貯めるの?失うの? 8ハウスの意味
講座「お金の入り口」で、「8ハウスと貯蓄、相続、喪失」についての質問を複数の方から頂きました。本稿はTwitter投稿のまとめです。
「古典と現代の意味、真逆じゃないの?」「なんでそんなに違うの?」についての投稿です。発端は2ハウスと8ハウスについて、古典ローカル・ルールで解説したことにあります。
質問
『8ハウスは変容、相続、継承、時間をかけて築くものを表すと習いました。貯蓄という意味も(古典では)異なると今回知りました。現代占星術の8ハウスの意味が昔と違う理由は何でしょうか。なぜ喪失などの意味が現代占星術から消えたのでしょうか』
自分は、現代と古典は「仕組みの異なる占星術」、あるいは「異なる考え方の上になり立つ占い」との前提に立っています。そのため、こうした違いや矛盾が気になる方には「古典」と「現代」の使い分けを提案しています。
さて、それを踏まえた上で、12あるハウスのうち、特にネガティブな意味をもつハウスは、8ハウスを入れて3つです。 古典占星術の8ハウスは現代とは異なり、「死」と「喪失」がメインテーマです。古くからある8ハウスの名称は「空白」の場所。なぜ現代、この意味や名前が消えてしまったのでしょう。
8ハウスの意味「相続・遺産」はどこからきたか?
これは、相手(7ハウス)の財産(2ハウス)から派生した古典的な解釈が元になっています。チャートのターン(転回)と呼ぶ、ホラリー占星術でよく使われるテクニックのひとつです。
相続が配偶者の死や別れと不可分である様に、古典解釈の8ハウスは「失うこと」に関係します。また人のお金に関連し、借金やローンを表します。
たとえば、「客先で落とした財布はどこ?」という質問で、2ハウスのルーラーが8ハウスにある時。たいていの古典ホラリーの占星術師は「財布は相手の所有物となっている」と判断すると思います。
さて3つのネガティブなハウスは6ハウス、8ハウス、12ハウスです。
現代占星術、特に心理的アプローチをメインテーマとする現場では、何十年かをかけてネガティブなハウスをポジティブな意味に転化する試みが行われてきました。 また、なにより鑑定現場において、占星術に対する要望の多くが単純な吉凶判断ではなく、相談者自身を「解説」「形容」「肯定」するもので、[2] 占いが自分自身の物語を再確認する機能を果たしている様に思います。こうした背景は、8ハウスから「喪失」や「深い悲しみ」などの意味が消えた十分な理由となるでしょう。
「変容・継承」がどこからきたか?を考えてみる
「変容」は「死」を生命の変容過程とする考えから生まれたのかも知れません。 「継承」は「遺産(継ぐもの)」、また蠍座が象徴する「生殖」から派生した可能性が高いです。
「貯蓄」や「運用」は比較的新しい解釈です。そして恐らくは日本独自のものです。 というのも、国内のSNSやブログでしか見かけたことがないからです。
「時間をかけて築くもの」の出自は分かりません。
現代の占星術では概してネガティブな表現が控えめとなり、古い否定的な意味については言い換えを行い、肯定的表現を用いることが一般的となりました。その 一方で、吉凶判断や二者択一質問、また、個々の惑星の力を評価し答えることは困難になりました。
では、現代占星術を古典時代に戻す必要があるでしょうか。その案に自分は賛成できません。 それに、吉凶判断や惑星評価方法は、現代占星術が育ててきた「自分解説機能」とはあまり相性が良くないのです。
そこで、こうした違いや矛盾が気になる方には、下手に混ぜたり、統合を試みるのではなく「古典」と「現代」の使い分けを提案しています。
そうすれば、土星以遠天体、マイナーアスペクト、ハウス象意、諸々の解釈違いで起きる矛盾についての悩みは消え、どちらが優れているとか、当たっているといった話題とも無縁でいられます。
古典時代の占星術と8ハウス
古典占星術における8ハウス解釈の出典として、4世紀に書かれた占星術書「マテシス(Mathesis)」から紹介します。作者はローマ帝国時代の作家、占星術家、元老院のマルテヌス・フィルミクス。翻訳元はJean Rhys Bram版です。
フィルミクスは、日周運動で星々、太陽、月が下降を始める8ハウスを「冥界への入り口」、アセンダントから昇る直前の2ハウスを「冥界の出口」と表現しています。これはどういうことでしょうか。
たとえば、8ハウスの太陽は南中を終え、数時間後に黄昏を迎える位置にあります。子どもの頃、外で遊んだ午後を思い出してください。8ハウスは「まだ遊べるけど、やがてやってくる友だちとの別れ、楽しみの終わり」を予感する時間帯です。フィルミクスの淡泊な解説にはこうした描写はありません。でも9ハウスで南中し、全盛を迎えた太陽が向かう「地底世界の予感」、それが「冥界への入り口」という表現になったと自分は考えています。
一方、2ハウスは未だ地底にありながら、やがて地上世界へと昇ることが約束された場所です。それまで地上世界を覆っていた闇は、東の空に現れる淡い光によって解かれ、間もなく夜明けが始まります。それは闇の世界から、光の世界へと移る希望の時。
フィルミクスは2ハウスが希望と共に、財産の増加を表すと残しています。それは、ここが夜明けの希望と共に、地底世界の金銀、宝石、鉱物が地上へと届けられる接合点だからでしょう。
それでは、彼が残した3つの記述を紹介します。
17. アスペクトしないハウス
1. 残りの4つのハウス[2-6-8-12]は、アセンダントとアスペクトせず、いずれも衰弱しています。このうち、アセンダントから2番目のハウスは、地獄の門、あるいはアナフォラ(冥界からの上昇)と呼ばれ、正反対に位置するハウス、つまりアセンダントから8番目のハウスは、エピカタフォラ(冥界への下降)と呼ばれています。最後は、マラ・フォルトゥナとマルス・デーモンのハウス。マラ・フォルトゥナ[悪運]はアセンダントから6番目、マルス・デーモン[悪霊]はアセンダントから12番目のハウス。マラ・フォルトゥナはギリシャではカキ・ティーヒ[3]と呼ばれ、マルス・デーモン、12番目のハウスはギリシャではカコス・ゼーモン[4]と呼ばれています。
19. 12ハウスの意味
3. アセンダントから2番目のハウスは、2番目のサインに位置し、アセンダントから数えて30度から始まり、次の30度まで影響を及ぼします。このハウスは個人的な希望と物質的な財産の増加を示すも、受動的なハウスで、アセンダントとはアスペクトしません。そのため、このハウスは地獄の門と呼ばれています。
9. アセンダントから8番目のハウスはエピカタフォラと呼ばれています。アセンダントとアスペクトしていないため、受動的なハウスです。このハウスから死因を見つけます。8ハウスで歓喜する惑星は月以外にはなく、月が増光する夜チャートに限ります。もし月が夜チャートでこのハウスにあり、不利な惑星[凶星]とアスペクトせず、木星が彼女自身 [月]のサイン、金星、水星、木星のサイン、またはこれらの惑星のいずれかの条件で、彼女[月]とトラインまたはセクスタイルがあるなら、計り知れないほどの大きな幸運と富、物質的な力の大きな栄光、世俗的な地位における傑出した評価の兆しです。
※ []は投稿者による
註釈
内側から:ハウス番号、ハウス・ルーラー、ジョイ(歓喜)、古典時代のハウス名称(英語/日本語)、ハウス3種(英語/日本語)
著者自身の経験則と、著者周辺での聞き取りに基づきます。
英語読みではケイス・タイキ、カケ・ティケなど。
英語読みではカコス・ダイモンなど。