この三つが恋も仕事もダメにする。占星術師に合う前に知っておくこと
第1章 三つの行為と具体例
概要
「人間関係の悩み」について占星術的な解を求められる頻度は、仕事関連の相談に続く多さです。本稿は占星術から離れ、根本的な要因である私たちが陥る錯覚と、その解き方について解説します。
人間関係がぎくしゃくする原因は、相手に期待をする、相手を変えようとする、自分や相手を卑下するーーこの3つに集約されます。厄介な点は、これらが一見「正しい」行動に思える時があることです。第一歩は自分がこの状態に囚われていることに気づくこと。小さな意識の変化が、関係を驚くほど改善します。
三つの行為
三つの行為とは以下のとおりです。
相手の行動に期待する時 期待
相手を変えようとする時 支配欲求
自分/相手を卑下する時 卑下
「そうは言っても、人を好きになれば期待もするし、行動を変えてほしいと思うし……」と戸惑う方も多いと思います。ところが、実際には期待が裏切られたり、相手をコントロールしたり、あるいは卑下する自分や相手の言動が、関係性をぎくしゃくさせる要因になりやすいのです。
恋愛、結婚、仕事、家族、友人……どんなカテゴリーであれ、紐解いていくと必ずといっていいほど、この「三つの行為」のいずれか、あるいは複数に当てはまります。占星術的な解法の殆どは、この条件下においての個別対応に収まる、というのが筆者の基本的な考え方です。
引き起こす摩擦
相手の行動に期待する時
誰しも「こうしてほしい」「こうあってほしい」という願望を持つものです。しかし、それを「当たり前」のように求めてしまうと、期待通りにいかないときに強い不満や怒りが込み上げてきます。
たとえば、Aさんは、好きになった相手が必ず「毎日連絡をくれる」と思い込んでいました。相手は忙しくても連絡をくれるはず、という期待が積み重なり、実際に連絡が途絶えると「もう私のことを好きじゃないのかもしれない」と不安が募り、さらには相手を責めて落ち込んだり。そのお相手は、Aさんほど頻繁に連絡を取るタイプではありませんでした。そこですれ違いが生まれました。
「期待」それ自体が悪いわけではありません。しかし期待の度合いが高くなりすぎると、相手の行動を認められず、結果的に衝突を生んでしまうことがあります。
相手を変えようとする時
「相手にこうして欲しい」という思いに偏ると、相手を受け入れられなくなります。自分の理想像に近づくように相手を「改造」したくなる…言い換えれば支配欲求です。
たとえば、Bさんは、相手に「もっと社交的になってほしい」と望んでいました。あの手この手で外へ引っ張り出し、自分の友人に紹介したり。しかし相手は、ますます殻にこもり、結果的に二人の溝は深まりました。
もともと持っている性質、行動のペースは人それぞれ。このズレを解消するために「相手を変えようとする」行為は、たいていは破綻を招きます。
自分/相手を卑下する時
見落とされがちですが、「どうせ私なんて」「あの人はダメ人間だから」というような卑下の感情が入り込むと、お互いを素直に認め合えなくなります。
Cさんは、仕事で大きな成果を収めたパートナーに対して「自分はそこまで役に立たない」と感じ始めました。相手もズレを察知したのでしょうか、徐々に会話はぎこちなくなり、すれ違いは増えました。
卑下が習慣化すると、愛情表現や感謝の言葉も素直に伝えられなくなります。「どうせ言っても自分は意味がない」という思い込みが、「沈黙が心地よいだろう」という誤解を生んでしまうのです。自分を卑下している時は、同時に相手のことも卑下していると個人的には思います。
幻想と錯覚
「期待してもいいはず」
「相手を変えればもっと幸せになれるはず」
「卑下するほど謙虚でいられるはず」
これらは一見すると正論や優しさにも聞こえます。しかし、実際には相手の自由を侵し、自分の本当の気持ちを見えなくさせ、関係性に縛りを作る危険性をはらんでいます。
「まわり舞台の錯覚」
古い劇場には、舞台の下に回転する「まわり舞台」という仕掛けがあります。舞台上の景色や背景がぐるりと変わり、一瞬にして場面が転換する仕組みです。私たちの心も、まわり舞台のように気がつかないうちに視点を変えてしまうことがあります。
あるときは「相手こそが問題」と思い込み、
あるときは「自分さえ我慢すれば」と卑下し、
またあるときは「もっとこうしてくれればいいのに」と期待する。
一瞬のうちに舞台が回転し、自分でも気づかぬうちに立場や見方が変わるのです。その舞台転換のたびに、何が原因で衝突が起きているのかが分からなくなる――これが人間関係の難しさです。
第一歩は「自覚」すること
どうすれば問題に陥らないでいられるでしょうか。あるいは、その状態から抜け出すにはどうすればよいのでしょうか。ここで大切なことは、「自分がその状態に囚われていることを自覚する」ことです。まわり舞台の仕組みを「意識」できれば、「あ、今こうやって自分は自分や相手を卑下しているな」「今ちょっと相手の行動に大きな期待をかけすぎているかも」と、立場を切り替える瞬間に気づきやすくなるのです。
でも、おそらく、最初はこんな声が頭の中に響くはずです。
「そんなことはしていない。相手のためを思って行動しているんだ」
「自分は別に自分を卑下なんかしていない。事実を言っているだけだ」
本当にイライラしているときに、「期待しすぎていたな」と素直に思えるでしょうか。私たちは「今まさに自分が囚われている」ときには、その事実を認めたがらない天才でもあるのです。それに自分が感情や狭い考えの囚人になっているとは誰も考えたくないでしょう?
だからこそ「もしかして、また相手に期待してるかも」「もしや、今回も自分を卑下しているんじゃないか」と気づくことが全てのスタートです。自分が囚人であることを認めることができれば、そこから抜け出すのはそれほど難しくはありません。
「意識の積み重ね」が未来をつくる
とはいえ、この自覚は一朝一夕で身につくものではありません。何度も同じような落とし穴にハマり、相手を責め、自己否定を繰り返してしまうかもしれません。けれど、そのたびに「囚人」となった自分に気づくことが大切です。
「今日の自分は、ちょっとだけ前より早く気づけた」
「今回は、相手を変えようとしそうになった瞬間にハッと止まれた」
たとえ小さな一歩でも積み重ねれば、それはいつか「もう前とは違うな」という感覚につながります。星は一日ごとに少しずつ移動し、時間をかけて変化するように、私たちの心や行動も少しずつ変わりゆくものです。
もし今、人間関係で苦しんでいるなら、まずは「自分が三つの行為に陥っていないか」を意識してみてください。過度に期待する自分を見つけたら深呼吸をして立ち止まる。相手を変えたいと思ったら、まずは相手の視点を想像してみる。自分や相手を貶める言葉が頭をよぎったら、「それは事実?単なる思い込みでは?」と自問してみる。そうやって小さくても「気づきの灯」をポツポツと灯していく地道な作業が未来を変えるステップです。
さて、筆者も囚われる瞬間があります。「今はどの条件に当てはまるか?何を錯覚しているのか」との自問を続けることで、その時間は短縮されていますが、その瞬間、監獄に居ることに違いはありません。まずは「囚われている自分を自覚する」こと。これがスタート地点です。自覚さえ始めれば、ほんの少し先の未来から変わり始めます。ステップを踏み出した瞬間は最も心が躍る冒険譚のはじまりです。冒険の第1章が終わる頃、今と同じ悩みは消えているでしょう。
第2章 検証 三つの行為は本当か?
ここからは学術的な調査にも触れながら、「期待」「支配欲求」「卑下」を検証します。これらは、いずれも私たちが無意識のうちに陥りがちな罠なのでしょうか?
人と人とが関わるとき、ふとしたことからギクシャクしたり、すれ違ったりする経験は誰にでもあるものです。そんなとき、多くのトラブルの陰にある典型的な落とし穴として挙げたのが、前述の三つです。「なんだか耳が痛い」「自分もやってしまっているかも」と感じた方もいるかもしれません。これらの行為はいずれも一見すると小さなことのようでいて、コミュニケーションを乱し、人間関係を悪化させる要因となり得るのです。ここでは、著作や研究調査を踏まえて批評しつつ、それが日本人特有のものなのか、それとも世界共通のものなのかを考えていきます。
妥当性を読み解く
(1) 相手の行動に期待しすぎる
まずは「相手への期待」。大切な人に「こうしてほしい」「こう言ってほしい」と思うのは自然なことです。ところが、期待というのは「自己成就予言 (Self-Fulfilling Prophecy)」の影響を受けやすいとされています。たとえば、有名な「ピグマリオン効果」(Rosenthal & Jacobson, 1968) [1]では、教師の生徒に対する高い期待が実際にその生徒の成績向上を促すことが示されました。
ポジティブな場面では役立つ一方で、人間関係において「期待」は重荷になることもあります。期待に応えられないと、失望感や怒りが生まれ、相手への不満が募ります。社会的交換理論 (Blau, 1964)[2] などでも、「相手から何を得られるか」を無意識に天秤にかけるため、期待が裏切られれば関係性にマイナスが蓄積していきます。この理論から見ても、「相手に期待をしすぎると関係がこじれる可能性が高い」との主張は、妥当といえるでしょう。
(2) 相手を変えようとする
「もっと社交的になってほしい」「仕事に対してもっと真剣になってほしい」など、私たちはしばしば相手を理想の姿に変えようと試みます。けれども、コントロールされる側の気持ちを想像すると、これはかなりストレスフルな行為です。近年の対人関係研究 (Overall, Fletcher, & Simpson, 2010) [3]でも、パートナーをコントロールしようとする行動は、関係満足度の低下につながると繰り返し指摘されています。
また、ビッグファイブ理論をはじめ、成人のパーソナリティ特性を根本から変えるのは容易ではないこともわかっています。相手のコアな部分に踏み込み「変える」アプローチを取ると、相手は防衛的になり、よけいに自分の殻にこもってしまいがちです。結果として、かえって関係を険悪化させるという皮肉な事態に陥りやすいというわけです。
(3) 自分/相手を卑下する
最後は「卑下」。これには、自分を過小評価する自己卑下と、相手を見下す他者卑下の両面があります。社会心理学の研究 (Baumeister, 1993, 1999 など)[4] でも、自己評価が過度に低い人は周囲からのポジティブなフィードバックを受け取れず、結果的に「誰も私をわかってくれない」という孤立感を深める傾向があると示唆されています。
さらに「相手を卑下する」態度は、相手に対する否定や攻撃性の表れになりやすく、信頼関係を大きく損ねます。否定の応酬が激しくなると、言い争いがどんどんエスカレートしてしまい、修復も難しくなってしまいます。
日本人特有の現象か、それとも人類共通か?
これらは日本社会ならではのものなのでしょうか? それとも、どの国や文化でも見られる普遍的なものなのでしょうか?
日本では集団主義や謙虚の美徳がからみ合い、この三つの行為が静かに進行しやすいかもしれません。たとえば周囲に「迷惑をかけたくない」と考えるあまり、言いたいことを直接言わずに不満をためこみ、ある日突然対立が噴出するといったケースです。他の文化圏でも「相手に過剰な期待をしすぎる」「相手を支配する」「相手を見下す」といった行動は、やはり関係に亀裂を生むことが報告されています。
(1) 集団主義 vs. 個人主義
文化比較研究を行ったホフステード (Hofstede, 1980) [5]によると、日本は集団主義的な社会といわれています。集団主義社会では、「和を乱したくない」「周囲の期待に応えたい」という圧力が強くなりがちです。そこで、期待や支配欲求の度合いが高まる背景があるとも考えられます。
また、日本人が重んじる謙虚さは美徳として称えられる一方、「相手を立てるための遠慮」と「自分を卑下してしまう行為」が曖昧になりやすいとも指摘されています (Markus & Kitayama, 1991)[6]。結果として「ちょっと卑下しただけ」のつもりが、自己否定へと発展しがち、あるいは相手への過剰な遠慮がかえって不満を内面に蓄積させる、という状況も生まれるわけです。
(2) 全人類的に見られるもの
一方で、こうした対人トラブルは、アメリカやヨーロッパなどの個人主義社会でも報告されています。たとえば恋愛関係で「相手に期待しすぎて失望する」「相手をコントロールしたくなる」という問題は世界中どこでも頻繁に起こり得ますし、研究 (Overall et al., 2010)[3] でも文化を問わず同様の傾向が見られています。
つまり、「度合いや表に出やすい形が異なる」ことはあっても、基本的には全人類的に起こりうる普遍的な命題と考えられます。
「自覚」を再検証する
ここまで見てきたように、どれもコミュニケーションの流れをせき止め、相互理解を遠ざけ、悩みを増やす要因として注目されています。
メタ認知と柔軟な想像力
ここで鍵になるのが、自分の思考や行動パターンに気づく力、つまり「メタ認知」です。たとえば「もしかして私は相手に期待しすぎていないだろうか」「今、相手を無理やり変えようとしていないか?」「自分を卑下しすぎていて、相手からの好意や意見を素直に受け止められなくなってない?」と、少し立ち止まって自分を客観視するのです。これが積極的な「自覚」です。
著名な夫婦セラピストであるゴットマン (Gottman)[7] も、感情的な衝突を減らすには、否定や批判の応酬を繰り返すのではなく、「自分が今どう感じているのか」「相手がどのように感じているのか」を互いに理解するプロセスが極めて重要であると説いています。お互いの立場を柔軟に想像できれば、相手への期待や支配欲求、卑下の感情を軽減しやすくなるのです。
むすび
まずは自分が「期待」「支配欲求」「卑下」の罠に陥っていないかを意識してみること。人間関係は、多くの場合「気づき」から改善が始まります。もし今、誰かとの関係に悩んでいるなら、少しだけ振り返ってみてください。ほんのわずかのメタ認知が、対立やすれ違いをやわらげる大きな一歩になるはずです。
参考文献
Rosenthal, Robert, and Lenore Jacobson. “ピグマリオン効果: 教師の期待が生徒の成績向上に影響を与えることを示した研究.” 心と行動の無意識の偏り2: ピグマリオン効果, n.d.
Blau, Peter M. Exchange and Power in Social Life. Wiley, 1964. 【社会的交換理論】交換という概念を、社会構造や権力の発生にまで展開させた.
Overall, Nickola C., Garth J. O. Fletcher, and Jeffry A. Simpson. “親密な関係における怒りの感情表出と効果: 生存時間分析による検討.” 対人関係研究, n.d.
Baumeister, Roy F. “短縮版自己評価感情尺度の作成: 自己評価が過度に低い人が周囲からのポジティブなフィードバックを受け取りにくいことを示した研究.” 自己評価に関する研究, n.d.
Hofstede, Geert. Culture’s Consequences: International Differences in Work-Related Values. Sage Publications, 1980.
Markus, Hazel Rose, and Shinobu Kitayama. “謙遜に対する否定反応は再謙遜をもたらすか?: 日本文化における相互協調的な自己観を提唱した研究.” 文化比較研究, n.d.
Gottman, John. “ジョン・ゴットマン: 夫婦関係や結婚生活の安定性に関する研究で知られる心理学者.” ジョン・ゴットマン - Wikipedia, n.d.