ババドナはなぜシナジーがないのか
何ヶ月か前にあった #ババドナ の話。「うすうすわかってたけど我々シナジーがないことがはっきりしたのでババドナ解散します」という衝撃的なステートメントがありまして。
(注:ババドナとは、#ホロライブ の #大空スバル と #宝鐘マリン のコンビ名)
まあそれは、どこまで本気で解散といってるのかわかりはしないんだけど、それより私がああそうかと思ったのは、
「なるほど本人たちも、我々なんかしっくりこないなという感覚があったのか」
私が見た感想としても、「なんかババドナ、会話のラリーが気持ち良く行ったり来たりしないな」という感覚があります。
これは、「面白い、面白くない」とはまったく別の話です。私は「ババドナ未知との遭遇」の配信を、すげえ面白いと思っています。
これはものすごく面白い配信なのだけど、それはそれとして、会話のピンポンラリーが気持ち良いリズムで響いてこないねという感覚も同時に持っているわけです。
(ババドナ未知との遭遇)
この二人はホロライブの中でもトップに近いような凄腕の配信者で、足し合わせたら10倍くらいの戦闘力になってもおかしくないのに、どうしてラリーが気持ち良く響かないのかなあ……。
ということをフワッと考えていた結果、なんとなく答えらしきものに行き着いたのでそれを書きます。
いちおう念を押しておきますけど、以下、ここで述べる「シナジー」は、「会話が気持ち良く行ったり来たりする感覚」くらいの意味であり、「面白いか面白くないか」とは別の問題です。
何の説明もなくいきなり結論を言うと、
「この二人は両名ともリズムパートで、しかも気持ち良いと思っているリズムがずれており、お互い相手に合わせる気があんまりないから」
まず、
「二人の人間が会話をしていて、それを聞いていたらとても気持ち良い」
(=シナジーがある)
という状況があるとする。
この状況を、以下のようにモデル化する。
「一人が会話のリズムを作る。もう一人はそのリズムにうまくメロディーを乗っける」
それがうまくいった場合、会話が気持ち良くなる。
たとえば漫才を考えてみよう。
#オードリー のリズムパートは若林さんだ。オードリーの漫才は、若林さんがのべつまくなししゃべっている。そのしゃべりが気持ち良くリズムを刻んだところに、気持ち良いタイミングで、シャウトに近いような春日のボーカルが入るという構造になっている。
#ナイツ のリズム担当は塙さん。塙さんがほぼ全編、自分のペースでリズムを刻んでおり、そこに土屋さんがメロディーをのっけるしくみになっている。塙さんのリズムは変拍子で、そこに曲芸のようにツッコミのフレーズを土屋さんが乗せるので気持ち良い。
リズムとメロディーの関係がいちばんわかりやすいのは #ハライチ 。ハライチの漫才(特に初期)において、岩井さんはリズムを刻むこと「しか」していない。岩井さんのリズムの上に、澤部さんがノリツッコミという名の、長い長いメロディーをのっけていく構成だ。
ようは、リズム係が決めた会話リズムに、メロディー係がうまいことフレーズをのっけると快感が発生して、うまくいった感じがでる……というふうに考える。
(この漫才の例を考えると、「ボケツッコミ」と「メロディーリズム」が、まったくイコールでないことがわかる。ババドナの問題が「ツッコミ同士だから」といった理由でないことは明らかだ)
■ホロライブでいうと
さて、配信者のコラボも、これとまったく同じであると考える。
つまりは、全配信者は、適性として「リズム型」か「メロディー型」かに分類可能である、という、単純な図式化をしてみる。
座の中に、リズム型とメロディー型の両方がいて、なおかつ、その二者の音楽的相性がいい場合、シナジーが発生する。
■大空スバルの場合
大空スバルは自他共に認めるツッコミ担当だ。ツッコミ性能がむちゃくちゃ高い。早口の大声で、タイトなフレーズを、適切なタイミングでバンバンさしこんでいく。凄い。
そのタイトなツッコミを定期的に差し込んでいくバンバンというリズムが、そのままコラボ配信のビートになっていく。つまりスバルはリズムの人で、「おい!」っていう圧の強い声の繰り返しでリズムを作り、そのリズムに自分で乗っていく。
スバルのいるコラボ配信では、スバルが場のリズムを支配する。
スバルとシナジーがあるとされているホロライブメンバーは、 #癒月ちょこ #猫又おかゆ #大神ミオ #姫森ルーナ など。全員おっとりしゃべる人たちだ。つまりこの人たちは適性として、かなりメロディー寄りなのだと思う。
おそらく、このへんのメロディー組が好きなタイミングでしゃべっていると、スバルがつっこみはじめて自動的にテンポ感が発生するというしくみなのだと思う。そうして発生したテンポにのっけて、フレーズを足していくと、グルーブになり、「なんかすごいかみ合った感じ=シナジー」が生まれるのだろう。
なのでおそらく、このへんの面子からスバルを抜くと、たちまち成立感がうすくなる。
■究極のリズム型としての会長
このリズム/メロディーの構造に(たぶん)意識的だったのが #桐生ココ 会長。
会長は完全にリズム型の人で、なおかつ、自分のリズムを崩すことが大の苦手な人だ。
だからコラボに参加者として呼ばれていったときには、いまひとつハネなかったりする。
そのかわり、自分のリズムで場を支配したときにはハネる。その究極の形が、Reddit Shitpost Review。これはもう、会長リズムで全編が支配されている。
まず、ミームの文章を会長が読む、ということを通じて、トーンが発生する。
英語で読んで、日本語で読み直す、という段取りによって、ビートが刻まれる。
(英語がリズム的、日本語がメロディー的である点も見逃せない)
そして「(パンパン!)Next meme!!」というかけ声によって、配信全体が大きく切り分けられ、なおかつ、会話が進んでリズムとメロディーが複雑に入り組んだのを、強制的にニュートラルに戻す。
そのようにして会長のリズムが全体を強く支配したところに、ゲストのあなたがお好きにメロディーをのっけて下さいという構造になっている。これはもう完全に意識してらっしゃる。
(こう考えてみると、「(パンパン!)Next meme!!」ってのが、凄い発明だということがわかる)
■究極メロディー型・赤井はあと
#はあちゃま の ShitPost review が、なぜかふにゃっとしていた理由の一端もたぶんこれが関係している。
会長が究極のリズム型だとしたら、#赤井はあと は究極のメロディー型。
配信内に心地よいリズムを作り上げていくという意識が、はあちゃまに関してはきわめて薄い、というかほぼゼロ。
はあちゃまの魅力は、彼女が何か思いついたときにリズムを無視して思いついたそのままを言うところにあり、「はあちゃまは自由だな」という評価のかなりの部分がそこからきている。
おそらく、はあちゃまは、「誰と組ませてもシナジーが発生しない」という、とんでもないキャラクターだと思う。しかし、そのシナジーのなさがあまりに突き抜けているためにかえって魅力があるという不思議な形になっている。
私が見るところ、 #天音かなた のタイプはリズム型なので(だから大空警察のときスバルとの会話が噛み合いにくかった)、かなたん版の ShitPost review がもしあったとしたら、ココ会長のそれに近いものになっていたと思われる。
(モンハンコラボの伝説的三下ロールプレイにおける、三下ビート刻みはすごかったですね-)
はあちゃまと同じくらいメロディー型なのが #潤羽るしあ 。
彼女がメロディー型であることは、リズム型の船長やかなたんとの間にシナジーが発生していることからわかる。
2020年末のホロライブ全体ライブ「hololive 2nd fes.」のあと、はあちゃまと潤羽るーちゃんは、二人でライブの振り返り配信をしていた。この配信、ひたすら二人がかわいらしくて、かわいさのオーバードーズで脳がとろけそうになったのだけど、会話のテンポ感は地獄でした。
なんで地獄テンポになったのかは、今になってみるとよくわかる。この人たちは二人ともメロディー全振りのパラメータだからだ。
■宝鐘マリンの場合
宝鐘マリン船長は適性としてはリズム型なのだと思う。
おそらくだけど、「リズム型はソロ配信適性が高い」という傾向がありそうだ。船長は、へたなコラボにつっこむよりソロ配信のほうが10倍面白いまである。
だけど船長は、リズム以外も自在にできちゃう。
宝鐘マリンは座談の天才だ。この人は、自分で会話のリズムを作り、そのリズムに自分でメロを乗せ、そのメロに適切なフレーズをのっけて、自分で盛り上げ、自分で回収する。ようするに全部自分ひとりで完結できてしまう。
おそらくマリン船長は、「こういうリズムで、こういうメロディーで話をすると座談がハネる」という必勝パターンをいくつか自分の中で作り上げているはずだ。そして船長は、なかば無意識のうちに、トークをその必勝パターンに持ち込もうとする( #兎田ぺこら も基本そう)。
この「マリン船長の必勝パターン」に、うまく自分をのっけることができる配信者が、「マリン船長とシナジーがあるライバー」だ。
#さくらみこ が典型的な例です。さくらみこは、船長が即興で始めた遊びに全乗っかりして、おもしろをふくらますのがめちゃくちゃにうまい。基本、みこちは、船長が場にいるときはだいたいこのムーブに集中する。
(というか、船長が場にいないときにみこちがこのムーブをしている印象があまりない)
さくらみこもソロ配信適性が高いライバーで、独特のリズムがあり、おそらく独自の必勝パターンを持っている(船長のパターンに比べて幾分見破りやすい)。
たぶんみこちは、能力値をレーダーチャートにするとマリン船長とかなり近い配分になると思われるのだが、しかし、「シナジーの出る相手」がマリン船長と比べて確実に多い。
これはみこちが、船長と比べて、「相手に合わせる能力をかなり強く持っている」ということだと考えていいと思う。「シナジーが出る相手が多い」はさくらみこが持っているすげぇ高度な能力だ。この人凄すぎて凄い。
マリン船長はココ会長と同タイプで、「できれば周りが私のリズムに合わせてくれたら嬉しい」という感覚を持っていると思う。というか、わりと積極的に、自分のリズムで場をグルーブさせようとする。なので、大型コラボ企画にマリン船長がいると、カレー粉みたいにマリン船長味が全体に広がる感じになる。
(こうみるとココ・マリン間にシナジーがなかったのはすごくよくわかる話だ)
■大空スバル再び
で、スバルに立ち戻ってみると、この人は各種コラボ企画において、「自分でリズムを刻む気のない人々の群れに放り込まれて一人でリズムパートをやる」ということをえんえんやってきた人だ。
(OKFAMSやスバちょこルーナを念頭に置いている)
そういうことをやってきたスバルの中には、当然、スバル特有のリズムが色濃くきざまれているだろう。トークの必勝パターンも持っていて、「この面々の自由なトークをこういう流れに持ち込めばハネる」というゾーンも意識されているだろう。
そういう大空スバルみたいな人が、「はい、今日はマリン船長のリズムに全面的に合わせてやってくださいね」といわれたところでそう簡単にできるわけがない。
これは宝鐘マリン側もおなじ。「今日はスバルのパターンにのっかってみてね」というのは、マリン船長が一番苦手とするタイプのオーダーだろう。
スバちゃんと船長は、実は「相方のリズムに対してメロをやる」ということをほぼやってきてない二人である……と言えるかもしれないのです。
つまるところこの二人は同じ弱点をかかえた似たもの同士の面があって、お互いがお互いにとって「その弱点だけは私じゃどうにも補えない」という関係にあるので、シナジーがないのは当然なのであるという結論になりました。
マリンとスバルは「話題が合わなすぎる」ということを言っていて、そういう面も当然ある。いろいろと複合した結果だろう。ただ私には、話題の面より、上記のリズム論、パターン論のほうがより大きい問題だと思っています。
■処方箋はあるのか?
基本的に、辛抱強く2人でコラボを続けていけばいずれ解決する。
(面白いし、求められているので、続けるのは難しくないだろう)
短期的に効果のあるいい方法はないのか、と言われれば、ないでもない。それは私が思うに、 #犬山たまき #因幡はねる メソッドだ。
この二人が招集するコラボにマリン船長が出張っていってるとき、場全体がマリン船長味になってることがほぼない。大空スバルが出張しているとき、スバルがやりにくそうにしている感じがしない。
なんでそうなのかというと、(1)構成がかっちり決まっていて、段取り通りに進むから。(2)外部の枠組みなのでさすがの船長スバルも俺が俺が状態にならないから。
なので、段取りをきっちり決めて配信をするか、外部のvtuberを一人入れるかすると、てっとりばやく改善する可能性があります。まあ、そう簡単にはいかないかもしれないですけどね。
(初稿ここまで)
●追記その1
上記において、リズム型とメロディー型、という、きわめて単純な分類を試みたわけだけど、これは別に「リズム型はメロディーができない」とか「メロディー型はリズムを持ってない」とか、そういう極端なことではありません。
これは「能力(適性)がどっち寄りか」くらいのことです。すぐれた配信者はだいたい両方を持っており、ソロ配信では両方の能力を発揮しているはずです。
例えば「この人、どっち寄りか判別がつかないな」と思った場合には、つまみがちょうど真ん中にある、くらいに考えればよい。
また、リズム型同士やメロディー型同士だと必ずシナジーは発生しないということでもないと思います。たぶん #ブラマヨ さんは個人適性ではリズム・リズムのコンビで、 #笑い飯 さんはメロディー・メロディーのコンビのような気がする。
(だから笑い飯さんのネタは後半テンポが上がるとリズムネタのようになっていく・ネタでリズムを補っている)
(お笑いのたとえをしていて気づいたけど、「本人適性がリズム寄り」と「ネタ・場における役割がリズム寄り」は別の問題のような気がする。これは今後の課題としたい)
●追記その2
私のよりもっと端的で興味深い考察があったのでご紹介します。これは納得。
すごく芯を食った解析だと感じます。
(この1ページ目の会話の特徴グラフ凄いよなー。その通りだ-)
ババドナの問題点はスバちゃんがつっこみきれず、話が落ちきらないところにある。つっこみきれない理由は船長の繰り出すボケがボケかどうかすらわからないから。それじゃあフレーズも選べないしパンチも効かせられない。
(そして落ちきらない話の尻尾を船長がひっぱってしまい、話がびよんびよんになる)
この問題を解消する方法として「スバルがマリン船長からネットミームを学ぶ企画をやればよい」という提言をされているのも納得で。
この提言のポイントは「船長のいってることをスバルが理解するようになる」だけではなくて、
「ボケが船長の外側にあり、ツッコミどころが明確である」
というところにもありそうだ。
ネットミームというのは基本的にボケているものであり、「これはこういうボケです」という仕組みが説明されれば、スバルはその場で提示された「ネットミームというボケ」に全力パンチでつっこめる。
従来のババドナは、船長が共感を期待してふにゃっとしたボケをくりだしてくるからうまくいかないのであり、船長とスバルのちょうど中間位置に、かたちのあるツッコミどころの明確なボケをガツンと置けば成立するのである。
私は、ココ会長のShitpost Reviewでいちばん出来がいいのは大空スバル回だと思ってるのだけど、みるからにシナジーのなさそうなこの組み合わせが(この回以外にココスバがシナジーを発揮している例を知らない)なぜかうまく回っていた理由がこれでやっと理解できました。
その理由とは、レディットのクソ投稿という「笑いどころが明確でツッコミどころも明確な題材」がココとスバルの間にリズム良くポンポン置かれ、そこに対してスバルがツッコミをためらいなく打ち込んでいく(「アヒルやないか!」)構造だったからである。
提示されたクソ投稿に対して大きくつっこんで落とす。もし話が膨らんだらもう一回落とす。それでターンが終了して「(パンパン!)Next meme!!」が入る。というように、スバルがどのタイミングでどう落とせばいいかが明確であった。1~2回、大きく話がオチきって、1ターン終わる、というリズムの繰り返しが、視聴者を気持ち良くノセていくからおもしろくなりうまくいったのだ……と理解できる。
たぶんこの形式を使えばババドナはうまくまわりそう。その題材としてここで提言されている「スバルの知らない世界 ネットミーム編」はまさにちょうどいい。
●追記その3
当記事が、はあちゃま、 #赤井はあと 様のご清覧をたまわった模様です。光栄の極みです。
(動画、当該部分から再生されます)