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高校生発 ロールモデルをみつけよう!#14 タカワ精密 渡邉光貴さん

                     取材日:2022年7月27日
                     編集長:松崎里帆子

私たち編集部員が通う原町高校の正門から目と鼻の先、赤が映える立派な建物は、南相馬市で四十年以上に渡り精密機器を製造し続けてきたタカワ精密の工場です。

確かな技術力を持ち、精密機器の製造を行うタカワ精密は、高い放射線の中でも稼働可能な水中ロボットという世界が注目する開発に着手しています。いま、南相馬に新しい価値を創ろうとしているタカワ精密の代表取締役・渡邉光貴さんを取材させていただきました。
 
部屋に入った直後は、渡邉さんに少し怖そうな印象を受けましたが、取材を始めるとそれは一変しました。冗談や具体例を交えながらのわかりやすく面白いお話で、私達の緊張もすぐにほぐれ、和やかな雰囲気で取材が始まりました。


〈胆力が付いたサッカー少年時代!〉

                          (松崎里帆子)
渡邉さんが、地元の石神中学校から原町高校へ進学したというお話を聞いて、編集部員の中に同じく石神中学校から原町高校へ進学、しかも中学校時代までサッカー部員がおり、私達は一気に親近感が湧き、話が弾みました。
渡邉さんは中学・高校と、ずっとサッカーに励んでおり、原町高校へもスポーツ推薦で入学するほどサッカーに夢中でした。当時の原町高校のサッカー部は、インターハイへの出場も期待されていたほどの強いチーム。それだけに、日々の練習も相当きついものでした。サッカーの練習試合を終え、へとへとになって学校に戻ると走り込みが始まる、そんなハードな日々を懐かしそうに「あんなに辛いことはもう無いなと思えば、大体のことは乗り越えられます。」「限界って超えられるものだとこの時代に実感しました。」そう、爽やかに仰っていた姿が印象的です。


高校生時代のサッカー部で活躍する渡邉さん~写真右端、仲間に指示~

当時の渡邉さんの食生活も、ザ・高校生男子!二時間目の休み時間にお弁当を食べ、お昼には購買でパンを買い、部活の前にも軽食を取ったと懐かしそうに話す渡邉さんです。当時は今の原町高校とは違い、一学年9クラスの中に男子と女子のクラスがあり、男子クラスだったという渡邉さん。今の一学年4クラスで男女が同じクラスの原町高校との違いに、私達も驚きました。女子との関わりが少なく女子クラスに憧れを持ちながらも男子クラスで楽しく過ごしていた、と話す渡邉さんの高校時代はまさに楽しそうでした。

〈ハードの魅力を確信!~東京時代~〉

                           (遠藤瑚子)
中学、高校生時代から東京への憧れが強く、東京で生活をしたいと思っていた渡邉さんは、東京の大学への進学を決意。東京の大学を選んだ理由は、元々電子工学に興味があり、学びたかった他に、環境を変えたいと考えていた渡邉さん。日々進路について悩んでいる私たちも興味が沸く話題でした。
当時、実家を継ぐ気持ちがまったくなかった渡邉さんは、大学卒業後東京のITソフトウエア会社にエンジニアとして就職しました。毎日夜中まで夢中で働いているなか、自分が現在携わっているソフトウエア開発とハードウエアを組み合わせたいと思いが沸きあがります。ソフトウエアは、ハードがあることで活きることを確信してきた渡邉さん。実家を継ぐという選択肢が出てきたのもこのころです。6年勤めた会社を辞めて、父の経営に携わることを決意しました。この際に、「世界に日本を説明できるように日本を知りたい。」という気持ちから日本一周を行います。「皆さんも日本一周してみるといいですよ。人との関わりや 、生きる力がつきます。」と話す渡邉さんの行動力には、本当に驚かされました。
ソフトウエア会社で学んだ仕事の進め方や、日本一周の経験が今の仕事に活かされていると話す渡邉さんです。環境が変わること、新しい挑戦をすることを楽しんでいる渡邉さんの想いが、今のアグレッシブなタカワ精密の経営方針に繋がっているのだと思いました。
 
 

〈まさに職人!タカワ精密〉

                          (高野真帆)
タカワ精密とは、渡邉さんの先代が1979年に創業した歴史を持つ会社です。
ここでは、FA(ファクトリー・オートメーション)設備から精密治工具、そして水中ロボット作りまで、様々なものづくりを行っています。こちらを作るタカワ精密では、設計から設置まで製品生産が完結する、一貫生産体制をとっています。

今回は特別に、工場内を見学させていただくことができました。工場の建物は3つあり、それぞれ用途に合わせた様々な機械が並んでいました。
工場の建物に入る前は、並んでいる部品に向かって同じ作業をしている社員の姿を想像していたのですが、目に飛び込んだのは、それぞれの大きな機械で別々の作業をする社員の姿です。
大きな機械に向き合っている人、手作業で微修正している人など、社員1人1人が神経を研ぎ澄ませています。
緊張感あふれる場に、私たち高校生がお邪魔していいものかと少し気が引けましたが、社員さんから笑顔を向けていただき、気持ちよく見学をさせていただきました。一つ一つを丁寧に、そんな胸の内が聞こえてくるような洗練された空間でした。
 
工場内を回っている時に、渡邉さんが冷蔵庫の話をしてくれました。「冷蔵庫は入れ物としての箱よりも、その中にある基盤の方が作るのがとても複雑。大きい箱の方が複雑と思ってしまいがちだけどね。自分たちはその複雑な基盤を作るための機械を作っているんだよ。」
私たちはこの話を聞き、確かにと納得すると同時に、私たちが普段使う様々な機械は渡邉さんたちのような方々がいるからこそ便利に使えるのだと、改めて感心させられました。

〈タカワ精密の新たな挑戦"ラドほたるⅡ"~渡邉さんの想い~〉

                                                                                               (但野むつ美)
タカワ精密さんが、開発に今一番力を入れているのが、"ラドほたるⅡ"。
"ラドほたるⅡ"とは、事故を起こした福島第一原子力発電所の原子炉格納容器内の探査に使用される水中ロボットのことです。
何故、敢えて大変な開発となる廃炉に関わるロボット開発に着手したのか。
そこには、東日本大震災の被害を目の当たりにした渡邉さんの想いがありました。
2011年3月11日の東日本大震災では、南相馬市も大津波で多くの方が亡くなり、海側の広範囲の地域に大きな被害をもたらしました。
被害の大きさを自分事とした渡邉さんに沸き上がった「地域の防災や減災に役立つものを作りたい」との想いが、"ラドほたるⅡ"開発に繋がっています。
 
渡邉さんたちが開発している"ラドほたるⅡ"は、高放射線量に耐えるためのたくさんのアイディアが詰まっています。高い放射線の影響を受けると、高性能な電子機器は不具合が生まれます。その不具合を解消させるために渡邊さんたちは、試行錯誤しながらアイディアを練っていきました。放射線の特徴を逆手に取ったロースペックなカメラとモーター、そして薄暗い水中でロボットの傾きを確認するためのT字ライトを付けるなど、アイディアが詰まった水中ロボットです。

(渡邉さんたちが開発したラドほたるⅡ)

新しいロボットを作ることは一筋縄ではいきません。ある部分の修復が終わったら、今度は違うところに不具合が生じる…次から次へと課題が出てきます。そんなロボット開発ならではの難しさを乗り越え、課題をクリアしたときの達成感はとても大きいと、楽しそうな渡邉さんの笑顔が印象的です。
 
わからないことだらけの廃炉作業が進む中で、まだ世の中にない廃炉に役立つロボットを作ることに挑戦している渡邉さんたちは、タカワ精密の社風である「挑戦」そのものだとお話を聞きながら感じました。
 
原発事故からの復興に欠かせない廃炉作業に向けて、大きな役割を果たしている会社と人々がこんなに近くにいることを知り、本当に頼もしく思いました。

〈高校生へのメッセージ〉

                                                                                            (佐藤菜々香)
最後に、渡邉さんから、私たち高校生に向けてのメッセージをいただきました。
渡邉さんから、
「とにかく色々のことに挑戦してほしい。そして、1つでも2つでも、一生懸命向き合えるものを大切にしてほしい。」とメッセージをもらいました。
「今、一生懸命に取り組んだ経験は、いつか絶対に役に立つ。高校生の今、部活や勉強が大変と感じることもあるかもしれないけれど、高校生時代が自分を追い込めると感じる一番のピークなのかもしれない。もし、将来大変なことがあったとしても、今の経験が心の支えになる。」と、ご自身の経験を重ね合わせながら話してくれました。
 
さらに言葉を紡ぎ、「高校生の皆さんには、たくさん悩んで、色んな人に相談してほしい。人に話をするだけで、自分の気持ちが整理される。そこから、様々なことに思いっきりチャレンジしてほしい。」ともおっしゃっていました。
「たくさん悩んで、色んな人に相談してほしい」という言葉は、渡邉さん自身が高校生時代にかけてもらいたかった言葉だったと教えてくれました。高校生の私たちは、やらなければいけないことに嫌気が差して逃げ出したくなることや、悩みがありなかなか前に進めないこともあります。しかし、渡邉さんのお話を聞いて、相談をすることは恥ずかしいことではないと感じました。どんどん色んなことにチャレンジして、悩んで、相談して、自分のやりたいことに一生懸命に向き合っていきたくなりました。


〈編集後記〉

一つ一つを丁寧に向き合い、そして前に向かっていく渡邉さんからチャレンジするためにも相談することの大切さを教えていただきました。
本当にありがとうございました。

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