Σは積分である話をわかりやすく
Σは数学で総和を表す記号です。ところで、数学に興味があるひとは「積分とΣは同じようなものだ」という話を聞いたことがあると思います。今日はその話を詳しくします。
この記事の対象としているのは次のような方々です。
〇大数の法則自体は知っていて、数学的背景も知ってみたい方
〇機械学習やデータサイエンスを使う方で数学への興味が強い方
〇シンプルに数学に興味がある方
この記事以降では純粋数学初心者の方でも可能な限りきちんと数学的に理解していただけるよう努力しています。
ですので、純粋数学とはこういうものというイメージが無い方には最初は難しく感じるかもしれません。
はっきりいって応用で使うだけならここまで知る必要はないというところにも必要があれば踏み込むつもりです。
それでも数学的な背景を知っていることは技術者にとっては安心感の源になるだろうという信念のもと、少しでも数学の知識を分かりやすく共有していければと思っています。
全てを理解している必要はありません。(どんな偉大な数学者でもそれは無理です)大切なのはどこまで分かっていてどこから分かっていないのかを自分で分かっていることです。
リーマン積分とルベーグ積分
前回まで大数の法則の話をしていたのですが、この記事の内容を先にしておいた方が分かりやすいので先に持ってきました。
さて、積分とは古典的には足し算の極限として定義されます。リーマン積分というやつですね。
関数を細切りにして、四角形で近似してその四角形の面積全体を足し合わせたものの極限をとるのがリーマン積分です。
ちなみに高校生のときに習った積分は正確には積分ではありません。高校では微分の逆演算と定義されていますが、それは教育上仕方なくそうしているだけです。(リーマン積分の定義はきちんとやると意外と難しいですから)
区分求積法を覚えておられたら、あの発想は一応ちゃんとした積分です。(それでもなぜあのやり方でうまくいくのかは証明を要することなのでまだ足りませんが)
リーマン積分は定義のうえでは直感的にとてもわかりやすい積分です。
「関数を細切りにして、四角形で近似してその四角形の面積全体を足し合わせたものの極限」という発想をそのまま式にするだけの定義ですから。
しかし、面白いことにこのリーマン積分というものは非常に難しい積分だということが時代が下るとともに判明してきます。
たとえば、
「有界閉集合上の連続関数はリーマン積分可能である」
という命題を考えましょう。
はたしてこの命題は正しいでしょうか?
答えは「偽」です。
有界閉集合というのは数学では非常に基本的なとても性質のよい集合です。そのような集合の上でさえリーマン積分ができない場合があるんです。(興味のある方は太ったカントール集合で検索するといろいろ出てきます)
有界閉集合というのは簡単に言えば、無限に広がっているような広い集合でなくてかつふちのある集合ということです。
このようにリーマン積分はどのような集合上で積分するかという点において非常に弱かったと言えます。
同じことですが、関数列の極限操作に弱いという点もありました。
そこで出てくるのがルベーグによる測度論です。測度論は「面積とはなにかを徹底的に考える理論だ」と紹介しました。
それと同時に、「どのような集合に対して面積という意味のある値を与えることができるか」というテーマについて切り込んだ理論だといってもいいでしょう。
測度論が整備された結果、有界閉集合のような基本的な集合上では当然のように積分が定義できるようになります。
そして、このルベーグ積分はリーマン積分の拡張になっています。
また、積分を定義するための発想はリーマン積分とは少し異なりますが、四角形で関数を近似してその面積を足し合わせていくという発想は変わりません。
Σ(総和)と積分は同じものとして考えられる
さてやっと本題ですが、Σと積分はルベーグ積分を導入すると同じものとして統一的に扱うことができます。
両方とも実は積分でΣは積分の特別な形だと思ってよいのです。
そこには測度論で使う数え上げ測度というものが関係します。
|A|はAに含まれる要素数を表します。
この集合関数は実は測度の公理を見たします。つまり、広い意味で面積だと考えられるのです。
前の節の最後で、ルベーグ積分でも四角形の面積を測って足していくという発想は同じだと述べました。
そこで、この四角形の面積を測るための関数を取り換えることができます。
ところで、普通私たちが普段使っている測度とはどんな測度でしょうか。
実はそれはとても単純で、小学生以来よく知っている長さ、面積、体積です。次元によって呼び名は変わりますが本質的にはすべて面積を広い意味でとらえたものと考えて問題ありません。
実はこの面積の測り方こそがルベーグ測度だと言ってしまってもいいでしょう。
細かいことをいうともっと色々つけ足さなくてはいけませんが、一番大切なアイデアは上の図のように長さを測るという見慣れたやり方です。
というわけで、普段は私たちが面積を測るときには知らず知らずのうちにこのルベーグ測度を使って積分をしていることになります。
そして、数え上げ測度がやはり測度としての性質を持つ以上、ルベーグ測度と数え上げ測度を取り換えることで別の積分ができるはずです。
そのようにしてできる積分が、実は私たちが高校以来慣れ親しんでいるΣにほかなりません。
このようにしてΣと(古典的な感覚での)積分は測度による積分という統一的な立場から同じものだと思うことができるのです。
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