風の時代のアノマリー 「大闘争」の幕開け〜前篇・後篇
2023年春分図から読む次の29年
本稿は2020年12月15日投稿の『グレートコンジャンクション〜風の時代と貨幣の変容(以下「貨幣の変容」)』を踏襲し、2023年春分図から次の29年について占星術のロジックで未来予測をします。
概要
2023年は日本にとって新たな29年周期に入る年です。90年代以降の日本を称して「失われた30年」と呼ばれてきました。本稿では次の29年を「大闘争の時代」と呼び、29年周期の占星術的背景、「大闘争の時代」と呼称する理由と歴史的背景の概略を述べます。
また筆者は古典占星術の学徒ですが、本稿で扱う周期は古典伝統派の技法とは関係ありません。
春分図と古典占星術について
「春分図」は国家の一年間を占う、古くからある西洋占星術技法のひとつです。太陽が牡羊座0度(春分点・黄経0度)に入る瞬間のホロスコープ・チャートを用いることから、日本では「春分図」と呼ばれています。
春分図は国家の命運を占う「マンデイン占星術(世界占星術)」という分野に属し、戦争や国勢を占うメソポタミアの天文占星術では中心的な役割を担っていました。古代ギリシャで再編された占星術においても、プトレマイオス(2世紀)や中世アラビアの文献に登場します。また、古典占星術では、マンデイン占星術に次の様な象意(ルーラーシップ)がハウスに割り当てられています。
2023年の春分図を読む
では手始めに2023年の春分図を読んでみましょう。
春分図のアセンダントと1ハウスは、出生図と同様に特別な意味があります。
占星術師が年間の天候や情勢を、1ハウスのサインとそのルーラー(支配星)、ハウス内の天体で占うためです。2023年は牡羊座がアセンダントのサインで、ルーラーは火星です。
特徴を挙げるなら
・三つの天体と幸運のロットが1ハウスに集まっている
・木星はアセンダントにあり、地平線上へ昇る直前
・凶星(土星・火星)が1ハウスに障害を与えていない
問題は火星(1ハウスのルーラー)が3ハウス(減衰するケイデントハウス)にあり、アクシデンタル/エッセンシャル共にディグニティが高くないこと。これは、様々なテーマが表面化することを表す1ハウスと比較して、根っこ(1ハウスのルーラー火星)の活動力がさほど高くないことを表しています。
この状態を例えるなら、あまり恵まれていない土壌で、沢山の実をつけている植物です。沢山の実とは太陽、水星、木星。太陽は5ハウス、水星は3ハウスと6ハウス、木星は9ハウスと12ハウスのルーラーです。それぞれのハウスが表す事象が、表面化しやすいということになります。
もう少し解像度を上げてみましょう。
水星はコンバスト(太陽の光で見えない状態)で弱体化しています。牡羊座は太陽のエグザルテーションですから、水星にとってはラッキーです(太陽のドミサイル、エグザルテーションではコンバストの障害が軽減するというマーシャアラーの説に従っています)。でも、依然として水星が管轄する6ハウス(備蓄や農業)、3ハウス(報道や通信)には注意が必要です。
エッセンシャル・ディグニティこそありませんが、アセンダント直下の木星はとても強く、9/12ハウスに関連する事柄が活性化する表示です。
太陽もまた強力です。アングルにあり、エグザルテーションを得て、昼の配置にあります。チャートの主星(ロード)を選ぶなら、太陽を第1候補に挙げます。
アセンダントの牡羊座は熱く乾いた状態を表し、1年を通じて高温。活動宮ですから、苛烈な自然現象を表すこともあります。ただ、近年の気候変動を考えると、こうした気象占いは殆ど意味をなさないでしょう。
月と大衆の活力
月は4ハウスのルーラーです。同時に月は国民(一般大衆)を表す天体です。減衰する12ハウスにあり、太陽とのコンジャンクトを控え、光を減じて弱体化しています。つまり、国民の活力が総じて低いことを表しています。
経済はバラ色?
筆者は投資活動の一環で、春分図を参考にすることがあります。具体的には9割以上の情報を会社四季報などの個人投資家向け情報、1割以下を占星術で得ています。
2023年の日本経済について個人的には悲観的です。政府が何も対策を打たなければ、再びデフレへ向かう可能性を疑っています。[*1]
一方で、春分図が示す日本経済はバラ色です。2ハウスは牡牛座、ルーラーは金星です。アセンダントとアスペクトしないことは短所ですが、金星は2ハウスにありドミサイル(最も良い状態)であり、エッセンシャル・ディグニティも非常に高く、さらにノース・ノード(ドラゴンヘッド)とコンジャンクトし(強化)、凶星からの障害も受けていません。
また、富を表す幸運のロット(PoF)は1ハウスで華を添えています。申し分ありません。占星術だけを見て、経済政策、原材料高騰によるインフレを考慮しないのであれば間違いなく「日本経済にとって最高の1年」でしょう。ただ、実際の経済はそんな風には動きません。包括的な予測は後篇に譲りましょう。
「大闘争の時代」と春分図のアセンダント巡回周期
筆者が春分図で最初に注目するハウスは、出生図と同じくアセンダントです。そして春分図のアセンダントが巡る周期には、実は一定の規則性があります。
下記をご覧下さい。
春分図アセンダントが牡羊座の年(1920-2089)
1920年/1924年
(29年の空白、以下「・」)
1953年/1957年
・
1986年/1990年
・
2019年/2023年
・
2052年/2056年
・
2085年/2089年
ここ100年、春分図が牡羊座アセンダントで始まる年は29年毎に訪れています。
そして、いちど牡羊座アセンダントの年が始まると、4年を経て2度目の牡羊座アセンダント年が訪れます。
たとえば、1990年は牡羊座アセンダントでした。
その29年後、2019年に再び訪れ、その4年後(2023年)にもう一度牡羊座アセンダントとなります。
こうした循環サイクルは、サインなどの諸条件で異なりますが明確な周期性があります。[*2]
周期性は天体の動きと日周運動から生まれます。古代の占星術家は、この周期性について膨大な研究を残しており、ヘレニズムの「ゾディアカル・リリーシング」、ペルシャの「フィルダリア」、インドの「ダシャー」などが特に有名です。
周期性を読む占星術は「ホラリー占星術」に代表される卜占とは全く異なる構造です。筆者が専門的に学んでいる占いのひとつはホラリー占星術ですが、マンデイン占星術においては周期性に重きを置いています。
牡羊座アセンダントが表す発火点
さて、牡羊座アセンダントが表す占星術的な象意はなんでしょう。牡羊座が表すのは火属性がもたらす熱くて乾燥した状態です。季節では夏に相当します。食べ物では辛いもの、苦いもの。感情では怒り。惑星では火星です。
「貨幣の変容」で火の属性の再定義としてこう述べました。
アセンダント循環周期における火属性は文字通り、燃え上がる起点です。さらに、12サインの始まりである活動宮の牡羊座は、人の頭部を表すサインです。
下図をご覧下さい。上述した牡羊座アセンダントの西暦、春分図のアセンダント度数、その年の出来事、そして各29年を表すタイトル(1)〜(3)です。(4)は予測として後篇にて解説します。
1920年は「戦後恐慌」の始まりでした。第一次世界大戦からの過剰生産が原因で、 日本の輸出産業は一転不振。東京と大阪で株価大暴落が起きたのが1920年3月。1923年には、首都圏を関東大震災が襲いました。
1927年には国内の金融恐慌が起き、さらに1929年、米国市場に端を発する世界恐慌の波が1930年の日本を襲ったのです。こうした波乱の後、11年後に起きたのが大東亜戦争(太平洋戦争)です。当時の日本にとって1920年〜1924年は戦争へと向かう兆しでした。現在と異なる点は、当時の日本人が投資行動に積極的だったことです。これにより株価の暴落は国民生活をも直撃してしまいました。[3]
こうした流れで牡羊座アセンダントの年を追うと、29年毎に訪れる4年間が、近代日本の暮らしを変える起点であることが垣間見えてきます。
後篇は、デジタルインフラがもたらす極化と自動化、インフレが引き起こすであろう市場再編と日本の変容、そして「大闘争の時代」予測へつづきます。
註釈
確かに大企業の給与微増中。政府もそれを後押しする発言を繰り返しています。でも将来の増税を匂わせ、国内への投資は極めて消極的に見えるからです。
誰もが簡単に確認できる春分図の周期性は、太陽が33年に一度、同じハウスへ回帰することです。そして、出生図において太陽回帰図の太陽もやはり同じサイクルに従います。ご自身の33年後、66年後の太陽回帰図を出してみてください。ホール・サイン・ハウスシステムなら、太陽は出生図と同じハウスにあるはずです。
現在の日本人の貯蓄志向は、お金が足りなくなった戦後の政府と行政が一体となって預金を奨励したことで形成されました。https://president.jp/articles/-/18860?page=2
参考文献
Dykes, Benjamin. Astrology of the World II, Cazimi Press, 2014
Houlding, Deborah. The Houses The Temples of the Sky, The Wessex Astrologer Ltd, 2006
風の時代のアノマリー 「大闘争」の幕開け(後篇)
2023年03月28日 21:56【初版】
29年毎に訪れる4年の発火期間
さて、未来を見る時は例外なく過去が役に立ちます。過去3回の29年サイクルでは何が起きていたでしょう。たとえば、29年のサイクルの中間では、その期間を象徴する出来事が起きました。これを仮に29年サイクルのピーク期とすると、次の様にまとめることができます。
ピーク1:1924年の17年後 1941年 米国と開戦する
ピーク2:1957年の15年後 1972年 高度経済成長がピークを迎える [4]
ピーク3:1990年の15年後 2005年 死亡数が出生数を上回る [5]
これに照らすと、来年から始まる29年サイクルのピークは2035〜2040年頃です。後篇では今から10年後の「2033年」から見る物語として、過去から未来へと時代を描きます。
本稿の目的は、占星術に現れるサイクルを期間分割に用いて、約30年毎に移り変わる日本の暮らしの変化を描くことです。そして、四つ目のサイクルに描く出来事は「物語」です。予言ではありません。
「貨幣の変容」では今後200年に起こりえる、貨幣の変化を抽象的に描きました。本稿は今後30年(そして日本)に限定していますから具体性が必要です。具体的予測の5割は外れるでしょうけど、実在と架空の企業名、具体的な出来事と時期を含めたことで、イメージが幾分か伝わりやすくなったと思います。AIとデジタルインフラが引き起こす労働環境の変化、インフレがもたらす市場再編、大闘争と呼ぶ理由を物語に組み込みました。
では、100年前から旅をしてみましょう。
前述のとおり、このサイクルは牡羊座アセンダントで囲まれた4年間から始まります。
第一周期「破壊の29年」戦後恐慌から第二次世界大戦へ
父方祖父は満州鉄道職員でした。満州の生活は快適で、戦時中も飢えに苦しむことはなかったそうです。よく憶えている昔話は、進軍してきたロシア兵がとても怖かったこと、引き上げ時の混乱、帰省してからの風当たりが大変厳しかったという話です。母方は京都にいたため、空襲もなく、食べ物不足以外は不自由はそれほどなかったそうです。
発火期間の1920〜24年は「戦後恐慌」から始まります。29年サイクルの中間期で米国と開戦をしました。
中国に攻め入り満州国を手中に収めた日本は、欧米諸国の植民地であった東アジア全域の開放を目標に掲げました。こうした動きを認めない連合国との戦争を始めるも、連合軍の圧倒的物量と軍政府の失策で早期講和を果たすことが出来ず敗退。最後は原爆を二度落とされ、息の根を止められました。GHQの指導のもとで憲法と歴史教育が改変され、新しい国家を作る道へと進みます。英語を公用語とする働きもありましたが、日本語は生き残りました。
インフラが破壊され尽くされたことで物資の供給が滞り、戦後直後は高インフレ経済となります。
このサイクルでは極めて苛烈な出来事が国民の生活を直撃しました。
第二周期「大復興の29年」神武景気から高度成長期へ
高度成長期、筆者はサラリーマン家庭に生まれました。当時の横浜は運河にならぶ艀(はしけ)が家屋になっていたり、繁華街には薄暗く危険な場所が残っていました。東京上野では、復員兵の格好をした腕や脚の無い男性が路上でお金を貰っていました。祖母から「見ちゃいかん、ありゃぁ商売じゃ」と注意されたことを憶えています。今思えば、微かですが日本中に戦後の匂いは残っていたのです。
二つ目の発火期間は1953〜57年。この期間、戦後初めて日本に好景気が訪れました。神話世界以来の好景気ということで「神武景気」と呼ばれるほどでした。きっかけは1950年から53年に起きた朝鮮戦争と、それに伴う戦争特需です。
景気は戦前の最高水準を上回り、1956年には戦後復興完了が宣言されます。冷蔵庫・洗濯機・テレビ(白黒)などの耐久消費財ブーム、いわゆる「三種の神器」も誕生しました。この後につづくのが高度成長期です。実質経済成長率は平均で10%前後を記録。 1968年、日本はアメリカについでGNP第2位の経済大国となりました。焼け野原になった敗戦から僅か23年後のことです。
その勢いは29年サイクルの中間(1973年頃)まで続き、円安効果で大量の安価な靴や電気製品を海外へと輸出し、対外貿易黒字も拡大していきます。
高度成長期を支えた理由を、強いてふたつ挙げるとするなら先ずは円安。1973年まで続いた1ドル360円の固定相場制は輸出産業に追い風でした。もうひとつは、ものづくりが好きな日本人の職人気質です。初期日本製品の評判は散々で、米国におけるメイド・イン・ジャパンは「不良品」の代名詞でした。でも丁寧な製品づくりの姿勢と、工作機器の精度向上で工業製品のトップランナーへと躍り出ます。その結果、世界中で安くて性能が良い日本製品という評価が出来上がりました。
このサイクルでは、暮らしの中心に「物質的豊かさの追求」がありました。
第三周期「停滞の29年」バブルから失われた30年へ
当時、米国にいた筆者はバブル景気を体験していません。好景気の日本とは裏腹に、若年目線でも当時のアメリカは酷く落ち込み、全体的にやる気を喪失していた様に見えました。TVニュースでは、日本車を破壊するデモンストレーションや、三菱地所がロックフェラー・センターを買ったことが大々的に報じられ、米国においてSONYは現在のAppleに似たブランド力を誇り、人気のクルマと電化製品は日本製で占められていました。「日本人にアメリカの魂を買われた」「日本企業はやがて全世界を買う」「日本が一番かも」そんな雰囲気も漂っていました。今では考えられませんが、日本と日本企業に対する羨望と侮蔑が混在していたと思います。
第三の発火期間は1986年〜90年。バブル景気。バブルの発端は1985年に行われた先進国財相によるプラザホテルでの会議(プラザ合意)と言われています。乱暴に言えば「今後は米国に儲けさせろ」という会議です。この合意で日本円も上がり(対ドル円高)、日本の輸出品価格が値上がりしました。
これに合わせて日本の金融市場に大問題が起きました。急激な円高で、米国債券などの投資で莫大な損が発生していたのです。為替差損(かわせさそん)です。[7]
米国への投資を減らし、為替リスクのない国内市場に投資が向けられた結果、国内の株価と地価が急上昇しました。
そうした資産を持っていた人たちの含み益が増加し、これを好機と捉えた銀行は積極的な融資(金貸し)を始めます。また、一般人の間でも投機、財テクという言葉が流行りました。日経平均は最高38,915円を記録。しかし最後は大蔵省(現財務省)による急激な信用収縮施策で好景気は幕を閉じます。
これについて、現在は賛否両論があります。あのまま放っておいたら狂乱。さらに酷い状態になった、という説がある一方で、大蔵省の施策は性急で極端。数値的には通常の好景気で、潰す必要などなかった、という説があります。
問題はその後30年の停滞です。消費税の導入は景気の冷え込みに追い打ちをかけ、全国の商店街を破壊し「シャッター商店街」なる言葉を生み出した大店法の成立、今なお批判の多い非正規雇用拡大策などは「停滞の29年」中期の特徴です。またバブル崩壊後に起きた銀行の貸し剥がしが、日本の経営者にトラウマ的な影響を残し、内部留保へと向かわせたとも言われています。日本の賃金が海外と比べて高過ぎると言われていた90年代、経団連内部では労働者賃金の引き下げが議論されていました。身内に経団連関係者がおり、よくその話をしていました。その甲斐あってか、30年弱で日本の賃金は先進国で最も低い水準になったのです。
このサイクルでは、先の見えない将来への不安が中心です。象徴的な出来事としては、2005年に死亡数が出生数を超えたことです[5]。
第四周期 「極化の29年」失われた30年から大闘争の時代へ
四つ目のサイクルの始まり2019年〜2023年を「再起動の四年」と呼びます。
物語のはじまり
この時期を象徴する天文イベントは2019年後半から約半年間に起きました。オリオン座のα星ベテルギウスが前触れ無く減光を始めたのです。世界中の天文ファン、専門家が話題にした事件です。見慣れた星が暗くなるという体験は1000年に一度あるかないかです。
地上での兆しは2019年、武漢のCOVID-19から始まります。世界的パンデミックは生活様式を急激に変えました。
では、いよいよ具体的な物語へと進みます。
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