなったキンジロ=サンの大学の生徒で!ぼ、僕は気になることがあったからここに来たんです!」自分のことを洗いざらい話さなければ殺される。その予感に従い、己を捕らえた男に話せることを一息に話し切った。

「そうか…」男はケンゴの答えを聞くと掴んだ腕を離し、チャカを首元から下ろした。振り返り見た逆光の中で結ばれた男の像。ケンゴの知っている男だった。「告別式の…」キンジロの告別式で、ケンゴと目が合った男だった。「貴方は…」「俺はデッカーだよ」チャカを仕舞い、取り出したのは警棒。

「ここで何をしようとしたか言え。おかしなところがあればこの警棒で殴る」「ナンデ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!」頬に叩き込まれる警棒!「質問したこと以外に答えるな」「アバッ血が…」「返事は?」再び構えられる警棒。「わ、わかりました!話します!」

「ああ。人間、力のある相手には素直でいるのが一番だ。それじゃあ…」その時、男の懐から無線の音が響く。「チッ…そこから動くなよ。爺さん、何の用だ。こっちは聞き込みを…」男は、無線の対応を始めた。

この場から逃げる?不可能だ。唯一の出口は男の後方。さらに相手がデッカーとなれば逃走を目論んだ瞬間、デッカーガンの論理トリガーは容易く引かれるだろう。ケンゴは頬を擦りながら待つしかない。

「なに…?」男は一度、ケンゴの顔を横目に見て、無線の対応を続けた。「…………」男は憮然とした表情で無線を仕舞い、ケンゴに問う。「イジとミカミって学生を知ってるか」「……はい」ケンゴの頬を、冷たい汗が伝った。「その二人が殺された。何を知っている?」

◆◆◆

「で、なんでそこまでケンゴ=サンに関わるんだ?」退廃ホテルの電動回転ベッドの上、イジは髪をドライヤーで乾かすミカミを見ながら問う。「えー?今それを聞くの?」ミカミは柔らかい笑顔で返事を返す。その胸は豊満だった。

「だって気になるだろう?同じハイスクールのよしみとは言え、あそこまで献身的に助けるなんて」イジにとって、それは恋人に関して一番気になることだった。恋人が自分以外の男と仲良くしているのはあまり面白くない。そう考えるのは人として当たり前だとイジは考えていた。

「んー、なんていうか。彼を見てると昔飼ってたバイオハムスターやバイオプレーリードッグを想起して…動物愛護の精神で助けてる面が大きいかな?」「…プッ、あはははは!」「もう、そんなにおかしい?」イジは、腹の底から笑ってしまった。なにせ、求めていた以上の答えが返って来たのだから。

同じ男として、イジは理解していた。ケンゴはミカミに惚れていると。だが、己の恋人は恋敵足りえた男をそもそも人間扱いすらしていなかったのだ。恋の鞘当てに興じる必要すらない。そう考えれば、哀れなことだと逆に憐憫の情すら沸き起こる。

「ところで、この後はどこに行く?」「そうだね……」イジは、目の前の今の恋人を見た。見た目が好みだったから、とりあえず口説いて関係を結んだ恋人だ。精神的に参っているならメンテナンスもしてやるが、最近は面倒になってきた。

関係を結んだ女に飽きたならキンジロや、将来的にいい関係を結べそうな相手に貸し出してやることもままあったが、ミカミはそういった行いを唾棄する手合いだ。「どうしようか」イジは、今の恋人への返答と、どう綺麗に後腐れなく別れ、再利用するかを考えながら天井を見上げた。

∽∽∽「イヤーッ!」俺は、二人が入った部屋のドアを蹴り破った。ヤクザのチャカで撃たれようとも穴の開かないドアも、俺にとっては濡れたウエハースと変わりない。「「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」」二人は俺を見て、驚愕し腰を抜かしていた。

恐らくファックした後のピロートーク開けか。反吐が出る。「フ、フロント!」イジは一足早く混乱から抜け出し、電話に手を伸ばさんとした。だが、俺はそれを見逃さない。「イヤーッ!」「グワーッ!?」伸ばした手にスリケンを投げつけ、磔にしてやった。

「ヒ、ヒィ。殺さないで…」ミカミは、後ずさりをしながら俺から逃げようとしていた。いつもの優し気な笑みも、怜悧な雰囲気も消え失せ、命乞いをする様に胸が満たされる。愚かな奴らだ。俺の機嫌を損ねるから、こうなるのだというのに。

「ああ。殺さないとも。今は」俺の声に、目に見えて希望を抱いたかのような表情をするミカミ。俺は口端を持ち上げ、宣告する。「存分にファックした後にサヨナラだ」「え?」「や、ヤメロー!」「ハハハハハハ!」∽∽∽ああ、ナムアミダブツ!ナムアミダブツ…

◆◆◆

誰が。誰が死んだ?ミカミ=サンが?死んだ?殺された?「ガキ。単刀直入に聞くぞ。お前はニンジャか?」ケンゴの目の前でデッカーが何かを問うも、ケンゴには聞こえていない。呆然自失のケンゴの頭の中を埋め尽くすのは、絶望と、黒い喜びと、こんな時にすら湧き出す自己肯定感。

ハイスクール時代から惚れていた相手が、殺された。それも無残に恋人の目の前でファックされ絞殺された。何故それを知っている?誰がやった?∽∽∽俺が、俺たちがやった∽∽∽そも何故自分はそれを知っている?「おい!答えろ!イシガミ・ケンゴ!お前がやったのか!?」

自分がやったという喜びが、想う相手をファックしてやったというどす黒い喜びが全身を駆け巡る。ありえない。自分はここにいた。∽∽∽いいや、お前には俺がいる∽∽∽おお!素晴らしき我が行い!愚かな二人に慈悲を与え、可及的速やかに苦しみなく殺したワザマエは誰よりも勝るのだ!

我こそが頂点!己こそが王!称えよ!愚民ども!僕こそが神なんだ!「チッ!使えねえ!このまま49課まで連れて行くか…?」∽∽∽そういえば、お前は俺を警棒で殴ったな?∽∽∽「イヤーッ!」ケンゴと男の間に影が渦巻いたかと思うとそこに人影が生じ、デッカーに掌打を見舞う!

「イヤーッ!」デッカーは腕をクロスし、掌打から胸部を守る!衝撃によりタタミ一枚分後退!「イヤーッ!」「なっ!」デッカーが構えを解く前に既に人影はデッカーの前で裏拳を放っていた!「グワーッ!」正面の守りを容易く潜り抜け、裏拳はデッカーの頬を強かに打った!

KRAAASH!ボウリングボールに跳ね飛ばされたピンめいて、デッカーが壁に激突!壁を粉砕して暗がりに消えた。「お、前は」ケンゴは、目の前でデッカーを打ちのめした影を見上げた。影は、ゼロコンマ数秒の間隔を置かずケンゴの前に立ち、手を差し出した。影は、ニンジャだった。

ニンジャの装束はマーブルめいて次々に色が変わり、ニンジャローブになったかと思えばサイバネめいたアーマーへとなる。武装も、カタナからボーになったかと思えば、ブレーサーのみになったり一貫性がない。そして、ニンジャはメンポをずらした。

「…僕?」ニンジャの顔は、ケンゴだった。移ろい続ける外見に反して、唯一つだけ固定され続けるケンゴと同じ顔は奇妙さを引き立たせ続けていた。「さあ、俺。ここを出るぞ。ここは俺がいるのにふさわしい場所じゃない」ニンジャの言葉に、ケンゴはおずおずと手を差し出しその手を掴んだ。

BLAMBLAMBLAM!暗がりから闇を切り裂く弾丸の群れ!弾丸はニンジャとケンゴを狙う!「うわっ!」ニンジャはケンゴを抱え込むと、その背で弾丸を受け止める!ギャギャリィン!金属音と共に弾丸は滑り店内に破壊を齎す!

「イヤーッ!」ニンジャはケンゴを抱えたまま、地面を滑るように滑空!ガラスドアを破壊し店外へ!「アイエ!?」「なんだ!?」人々の足と足の間を潜り抜け、車道に着地。その後、上空に飛翔!人々は、何が起きたか分からずただ上を見上げるばかりだった。

「ハーッ…ハーッ…」破壊されたガラスドアから、ズタズタのコートを身に纏った男が荒い息を吐き出しながら出る。「あのガキ…舐めたマネしやがって…」男は、マッポ無線を手に取る。デッドエンドにもタフガイにも、あの新人にもやるつもりはない。逮捕いや、即座に射殺する…!

◆◆◆

「あ、アア」日が沈み、都市の明かりが眠らない街ネオサイタマを煌々と照らす。ケンゴは高級な本革のソファの上で、光る都市に虚ろな目線を向けていた。近くのガラスのテーブルにはZBRや大量の大トロ粉末などが乱雑に散らばり、口の端からは唾液が零れ落ちる。

血液の大河が全身を駆け巡る感覚。脳は全力で支離滅裂な自画自賛の物語を紡ぎ、体の揺れはすべてが己を称えるためのファンファーレの響きに感じた。「ああ、それでいい。これこそ、俺が受け取るべき悦楽の一つだ」ニンジャの声が、ケンゴの脳髄の中でリフレインする。

ペントハウスのリビングにて、ケンゴはトリップしていた。ワックスのかけられた床には二人の男女が血の海に沈み、死んだ魚のような眼をケンゴに向けていた。割れた壁一面の窓ガラスの穴から湿った風が吹き込み、そばに立つニンジャの影を揺らめかせる。

ゲームセンターを脱出後、ニンジャはケンゴを抱えたままなんと飛翔し、このペントハウスを強襲。家主のカップルを殺害した後、細かい説明もなにも与えぬまま、ケンゴに家主のものと思しき多量のZBRと大トロ粉末を与えた。そして今。

「そうだ…そうだ!この光景だ!俺の見るべき光景!愚民どもが俺の足元で蠢く!」ニンジャ自身もトリップをしたかのように両手を広げ、三方向の一面の鏡張りから見える眼下のネオサイタマの輝きを見下ろしていた。「だが、まだ足りない…!まだ上がある…!」

ニンジャがぎらついた目線を上げると、そこにあるのはありとあらゆる建造物よりも高く、万象を見下ろす宮殿があった。カスミガセキ・ジグラット。現代の王、皇帝、神。暗黒メガコーポの支配者たちの居城。その頂点こそが己の城に相応しい。あの中に巣食う者どもを皆殺しにする。

そのための計画いや、確定した事項に舌なめずりするニンジャの側面。同じく一面鏡張りの窓の奥で、夜の闇の中を黒い影が切り裂くのをニンジャは気づかなかった。KRASH!「ヒヒーッ!」影がペントハウスの中に突撃!

影は時速180キロでニンジャを掴むと、最後の無事な鏡を破り宵闇の空へと飛び出した!「ドーモ!スカイラットです!」影、コウモリのような装束のニンジャは獲物へとアイサツした。その襟には「天」「下」の漢字と下向きの矢印を象ったエムブレムのバッジ!

ニンジャとケンゴには知る由もない話だが、スカイラットを仕向けた組織が存在する。アマクダリ、ネオサイタマを裏から支配せんとする組織。彼らの起こした事件はアマクダリの知るところでもあり、スカイラットは対処を指示されたのだ!

「ドーモ、スカイラット=サン。メガロマニアです」襲われたニンジャ、メガロマニアは冷静にアイサツした。「テメェか!暴れてる野良ニンジャは!」「野良?ハッ!下賤なニンジャは襲うべき相手も見極められないか!」「ケーッ!イカれたニンジャめ!話しても無駄か!」

スカイラットはカギヅメ・ガントレットで掴んだメガロマニアの肩を更に強く掴む!紫色の爪が食い込み、メガロマニアの体内に強力な毒を送り込む!「ヒヒーッ!さらにィ!」スカイラットはメガロマニアを上空へと放り投げた!

投げられたボールめいて、メガロマニアはグルグルと回転し成す術もない!「ヒヒーッ!これで終わりよォ!」これこそがスカイラットのヒサツ・ワザ!逃げ場のない上空で毒により平衡感覚を破壊!そしてカラテにより八つ裂きにし最後に墜落死させる!「死ねェーッ!」ガチガチと鳴る爪!

「で、誰に挑んだか理解できたか?」「ハッ?」スカイラットの背後で、メガロマニアの声。ゼロコンマ数秒前まで、目前でグルグルと回転していたはずのメガロマニアは消失していた。「ハハハ!」メガロマニアはスカイラットの腕を掴み、空中で制止した。

「ば、バカナーッ!?」有り得ぬ空中での静止状態に置かれようとも、スカイラットは咄嗟に背後へ肘打ちを繰り出し脱出せんとする!だが!「イヤーッ!」「アババババーッ!?」メガロマニアはスカイラットの両腕をねじ切った!「アイエエエエエ!」自由落下を開始するスカイラット!

スカイラットはネオサイタマの光と闇の中へと落下し、そして消えた。「ハ。他愛ない」メガロマニアの姿は空から消え失せ、次の瞬間にはペントハウスの中へと出現した。先ほどまでと変わりなく、ケンゴはトリップし続けていた。それはメガロマニアにも理解していた。

「それで、次なる暗殺者は貴様か?」メガロマニアは後方、彼が最初に破った鏡の穴へと問う。その穴から一人のニンジャが身を翻し室内にエントリーした。窓から吹き込む湿った夜風が、そのニンジャの赤黒い装束をはためかせ、逆光の中だろうと「忍」「殺」の漢字が刻まれた禍々しいメンポが見えた。

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」赤黒のニンジャは、メガロマニアにアイサツをし、オジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。メガロマニです」メガロマニアもアイサツする。「ニンジャスレイヤー?」メガロマニアはニンジャスレイヤーの名を口にした。大量の嘲りの感情を込めて。

「どこのウマの骨かは知らないが、大層な名を名乗る。貴様の目の前に立つのは、貴様なぞ足元にも及ばない偉大なる存在だ!王!神だ!ズガタッキェー!ヒカエオラー!」メガロマニアを中心にキリングオーラが溢れ出す!

「オヌシがいかに己を言葉で飾ろうとも、オヌシの正体は変わらない」ニンジャスレイヤーは決断的にカラテを構えた。その視線の先には、メガロマニアに惨殺された家主たち。「オヌシはただのニンジャだ。故に殺す。ニンジャ殺すべし!」両者から放たれたキリングオーラで室内の大気が歪む!

KRAASH!その時、リビングのフスマが破壊され、一人の男がエントリーした。「ハァ…!ようやく追いついたぞ…!」その男は、ゲームセンターでケンゴを取り逃したデッカーだった。デッカーは瞬時に室内の状況を確認した。そして、ニンジャスレイヤーを訝しげに見た。

「例の、爺さんが言っていた都市伝説か…だが、今はアンタはどうでもいい…」デッカーは数度、息を整え、両手を合わせた。「ドーモ、パラケルススです」そのデッカーは、ニンジャだった。「ガキ…!この場で今すぐ射殺だ…!」そして、片手にデッカーガン。もう片方の手に改造チャカを構えた。

夜風に吹かれ、割れた窓ガラスの破片が落ち、床で砕けた。「「「イヤーッ!」」」そして、三者は同時に動いた!∽∽∽お前らも俺の伝説の礎にして∽∽∽僕は…何を…

ザ・ストーム・アンド・カーネイジ・インサイド・マイ・ヘッド#2終わり。#3へ続く。