猫のいるしあわせ
今から数年前、動物愛護団体でボランティアをやっていました。
私が住んでいるところは、野良猫や野良犬が多い地域です。特に野良猫はよく見かけます。
私がやっていたのは、保健所に収容された犬や猫の写真をSNSに載せて里親を探す、というミッションでした。
保健所には毎日のように犬や猫が収容され、その写真がホームページに載せられます。
それはなかなか一般の人の目には触れないので、保健所の許可をとった上でその写真をSNSに転載し、拡散するようにしていました。
その写真を見て直接保健所に行く人もいましたが、私に連絡があった時は、私が条件を確認したり保健所に同行したりしていました。
その中で、忘れられないエピソードがあります。
その時は確か、数匹の子猫と生後6ヶ月くらいの猫が1匹、保健所に入っていたと思います。
子猫たちはきょとんとした顔をしていましたが、6ヶ月くらいのオス猫は、ものすごく怯えた表情で写真に写っていました。ケージの隅に体を押しつけるようにして。
胸が締めつけられるような写真でした。
子猫は人気があるので1週間の期限内にもらわれるケースが多いのですが、この猫はどうだろうか。とても綺麗な顔の猫でしたが、大きくなっていると不利になります。
私はそれが気になっていました。
私がその写真をSNSにアップしたその夜、ひとりの女性からメールがありました。
かなり遠方に住んでいる人でした。
「子猫たちをどうしても直接見たいので、明日そちらに行きたい」
というメールでした。
そんなメールあったとき私がまずやるのは、その人の本気度を確認することです。
軽い気持ちではないか、ご高齢者ではないか、ペット禁止の集合住宅でないか、不妊手術やワクチンを受けさせてくれるか、などなど。
かなり細かく聞きます。いい加減な気持ちの人は、この段階で諦めてくれます。
もらってくれれば誰でもよい、というわけではありません。
その女性は、本気度200%の方でした。
翌朝その人は、空のケージを抱えて新幹線に乗り、500キロの距離を移動して我が町の保健所までやってきました。
その日は私の都合がつかずお会いできなかったのですが、その人は保健所でそこにいる猫すべての動画を撮り、ご主人に送ったそうです。
電話での家族会議のあと、その人とご主人が選んだのは、子猫ではなく6ヶ月のオス猫でした。
この怯えてシャーシャー言っている猫を幸せにしたい。そう思われたそうです。
それから約1ヶ月後、その女性からメールで写真が届きました。
見違えるように穏やかな表情をした、あの猫です。
素敵な名前をつけてもらい、パパさんの背中に乗ったりママさんの膝で眠ったりしている写真です。
え? ボクこの家で生まれましたけど?
なんて言ってそうな顔です。
涙が出ました。
私はきっかけを作っただけですが、このご夫婦の強い思いが500キロの距離を超えて1匹の野良猫との縁をつなぎました。
保健所で震えていた猫は、優しい家族と安住の家を得ることができました。
私は今はこのボランティアをしていませんが、私の後任の人が続けているはずです。
そんなボランティアは、全国にたくさんいます。
犬や猫を飼いたいと思っている方は、どうか最寄りの保健所のHPをのぞいてみて下さい。
そこに、あなたの家族となる命がいるかもしれません。
【付記1 】
うちの地域では、保健所の収容期限が過ぎてももらわれなかった犬や猫は全頭愛護団体が保護しています(この記事内の子猫達も全て里親に引き取られました)。しかし団体も満杯状態なので、1匹でも多く保健所にいる間にもらわれるようにボランティアが活動しています。
【付記2】
今は飼えないという方は、どうぞ無理をなさらないで下さい。飼わない選択をするのも動物愛護のひとつだと思います。そのお気持ちを寄付や応援などで寄せて頂けると、愛護団体さんもきっと喜ばれるでしょう。