お昼やすみに、観劇を。
午前の仕事に区切りをつけて、お昼やすみ。むかったのは、西会津町の絶景スポットのひとつ。今はもう終わってしまったけど、このあたりは黄金色に輝く田んぼや、真っ白な花を咲かせるそば畑がほんとうにきれいで、道路脇に車を停めて、写真を撮ったり眺めたりする人の姿をよく見る。
そんなすてきな場所に「風の丘ファーム」さんという直売所があり、そこでわたしは車を停めた。
野菜を買いに来たわけではない。星くんと、ナオさんの演劇作品を観るためだ。
星くんは、西会津町出身の俳優さん。「ほしぷろ」という創作ユニットを主宰していて、町内での演劇プロジェクトだけでなく全国各地で作品を発表している。6月に開かれた「草木をまとって山の神様」にも俳優として出演していた。あれもすごくよかった。わたしと同い年なんだけど、いろんな苦労をしながらもいい生き方をしているなあって、彼を見ていつも思う。
ナオさんは、一言で紹介するのがとてもむずかしい人なんだけど、バイオリンを弾いたり、ドキュメンタリー作品をつくったり、めっちゃおいしい料理をつくったりする。ふだんは長野県を拠点にしていて、10月から1月末くらいまでとあるプロジェクトのため西会津町に滞在されているアーティストだ。ニシアイズカン編集室があるシェアハウス&シェアオフィスの住人で、わたしのお風呂あがりのすっぴん姿を知っている人でもある。笑
そんなおふたりが一緒に、作品をやるという。宮沢賢治の「虔十公演林」。詩人・演出家の野宮有姫さんが書いた新作の詩をまじえた、オリジナルの作品だそうだ。野宮さんもよく知る人なんだけど、話すと長くなるので別の機会に…。
日常と非日常のはざまで
本当は田んぼのど真ん中でやる予定だったのが、雨が降っていたので急きょガレージでのリーディング作品に。
星くんが朗読し、ナオさんがバイオリンを奏でる。ふたりともふだんの姿をよく知っているはずなのに、もうそこにいるのは星くんとナオさんではなかた。俳優・星善之と、バイオリニスト・中澤ナオだった。とても不思議な気持ちだった。
星くんの心くばりから、お客さんにはお弁当をサービスしてくれた。「どうぞ楽な姿勢で、お弁当を食べながら観ていってください」
星くんはゆったりと椅子に腰掛け、朗読をはじめた。
外は冷たい風が吹いたり、たまに晴れたりしている。いつも知っているお気に入りの絶景スポットが、舞台へと姿を変えた。これまた不思議な気持ちだった。
星くんの表情が、声色が、ころころと変わる。ナオさんのバイオリンが、物語に彩りを添える。
物語がすすむにつれて、星くんの動きがダイナミックになってきた。わたしもどんどん物語に惹き込まれていって、気づけばお弁当を食べるのを忘れてしまい、お米が冷たくなっていた。
物語の終盤、また雨がザーッと降ってきた。そのとき星くんが、「雨が降ってきて…」というような台詞を語った(正しい台詞は覚えていなくて、こんな感じのことを言っていた)。
ちょっと、鳥肌がたった。お天気のかみさまが、作品に出演しているようだ。
不安定な空模様や、ときどき車を停めて様子を伺う人の姿すらも、この作品の一部のように思えてすごくおもしろかった。
たぶん、このふたりはリーディング作品をやるつもりではなかったんだと思う。天候の関係で急きょライブパフォーマンスをやることになって、このためのリハーサルはしていなかったんだと思うけど…
この日、この時間、この場所、この環境じゃないとできなかった作品を観れて、またわたし自身もこの作品の一部になれた(気がする)ことに、すごく心が満たされていた。
あっというまの40分。雨がやみ、空には三重の虹がかかっていた。
もうふたりはいつもの星くん、ナオさんに戻っていて、いつもよくみる日常の風景に感じられた。
この40分、なにが起こったのだろうか。わたしにとっては、仕事あいまの昼やすみ。それは日常でありながら、観劇はわたしにとって非日常だった。日常のなかの、非日常。「ごちそうさま」をして、家に戻り、ココアをつくって余韻にひたっていた。
そこに、ナオさんが帰ってきた。
さっきまで舞台にいた人が、シェアハウスの住人としてそこにいる。これも不思議な気持ちだった。ナオさんにココアをどうぞして、わたしは仕事に戻る。
その前に、どうしても今日の体験を書き留めておきたくて、こうして書いてみたんだけど…原稿の締め切りがやばいのでいよいよ本当に戻らなきゃ…
…戻るって、どこに?