【ある錬金術士の話(仮題)2】
その都カイロには、あまり似つかわしくない男がいた。
男といえば、男なのではあるが、背格好は子供のよう。
せいぜい150cm程度の小男である。
その男の名はパラケルスス。
本名はテオフラストゥス・ボムバストゥス・フォン・ホーエンハイム。
実は、「パラケルスス」というのは自称であり、本名ではない。
“ホーエンハイム“をラテン語読みにしたのだとも、”古代ローマの名医ケルススより偉大な者“と言いたいのだとか、本人以外はわからない。
恐らく、両方の意味なのだろう。
とはいえ、医学論を記したケルススよりも偉大とは、なんとも大きく出たものである。
それこそ、古典医学においてケルススは、ヒポクラテスやガレノスと同等の扱いを受けていたし、発熱に対して単純な解熱剤の使用を戒めていることからも、今の医学に劣ることもない見識を持っていた。
ナイルの雄大さ、寛容さとは、見た目も中身も大違いの小男なのである。
そうは言っても、確かにこの男の能力は、当代随一であったことは間違いないのだが。