カナダでのソフトウェアエンジニアの昇進について
こんにちは、お久しぶりです。
先月、社内でシニアのソフトウェアエンジニアとして昇進しました。
軽く自分の経歴を話すと、カナダに来てからブートキャンプに行ってキャリアチェンジをして、ソフトウェアエンジニアとして働き始めて現在5年目。
今までの4年間、ジュニアからインターメディエイト、インターメディエイトからシニアと合計2回社内での昇進を経験したので、その経験について話したいです。
会社によって仕組みもレベル分けも全然異なるので、あくまでも私の経験だけど、日本で働いている友達と話すと違いに驚かれることが多いので、私のカナダの会社内での昇進がどんな感じだったのか共有したいと思います。
ジュニアからインターメディエイトの昇進
エンジニアになって3年目、3社目のWealthsimpleで働いていたときに昇進。カナダでは名の知れた大きいスタートアップで、昇進の制度は割と整っていた。昇進サイクルなどもなく、いつでも次のレベルに達していると見做されたらそのタイミングで昇進の申請ができるシステム。
ジュニアのソフトウェアエンジニアとして入社した時から、直属の上司であるチームリードに、インターメディエイトになりたい旨は伝えていた。初めのうちは毎週の1on1の中でまず現在のレベルがどの辺なのかの自己評価をするため、会社のキャリアマトリクス(こういう感じのもの)を元に技術、コミュニケーションなど各項目自分がどのレベルにいるのかをマークした。例えば、Architectureはまだジュニアだけど、Code Qualityはインターメディエイトだな、等。その自己評価を1on1の際にチームリードと一緒に確認。
項目によってはその中でも、Things I’m comfortable with(達成できているもの) Things I want to work on in the next 6 month(次の6ヶ月間フォーカスしたいもの)Things I want work on in the future(将来的にやりたいもの)に分けて優先順位をつけた。
チームリード的には現状評価が自分の中で低くても、今から成長していく過程を昇進時に見せたらいいよ、と言って6割くらいはジュニアにマークした状態だったはず。その中でジュニアとしてマークしたものを、インターメディエイトに上げるためには何を具体的にしたらいいかを一緒に考えた。マネジャーもどんなプロジェクトや取り組みが私の成長のためになるか、どの項目を具体的に埋められそうかを一緒に考えてくれる。例えば次回こういうプロジェクトがあるけど、これを完了したらこの技術は知っているって書けるね、とかこのプロジェクトに携わったら、社内で部署を跨いだプロジェクトに携わったって書けるね、等。
その後は、チームリードとは毎週の1on1とは別に、月1の頻度でキャリアマトリクスや自己評価を見直して、どのプロジェクトでどのエリアをカバーできたかを話し合う。
同時期に、私がメンターを探していると会社のチャンネルで話すと、同じチームのDEIにvocalな女性シニアエンジニアが、私でよければメンターできるよ、と話しかけてくれたので超喜んでお願いする。
メンターセッションは2週間に一回30分、基本的に私の悩みを聞いてもらって、こういうことができるよ、と色々提案をしてもらった。例えば仕事量が多くてちょっと圧倒されているって言ったら、チームリードに話して少し減らしてもらおうか、もし言いづらかったら私から話してもいいよ、とか、ミーティングで発言するのが難しいと言う話をしたら、チームのミーティングとかフロントエンドエンジニア全体の会議のミーティングをリードしてみる?とか、移民や女性のサポートをしたいけどどこから始めていいかわからない、と話したら、まず会社のDEI committeeに入ってみたら?など。メンター自身シニアからスタッフエンジニアに昇進する過程でもあったので、彼女の経験も話してくれたしポートフォリオも共有してくれて、アライなど信頼できる人が社内にいることの重要性や、salary transparencyの重要性などについても本当に色々教えてもらった。
半年経った頃に、メンターから、「チームリードに、アスカはとっくにインターメディエイトのレベルでパフォーマンスをしていると話しておいたよ。リードが昇進プロセスを始めるって言ってたけど何も連絡がなかったら教えてね」と聞く。その後すぐにチームリードから、今あるポートフォリオを綺麗にファイナライズしようと言われる。ポートフォリオをファイナライズするためのミーティングを一回やって、メンターとリードからコメントをもらい、修正して、提出する。
その後、それをもとにチームリードが昇進用のアプリケーションを書き、そこから1ヶ月以内にとんとん拍子に昇進が決まったという連絡が来る。
シニアのチームメンバーも私の昇進に対してのrecommendationを書いてくれたので、それをリードが昇進決定後に見せてくれて、みんな褒めちぎってくれてたのでそれも嬉しかった。給与も年収$20k(約200万円)アップした。
昇進自体はめちゃくちゃ嬉しかったし自信がついたのだけど、元々多かった仕事量に加えてインポスターシンドローム、冬季鬱が重なり、昇進後2-3ヶ月後にバーンアウトしてしまう。その後、2ヶ月ほど何もせず休んで、就活をして今の会社に転職した。
インターメディエイトからシニアの昇進
今の会社も大きめのスタートアップ。インターメディエイトフロントエンドエンジニアとしてスタート。6ヶ月に一回昇進ができるサイクルがあり、そのタイミングで昇進を申請するシステム。途中チーム変更があり、2人チームリードがいてややこしいので最初のチームリードをリードAとして、次のリードをリードBとする。
リードAとの初めのうちの1on1で、今すぐにとは言わないけどいつかはシニアになりたい、と言う話を軽くしたところ、絶対にすぐになれる、半年に一回昇進サイクルがあって、9ヶ月後が一番早いからそこを目指してやっていこう!と言ってもらえたのでそれを目標に設定する。
通常の1−1とは別に月1回キャリア形成にフォーカスした1on1をやって、また前の会社と同じようにメトリクスを元に現状をSelf-assessmentして、ポートフォリオに自分が何をやったかを記録してbrag documentを作ったりする。残念ながらチームメイトと合わなかったので、6ヶ月経った時点でチーム変更をお願いして、新しいチームに移る。
チームの変更後、新しいチームリードBに「リードAと昇進について以前から取り組んでいたけど、チーム変更というイベントもあって最近は詳しくキャリアについて話せていないが、直近の昇進に間に合いそうなら申請したい」と話すと、それならポートフォリオを作らないと、と言われリードAと一緒にポートフォリオを綺麗にする作業をした。しかし、半分くらい作り終えたところで、チームリード2人ともきちんと昇進の制度を把握していなかったために今回の昇進のラウンドに私はそもそも参加すらできないことが知らされる。
リードBは謝ってくれて、これからはちゃんとプロセスを理解して、共有していきたい。なので次の昇進のタイミングである6ヶ月後を目標にやっていくことになる。その後、再度リードBと共にまたメトリクスを元に現状をSelf-assessmentして、ポートフォリオ作成を継続する。更に、リードBとは通常の1on1の度にポートフォリオやキャリアについて話す。
リードBは前回の状況をわかってくれているのと、誰かのプロモーションを担当するのは今回が初めてだからしっかりとコミュニケーションをとっていきたいと言ってくれ、こちらから頼まなくてもプロモーションに何が必要で、いつまでに何をしなくてはならないかを教えてくれる。チーム内で何人今回のラウンドの昇進に申請する予定で、申請する全員既にシニアに値する働きをしているけれども、予算の都合で今回は見送らなければならない人が出てくるかもしれない、と伝えてくれたので事前に何が起こるのかの共有、期待値の設定もしてくれた。
具体的なプロセスとしては、昇進が起こる3ヶ月以上前に、リードが昇進に値しそうな人たちを選んで、ポートフォリオを本人たちが作成する。それをもとに、リードがリーダーシップやシニアエンジニアの前でなぜこの人が昇進に値するのかをプレゼンする。その後、リーダーシップがメトリクスをもとに話し合い承認する、その後HRが今回何人昇進させるだけの予算があるかを話して最終的に決めるというシステム。毎回何か変更があると教えてくれるし、いつ昇進のための話し合いのミーティングがあったか、それがどうだったかまで教えてくれた。
そして、昇進したというニュースを知らされる。給与は、年収$12k(120万円)くらい上がった、前回ほど幅は大きくないけど、元々インターメディエイトでも高めの位置にいたことは知っていたから全然不満はない。
現状とても嬉しいけれど、ちょっとインポスターシンドロームに陥っている。と言うのも、移民で第二言語を使って仕事をしていて、更にwoman of colorであるという、自分と似たバックグラウンドであるシニアが少なすぎて、私はその数少ないrepresentationになっていくんだなという自覚があることから、自分で自分にプレッシャーをかけてしまっている。また、シニアであることから、問題を提起するだけでなく解決策を一緒に考えてほしいとリードからも結構これについてどう思う?と聞かれることが増えたことから、今まで不満に思っていたことに対して自分で解決策を考えていかないといけないんだな実感していて、もしこのまま不満なことにSpeak upしたり、解決策を提示していかない限りただただpart of the problemになってしまうから頑張らなくてはという葛藤がある。
ちなみにこれに関して、Confidence codeという本の中で、ある実験で、女性は数学に弱いというステレオタイプをリマインドするような情報を事前に聞いたグループは、聞かなかったグループと比べて数学のテストの成績が下がったという文章があって、"自分がマイノリティであること"について考えすぎちゃうことは自分にとって全然助けにならないなと思うのでなるべくそこに関しては考えすぎないように(忘れるように?)努力している。
現状とりあえず強く思っているのは、私が今までのキャリアにおいてこんなシニアがいてくれたらいいのになと自分がずっと思っていたシニアになりたいなということ。
そもそもなぜ昇進したかったのか
昇進すること自体に対しても色んな考えがあるだろうけど、私のモチベーションはいくつかある。
まずやっぱり給与が増えること
Women of colorのrepresentationがposition of powerに増えるべきだと思うこと
私よりもマイノリティなバックグラウンドの人たちがシニアポジションに増えていってほしいと思う。私はマイノリティの中でもPrivilegedであることは承知だけれど、私がシニアポジションとして入ることで更に間口が増えていってくれたらという希望を込めて。書類が通りやすくなるから転職がしやすくなること
タイトルによって自分に自信がついたり、信頼を得やすくなること
これは自分の気持ち次第かもしれないけど、例えばCSの学位を持っていた方が自分的に自信がついたり、信頼を得やすくなることはあるんじゃないかなと思う。
インターメディエイトのままでも全然悪くないんだけど、例え実際はシニアレベルの活躍をしていてシニアであると会社が思っているのに、もし本人が昇進したいと言わなかった場合、結局インターメディエイトの待遇でシニアの仕事をしている状態にもなるんだろうから、それだったらシニアに昇進したいと言った方がいいなと思ったのもあった。
ちなみにジュニアからインターメディエイトに昇進した時は、入社前に別の会社からインターメディエイトのオファーが出ていたことから、せっかくそっちのオファーを蹴ってWealthsimpleに就職したのだから、インターメディエイトとしても働いていけることを証明したいと思っていたのが大きな理由。
知っておいたらよかったかも、知っておいてよかったこと
昇進前後、必ずインポスターシンドロームに陥る
私は必ず昇進前後にインポスターシンドロームに陥る羽目になる。私だけかと思っていたけれど、メンターがシニアからスタッフエンジニアになった時も、私から見て彼女はとっくにスタッフレベルのエンジニアだと感じていたにも関わらず全く同じことを言っていて驚いたことがあった。私はこのポジションに値するのだろうか、新しいポジションに相応の成果を出せているだろうかと言う不安は常にあるし、昇進前後は特にその不安が強くなる。なので、せっかく昇進したのだから、と新しいことを即座に始めるのはなるべく私の場合は避けた方がいいと学んだ。
Allyや信頼できる人がいることはめちゃめちゃ大事
昇進にあたって、透明でわかりやすいシステムを会社が提供していることはまずとっても大事だけど、必ずしも全員がそういう会社で働けるわけではない。そう言うときに、既に昇進したことがある人や、昇進やキャリアの成長をサポートしてくれる、マイノリティとしての苦労を理解してくれるような人が周りにいることは、精神面でも、仕組みを知ると言う意味でも大事。
これは最近学んだのだけれど、私のメンターがしてくれたこと(リードに対して私の昇進の話をすること)はSponsorshipと言われるらしい。このSponsorshipを受けられるかどうかは昇進の鍵になることが多くて、だからこそ大事みたいなので、Mentorはもちろん、Sponsorしてくれるような人を見つけることもかなり有効だと思う。
Sponsorship is a relationship where a senior leader or influential individual within an organization actively advocates for an individual's career advancement.
引用: https://www.linkedin.com/pulse/coaching-vs-mentoring-sponsorship-understanding-benefits-phifer/
Glue work
数年前に話題になったコンセプトで、このブログからGlue workとは何かを見ることができるけれど、簡単にいうとプロジェクトを円滑に実行するための名前の無いタスクをインターメディエイトのうちから自然とやったり任されたりしすぎてしまうこと。例えばマネジャーが感謝されないタスクをやる人を選ぶとき、44%も多く男性よりも女性を選ぶというデータがあるらしい。 私はダイバーシティについても貢献したいしインクルーシブなチームを作りたい人だから、"not technical enough"と言われることをめちゃめちゃ恐れていた(いる)し、テクニカルなタスクを優先することは常に気をつけていた。自然と気になってしまうからやってしまったりはするんだけど、やった時はなるべく何かテクニカルなタスクと関連付けたり、チームにアナウンスをする形で"名前の無いタスク"(チケットを作っておいたよ!とか)をやったアピールはするようにはしていた。あと、Diversity workをキャリアの浅いうちからやることに関して、記事に載っている名言も貼っておこうと思う。(とはいえDiverisity workは尊いです。ぜひできるのならやってくれ〜!)
やったことを声高々に言う、アピールする
日本の文化的には違和感があるけれど昇進にあたってとっても大事なのが、自分のやったことを大声でアピールする必要があること。こんなこと大したことないか、とかこんな自慢してどうなの?と日本で育つと心の声が囁くこともあるかもしれないけれど、私の働いてきた経験上そんなことを思う人はいない。し、むしろ言っていかないと誰も見てくれていない、アピールしてくれた方がマネジャー的にもわざわざ詳細をチェックしなくてよくて助かる。もちろんアピールしなくても見てくれていたり、自分の代わりにアピールしてくれる人がいることはあるけれど、基本的にみんな自分のことで精一杯なので、そんなことは珍しい。
アピールの方法としては、社内の大きいミーティングで喋ったり、Technical talkをしたり、Slackのエンジニアリングチャンネルに投稿したりがある。大きなインパクトを作っているんだというアピールは大事だし、その投稿や録画自体をポートフォリオに書くことができるし、昇進の決断を下すリーダーシップも自分達がその人が出した成果を見たことがある人の方が自信を持って昇進すべきと判断しやすいはず。大きな範囲にアピールしていくことが昇進の確率に直結していくと実感している。
自分のキャリアは自分で管理する
多分日本の会社の感覚と一番違うんじゃ無いかなと思うのが、自分のキャリアを管理して、責任を取るのは最終的に自分であるということ。年功序列的な制度や風習がないので、チームリードやマネジャー、メンターはもちろん助けてはくれるけど、最終的には自分のキャリアの責任を取るのは自分で、早く昇進がしたいのか、転職がしたいのか、今はゆったりとワークライフバランスを楽しみたいのか、決めるのは全部自分。もし昇進をしたい場合は自分からマネジャーに昇進したいと伝えないとだし、ポートフォリオを作るのも、制度のことやメンターを探したり話を聞いたりするのも自分だし、メンタルヘルスを考えてこれらに全部Noを言うのも自分。例えばマネジャーが全然助けてくれない場合、その上のマネジャーにエスカレートしたり、チームを変更したり、誰かに相談するのも自分。全部、自分でイニシアティブを取って、話題に出して、質問していかないと話は前に進んでいかないと言うことは強く実感している。
こんだけ記事にしておいて何だけど、タイトルやレベル感は会社によって全然変わってくるので、一つの会社におけるシニアは別の会社だとインターメディエイトだったりすること、昇進するには努力はもちろんだけど運、タイミング、会社の予算、とか色々な外部要因に左右されることから、そこまでタイトルに固執しない方が精神的にも健康的かなと個人的に思っている。私個人は働く上で一番大事なのは自分がどれだけ自分がつけたいスキルを得られて毎日ハッピーに働けているか、なので、そこをクリアできているのであればタイトルにこだわる必要はないと個人的には思うし、昇進できなかったからといって落ち込んだり絶望する必要は全くないかなと思います。
少しでもこの記事が参考になれば幸いです!
Photo by KOBU Agency on Unsplash
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