大学1年 冬①ファッションデザイナーになりたいけどなれない
朝起きる
ホットケーキを焼いて紅茶を飲む
学校に行く
講義を受ける
ダンスの練習をする
洋服を作る
バー、またはレストランでバイト
何もなければJさんたちと宴会。
そんな毎日。
変わり映えのない毎日。
ただ、このあたりで僕は大きな悩みを抱えることになる。
"洋服の勉強がしたい"
ファッションデザイナーになりたいと思っていろいろ調べてみた。
新卒の求人を見ると、ほぼすべてに
"必須条件:服飾専門学校卒業または服飾系学部の大学卒業 実技試験あり"
とある。
僕は経済学部経営学科。
入口にすら立ててない。
そしてその入口は、このままだとどうやっても開かない。
僕は、選択を間違えてしまったらしい。
大学にさえ行けばどんな道も開けると父は言った。
しかし現実問題、僕の夢見る道はこの先にないものだと知った。
絶望した。
悔しくて泣いた。
なりたいものになれない道のために、4年もここに通わなければならないのか。
考えたら考えるだけ泣いた。
一通り泣き喚いて落ち着いたのち、僕は将来のことをすごい真面目に考えてみた。
どうやらこのままだとファッションデザイナーとして就職は出来ないらしい。
でも、そもそも有名なデザイナーはどうやってデザイナーになったんだろう。
気になって学校のPC教室で有名デザイナーの経歴を調べる。
すると、山本耀司さんや川久保玲さんなどは在学中からコンテストで賞を取りまくって、就職などはなく学校卒業して早くにブランド立ち上げをしていることがわかった。
俺がデザイナーになるにはこれしかない。
在学中にコンテストに出まくることだ。
でも、まあまあな数の洋服を作ってみてわかったことがある。
パターンの作り方が全くわからない。
どんなに面白いデザインを考えても、それをパターンにしようとしても思う形に作ることができない。
独学には限界がある。。。
まいった。
今更専門学校に行くわけにもいくまい。
そうは思いながら、北海道の近くの専門学校やカルチャースクールなどを調べてみる。
ん〜。ダメだ。
よくわかんないけど、和装とか縫製とかばっかりでパターンのことはあまり出てこない。
やはり東京に行くしかないのか。
大学辞めるか、、、
親に言いにくいなぁ。
わざわざここまでやってもらってるのに。
そんな葛藤を抱いていたとある日、オシャレイケメンのあべんが興奮気味に俺にダッシュしてきた。
「バイトの掲示板見た!?ジャスコのオシャレな洋服屋でスタッフ募集の紙出てたよ!」
おおおおぉ!
それは気になる!
あべんはレストランを辞めてそのバイトに行くと張り切っている。
俺はバイトを辞めるどころか学校辞めるかどうかの葛藤の中だったけど、ファッション業界の人の話を聞いてみたいなとは思った。
そこであべんの面接に無理言って着いていくことにした。
面接はお店の奥のカフェでやった。
細くてオシャレなおじさんが面接官だった。
あべんの話が終わって、あべんは即採用。
そして僕の番。
"君は?"
とだいぶ謎な表情で聞かれたので、ファッションデザイナーになりたいけどこのままだとなれないから学校辞めて東京に行くか悩んでること、ファッション業界の人の話を聞いてみたかったことなどを語る。
おじさんは開口1番
「うちで働けば?」
と言ってくれた。
「うちは販売代行って言っていろんなブランドのお店を運営してる会社だけど、いろんなブランドに触れられるから、洋服のデザインとか作り方とかスーツのこととかいろいろ勉強してみて、独学でも頑張ってみて、それでもダメなら東京行けばいいじゃん!俺はお前のこと気に入ったから、修行のつもりで働いてくれるなら嬉しいよ」
と。
嬉しくて嬉しくて涙が出そうになった。
ちょうどカリスマ店員がもてはやされてた時代。
カリスマ店員からデザイナーになる人が多いのもネットで見ていた。
カリスマ店員を目指そう。そしてデザイナーになろう。
そんな道もアリだ!
こうして、僕の学校辞める問題は解決して、僕は大学に通いながらファッション業界で働くことになった。
その足で高校から一緒のヤンキー君に報告に行った。
めちゃくちゃ喜んでくれて、なぜかヤンキー君の家でこれまた高校の同級生のヒップホッパーと3人で宅飲みをした。
ヤンキー君の部屋は俺と同じ家賃なのに激広物件で、しかもDJやりたいからと趣味のターンテーブルも置いていた。
3人で代わる代わるDJプレイをしていって、それぞれのオススメのレコードをかけていく。
ヤンキー君がかけたこの曲は、なかでもめちゃくちゃかっこいいなと思った。
ヒップホップダンサーなのに、ヒップホップがあんまり好きじゃない。
そう思ってたけど、ヒップホップが少しずつ好きになり始めてる自分に気付いた日でもあった。
今日はたくさんの嬉しいことがある日だ。
明日からは悩まず学校に行ける。
明日がくるのがようやく、待ち遠しくなった。