【ある錬金術師の話(仮題)5】
もう一人、彼に多大な影響を与えた人物がいた。
ジークムント・フューガー伯爵である。
フィラッハには、ヒューガー伯爵の製錬所が有り、彼はここで錬金術の手ほどきを受けた。
ここで少しだけ、錬金術について触れておこう。
錬金術とは、「化学的に金を作る方法」である。金は金属の中で、”最も完璧な存在”と考えられていた。金は王水以外の溶液には溶けず、酸化もしない。
だからこそ、ツタンカーメンの黄金のマスクは、いまだに輝きを保っているし、古代の金貨は、作られた当時のまま変わることがない。
また、持ち上げた時のあの重厚感は、他の金属にはないものである。この金を作る材料としては、鉄とか亜鉛といった金属を用いる。
金銀以外のこれらの金属をあわせて、”卑金属”という。
つまり、錬金術とは「卑金属を素として、いかにして完全なる金を作るのか?」、という手法である。
現代科学からすれば、そのようなことは不可能ではないものの、かなり大掛かりな装置が必要となる。
また、金を生成するのに、創りだした金以上の費用がかかる。
そうは言っても、哲学的に荒唐無稽かというと、そうでもない。