『コングレス未来学会議』をみたこと
『コングレス未来学会議』というすんげーヘンな映画をみた、という話。
(いまGYAO!で無料配信されていて、久しぶりに観たらやっぱり良い映画だったので。以下、2015年7月11日に書いた感想文なんですが再掲します。)
先週…だったかな。いまちょっとお手伝いさせてもらっている会社の社長さんが、仕事中に突然、
「うおおおおおお‼‼」
って叫び出したんですよね。
普段、どちらかと言うと落ち着きがあって紳士的な方なので、何事かと思って振り返ってみると、
「うううううう、うまい‼‼」
といって、そこにいた社員に「おかき」を配り始めたのです。
おかき……。
えっ、この社長はおかきを食べて叫んだのか?仕事中に?
いやいやいや、そんな、いやいや、だって、おかき?おかきはおかきでしょ?
いくらうまいといってもそんな叫び出すほどの(ぱりっ、もぐもぐ)……
「うおおおおおお‼‼‼うまいいいいいい‼‼‼」
……思わず叫んでしまいました。
これは、もはや、おかきではない!
食品というよりもむしろ、……エンタテインメントや‼‼‼
さて。
本日のテーマは、「『コングレス未来学会議』という映画をみた」ということなんですが。
この映画の中に「未来の映画」というものが出てくるんですが、これがちょっとその「おかき」っぽいんですよね。
「うますぎるおかき」に限らず、「うまいまずいと関係なくもはやエンタテインメントなもの」ってあるじゃないですか。「ねるねるねるね」とか。アレ、もうお菓子というより遊びに近いですよね。どっちかというと。
『コングレス未来学会議』の中で描かれる「未来の映画」の姿は、「画質がどうの」とか「臨場感あふれるサウンドがどうの」とか「最新の3Dで立体感が…」みたいな話とはもはや無関係になってるんですよ。
主人公の女優、ロビン・ライトは、演じるロビン・ライトさんとおなじく80年代後半~90年代前半には『フォレスト・ガンプ』のヒロインを演ったりして人気者だったんだけど、その後はこれまた本人とおなじく結婚したり離婚したり子どもができたりして、(女優としては)鳴かず飛ばす、というキャラ。(ここも、本人と同じ。)
で、そのロビンさんに、大手映画会社が「最後の契約」を持ちかけるところからお話は始まります。
その契約とは、大金を受け取る代わりに全身のすべて、そして、あらゆる感情をスキャンして、CGキャラ「ロビン・ライト」を作りだし、20年間自由に使わせること。そして、その間、ロビン・ライトさん本人はテレビ・映画に限らず一切の演技をしないこと、というものでした。
難病の息子(これは映画の設定)の為に、ロビンさんは契約をのむんですが……。
タイトルになっている「未来学会議」というのは、その契約から20年後、契約更新の場で開かれる会議のことをさしているんですが、ここからがすごいんです。
会議が開かれる街・アブラハマには「アニメじゃないと入れない」ので、ロビンさんも「アニメになって」入って行くんですが、それまで実写だった風景や人物がべろべろべろ~っ!とアニメに変わっていくんですよ。
ここからはアニメ映画です。
そのアニメも、いまの日本の繊細なアニメみたいなのじゃなくて、あえて古いアメリカのアニメみたい(『ポパイ』や『べティちゃん』のフライシャー兄弟風らしい。)にしていて、それが極彩色でぬるぬる動き回るんだから、すごくきもちわるい。きもちわるいんだけど、美しい。
未来の世界のアニメの表現がジャパニメーション風でも今のディズニーアニメ風でもなく、古いフライシャー兄弟風ということにもすごく皮肉めいたものや妙な不気味さを感じます。
ずっと
「なんだかんだ言っても、技術的にはやっぱり日本のアニメが一番だな」
と思っていたんですが、こういうものをみせられてしまうとちょっと……、という感じ。
で、アニメ化された世界の中、未来学会議の場で「あたらしい映画」が、発表されるんですが……、この「あたらしい映画」っていうのがまた、なんとも深い訳です。
この『コングレス未来学会議』の中で描かれる未来はまるで荒唐無稽なようにも感じられるんですが、それでも「オーケストラ」と言えばわざわざホールに足を運んで大勢で一緒に聞くもの、という時代だった頃の人々に
「いつか小型のプレイヤーやイヤホンを使って、同じ部屋にいる100人がそれぞれ違うオーケストラの演奏を聞く時代がくる」
って言ってもにわかには信じてもらえなかったでしょうし、そう思うと「絶対ありえない」とも言い切れないような気もします。
絶対ありえないどころかここ10年20年の世の中の動きをみていると、この映画で描かれる未来はむしろかなり正確なんじゃないか……、とすら思えてくる。
ま、この映画は未来予測がテーマって訳ではなく、それは「ごく主観的な世界」とか「自分らしさ」とか「愛とはなんだろう」みたいなものを描く上での味付けに過ぎないとも言えるんですが、「あたらしい映画」やそれによって作り出される世界の様子はインターネットやSNSが発達したいまの世の中の「なんか変だな」という部分にも通じるところがあって、観ててちょっと考え込んでしまうんですよね。
主人公の設定が演じる俳優の実際の境遇をかなり色濃く反映しているということや、どこまでが現実でどこからが幻覚・妄想なのか、といったお話のつくり、ハリウッドやショービジネスの業界に対する批判的な姿勢など、この間みた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』に近いものも感じるんですが、あっちは物語が進むにつれてひとりの男の葛藤を深く描き出していくのに比べて、この『コングレス未来学会議』はその辺りの個人的な問題から世界全体を覆う不安までどこか俯瞰してみているような印象があって、みたあとの感じはだいぶ違います。
原作は『惑星ソラリス』のスタニスワフ・レム。
まぁ、難しいことは抜きにしても、私がこの数年でみた映画の中でもヘンテコ具合ではかなり上位に入ります。
みてよかった度合い、面白かった度合いでもかなり上位。
「好きな映画」ということで言えば、トップクラスです。
監督のアリ・フォルマンという人はホドロフスキー監督が「これはアニメじゃないと作れないかも知れない……」って言っていた『ホドロフスキー版デューン』を作ろうとしているらしくて、それもちょっと楽しみ。
この映画をみた7月8日に私は30歳になったんですが、ちょうど区切りのいいこの日に10年先、20年先を眺めるようなこの作品に出会えたというのも、なんだかうれしい気がするのです。
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叫ぶほどうまかったおかき(≒エンタテインメント)。(食べ終わったあとですみません。)
コングレス未来学会議
↓ここで無料配信されています。(2022年1月8日~)