【ある錬金術師の話(仮題)14】
その中でも、注目していたのは、アヘンであった。
アヘンは、麻薬の一種なのではあるが、その鎮痛作用はすこぶる良い。
また、あまりにひどい咳や下痢にも、利用できる。
とはいえ、常習性についても気になるだろう。
しかし、がん性疼痛がある場合、痛みが取れる容量までは、中毒になることはない。
また、喫煙とは異なり、経腸管吸収のため常習性が低い。
ホーエンハイムはそこに注目し、最も効果的な配合に取り組んでいた。
その中には、アヘンのみならず、真珠、麝香、琥珀などが独自の配合比率で交ぜてあった。
チンキ剤の存在自体は、錬金術の発達とともに、知られていたものだった。しかし西欧世界において、チンキ剤を使おうという考え方は皆無だった。
ホーエンハイムがこのようなものに取り組むきっかけは、イスラム圏での放浪の中で出会った、民間療法のお陰といえよう。