【ある錬金術師の話(仮題)3】

パラケルススの出生は、数奇に満ちていた。

1493年、スイスのアインジーデルンにて生誕。
スイスの一部地域には、古来より低身長の者が多かった。
先に述べたように、パラケルススもその例外ではなく、低身長であった。

今でこそ、その原因はクレチン症(食事性のヨード欠乏)によるものとわかっているが、当時は風土病と考えられていた。
そしてパラケルスス自身が、世界ではじめて、その原因が甲状腺腫である、と突き止めたのではあるが。

彼の父は農家ではあったものの、貴族の血を引く医師であった。
一方、彼の母は農奴であった。

そのため、彼は自身の父親については、「今こそ落ちぶれているが、シュワーベンの騎士団に所属する、ボンバストゥス家出身の貴族なのだぞ!」、などと喜んで語るのだが、母親の話になると急に黙りこむ。

彼が母親の出自に関してコンプレックスを持っていた。
しかし、それが母親への愛情の欠如につながったかというと、そうではなかった。

なぜなら、母は彼の幼いうちに亡くなり、それが元であの禁断の研究に手を出すことになったからだ。
 

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