高校生発 ロールモデルをみつけよう!#11 住友商事からあすびと福島への研修出向 小林暉さん
取材日 2022年3月21日 編集長:星 洸貴
今回の ロールモデルは、2018年に「住友商事」に入社され、2020年からは2年間、あすびと福島へ研修出向し活躍された、小林暉さんです。
「住友商事」とは、「5大商社」と呼ばれる総合商社の1つで、私たちの周りのほとんどの製品に関わるほど幅広く事業を展開している、日本有数の企業です。
取材では、小林さんの大切にしていることや仕事に対する向き合い方、あすびと福島への出向で得た経験などを聞くことができました。
好奇心を忘れずに常に高みを目指して
(★佐藤茅音、志賀巧都、荒川翔矢)
小林さんは、1993年に群馬県の白沢村というところで、酪農一家の4人兄姉の末の弟として生まれました。小学校から中学校までメンバーがほぼ変わらないコミュニティのなかで過ごし、高校では野球漬けの日々を過ごした小林さん。元気いっぱいの日々のなかでもアメリカの農場で働いた経験がある父親の影響を受け、幼い頃からアメリカへ憧れ、英語はしっかりと学んでいたそうです。
小林さんは高校を卒業後、埼玉大学経済学部に進学します。「高校では野球に打ち込めて、楽しむことはできた。大学では勉強に専念しようと考えていた」という小林さん。入学後は、憧れのアメリカ留学に行くために、埼玉大学の特別教育プログラムに合格することを目標に立てました。自分で立てた目標の達成に向けて、妥協せずに取り組めることが小林さんの強みです。このプログラムに合格するためにサークルには入らず、勉強を重ねました。そして努力が報われ、小林さんは無事に合格。大学2年の夏、ついに念願のアメリカ、アーカンソー州の大学へ留学をすることになりました。
「新しいことに挑戦する気持ちと好奇心を大切にしている。」と話す小林さん。そんな小林さんにとって、10ヶ月の留学生活は、沢山の新たな気付きを得られる貴重な時間になりました。特に世界の動きに対して、周りの学生の関心の高さに自分の視点がまだまだ狭いことを実感したとのこと。その後は積極的に世界の動きに目を向けるようになったと言います。この時の留学での経験を通じて「世界と関わる仕事をしたい」と考えるようになった小林さん。数多ある業種の中でも、特に海外と密に関わることができる「商社」のビジネスを知り、商社で働きたい!という思いが芽生えました。
商社で働きたいと考えた小林さんは、すぐに就職するのではなく、酪農にゆかりのあることから農産物貿易をしっかり学んで自分の強みを作りたいと考え、大学卒業後は難関・東京大学大学院に進学することを決意します。もちろん、東大大学院に合格するには並大抵の努力では不可能。小林さんはこれまで以上に努力を続け、見事、東大大学院に合格することができました。
自分で目標を立てて、そこに向かってひたすら頑張るというのは、とても胆力がいります。妥協することなくやり遂げることができるのが小林さんの魅力の1つだと思いました。
大学院で、着実に力をつけ、2018年に念願の住友商事へ入社することができました。
しかし、いざ入社すると、配属先は「炭素部」。農産物ではなく「炭素製品」の取引を主とする部署でした。配属当初は自分が専門に学んできたことと実際の業務との違いに戸惑い、抵抗感もあったそうですが、大事なことは「何を売るかではなくどう働くか」だと発想を変え、自分が理想としていた「海外と関わる仕事」をできると考え、自分の仕事に集中することができたそうです。その発想の転換や、自分の経験に固執しない柔軟さは、私達も見習うべきだと強く感じました。
世界を股にかける商社マン
(★大矢悠希、但野むつ美、高野真帆)
住友商事をはじめとする「総合商社」のビジネスは、トレードや、近年では事業投資といった形で国内外と密接に連携し、その事業を広く展開する、というものです。
小林さんが仕事で取引していた代物はブロック状の炭素製品。アルミの生産工程で使用される、私たちが普段使っているアルミホイルなどのアルミ製品の原料となるものです。これを海外支部と連絡を取りながら輸出し、現地の顧客に売ります。住友商事の海外支部は世界中に膨大な数があり、小林さんが取り組むビジネスだけでも十数ヶ所の支部が関わります。
そして炭素部の中で、この製品の営業担当として主に手を動かすのは小林さんともうひとりの方のみ!!
ふたりで世界を半分して、業務を進めていたといいます。小林さんが担当していたのは、主に南半球にある沢山の国々。時差や物価の推移の影響により臨機応変な対応を求められたそうですが、海外と関わる仕事を入社1年目からすることができたそうです。
一方、海外と密接に関わるからこそ「相手先との時差がある」という特有の難しさがあります。日本での勤務終了時刻に海外の取引先が始業時刻になることもあります。そのため、仕事が終わった、と一段落したときに連絡が入ることもしばしば…
大変なこともありますが、「事業のスケールが大きくてインパクトがある」と小林さんは仰っていました。小林さんのお話を聞いて、世界を相手に大きな事業を動かしていく高揚感と達成感を感じ、私たちもワクワクしてきました。
仕事に対する向き合い方
(★星洸貴、佐藤菜々香、松崎里帆子)
小林さんが仕事をする上で心がけていたことは、タイムマネジメントと顧客に合わせた To Doリストの作成、そしてスピードと正確性だそうです。
世界を股にかけ、同時に多くの業務を手掛けるため、常に時間に追われ、タイムマネジメントに苦労していたとのこと。また、同時に多くの取引先と並行してやり取りをするので、どのお客さんとどんな取引をしていたのかをメモをしないと忘れそうになることがあるとか。
そうしたミスを防ぐために、きちんと取引先ごとにTo Doリストを作り、次に何をするべきか、今どこまで進めたかなどを逐次確認していたそうです。
そして膨大な仕事をこなすうえでスピードと正確性がとても大切になります。日々の業務に忙殺され、自分の僅かなミスが何億もの損害を招くという状況下において、タイムマネジメントを怠らず、細かな To Doリストを作り、早く正確にという単純ながらも一番難しいことをこなそうとする小林さんのバイタリティや責任感に脱帽しました。
あすびと福島での経験
(★相澤伊織、桑折汐凪、遠藤瑚子)
商社マンとしてやりがいを感じていた小林さんに、2020年4月から2年間のあすびと福島への出向辞令をもらいます。この出向は社員の成長を目的として上司から選ばれての研修出向ですが、辞令をもらったとき、小林さんは正直困惑したと言います。その後、上司からこの出向への期待を聞いたり、あすびと福島の活動を知ることで、とても前向きな気持ちであすびと福島に来ることが出来たそうです。
2年間、あすびと福島の社会人研修事業で活躍された小林さん。小林さんは、利益のためだけではなく、福島の復興のために頑張っている浜通りの人々と出会えたことが刺激的だったと話します。小林さんにとって、あすびと福島は「自分の内面を見つめ直させられる場所」だとおっしゃっていました。この研修出向期間のなかで「自分はどんな社会を創りたくて働くのか?」という問いについて深く考えさせられたと話してくれました。
あすびと福島に来て、あすびと福島のメンバーや復興に携わっている人たちと出会えて本当に良かった、と話す小林さんを見て、人と人との繋がりの大切さを感じました。
高校生へのメッセージ
小林さんから高校生の私たちに向けて、メッセージをいただきました。
「色々な大人と関わること」
自分の興味があることと、ないことに気づくためにもたくさんの大人の話を聞く機会をもち、考え方に触れてほしいと小林さんはおっしゃいます。私たちの周りには多くの大人がいるにも関わらず、日ごろは、親、先生、近所の人以外の方とあまり関わる機会がありません。将来の選択肢を増やすために、高校生のうちから色々な大人の話を聞きたいと思いました。
「思い込みは可能を不可能にする」
この言葉は、プロ野球の大谷翔平選手が高校時代の監督に教えてもらった言葉で、小林さんの大切にしている言葉でもあるそうです。小林さんは受験前には東大大学院の合格は難しいと思っていましたが、結果は合格。最初からできないと思い込んで諦めていたら掴むことはできなかった結果です。
固定概念にとらわれず、大胆に、好奇心の赴くままに進んできた小林さん。その裏には壁を突破しようと諦めず努力し続ける強さが見えました。
好奇心を大切にし、行動に移す小林さん。
この取材では、目標までひたむきに努力を続けることができる、小林さんの芯の強さに何度も触れることが出来ました。
編集後記:高校生たちの感想
いつも冗談を飛ばして気さくに接してくれる小林さんですが、実は隠れた努力家であることをこの取材で知りました。一見成功できなさそうな難しいことでも、妥協せずに挑戦して結果を残しています。その裏には凄まじい努力と熱量があるのに、本人はさらっと話していて「カッコいいな…」と感じました。そして、好奇心を大事にするとの考えは、異文化を受け入れる柔軟さや、どんな仕事にも真摯に向き合う姿勢につながっているのだと思います。
努力×好奇心で、目標に全力を尽くす姿勢は、私たち高校生のお手本だと感じました。
取材前は、海外留学や商社の仕事は難しそうで自分には縁がないと思っていたメンバーも多かったですが、小林さんの考えや経験を伺ってから関心を持てるようになりました。「思い込み」で自分の可能性をせばめることなく、私たちも視野を広く持って今後の進路を選択していけるようになりたいと、意識が変化する取材でした。
諦めずに取り組むことの大切さを教えていただきました。
小林さん、本当にありがとうございます!