【ある錬金術師の話(仮題)25】
「行くと決めたのなら、急ごう。
なにせ、アグリッパにも依頼しようか?と言ってのだから。」
コルネリウス・アグリッパ:
ホーエンハイムと同じ、ドイツ人でいわゆる魔術師として知られる。
その著書である「オカルト哲学について」(全3巻)はルネサンスの魔術師層の集大成となっている。その内容は、フランセス・イエイツによれば、「マルシリオ・フィチーノが教えるヘルメス主義敵魔術とピコ・デラ・ミランドラが導入したカバラ的魔術とを要約したもの」とされている。
この文章だけでは、理解不能なのだが、平たく言ってしまえば、古典的な魔術を復興させた人物、といえる。
その最も顕著な例が、ダイモン活用の再興である。
古代ギリシャ思想では、ダイモンというものが重要であった。
ダイモンとは、神と人間の間を仲介する存在である。
言ってみれば、使い魔とか式神みたいなものである。
人々は、その力を恐れ、逆に利用しようともしていた。
だからこそ、ローマ帝国とキリスト教会は、ダイモンを排除しようとしていた。
絶対神からすれば、ダイモンは悪魔の手先、だからだ。
もちろん、こう言った動きは教会からは嫌悪されるものであった。だからこそ、彼を嵌めようという動きもあった。
本来、全3巻であるはずの「オカルト哲学について」には、第4巻という偽書がある。この中において、アグリッパを黒魔術師のように貶める内容が、書かれている。
こう言った反対勢力の甲斐もあって、アグリッパの悪評は絶えなかった。