【ある錬金術士の話(仮題)】
エジプトはナイルの賜物(たまもの)。
ヘロドトスの『歴史』における一節であるが、まさにナイル川こそがエジプトに繁栄をもたらしたものであった。
ケニア、ウガンダ、タンザニアに囲まれたアフリカ最大の湖、ヴィクトリア湖から流れでた水は、世界最長の6690kmもの距離を要して、デルタ地帯を形成した後に地中海に降り注ぐ。
周辺を見れば一目瞭然ではあるが、このナイル川がなければ、文明どころか人も寄り付かない砂漠であったことは想像に難くない。
その肥沃な土地ゆえに、多くの国々から狙われたのは至極当然のことであった。
ノモスという小国家の分立を経て紀元前3000年頃に、エジプト古王国という統一国家を成立させたものの、中王国、新王国と推移し、前332年までに31の王朝が興亡した。
ヒクソス、アッシリア、ペルシア、マケドニア、ローマなどにより支配されることがあったが、7世紀以降はイスラム化が続いていた。
そして1517年からは、オスマン帝国によって支配されていた。