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FC岐阜2021シーズン総括 前編

はじめに

昨年の新型コロナウイルスによる特別措置としてJ2からの降格はなく、JFL(日本フットボールリーグ)からテゲバジャーロ宮崎がJリーグに参入し、合計15クラブ、各クラブ28試合と例年よりも少ない試合数で今季のJ3リーグは行われた。

今季はオフに本田拓也、吉濱遼平、山内寛史、舩津徹也ら実力派の選手を完全移籍で獲得。さらに柏レイソルから桐畑和繁、松本山雅FCから三ツ田啓希ら守備陣をレンタル移籍で獲得するなど、充実の補強に加え、シーズン開幕直前に浦和レッズから柏木陽介が電撃加入した。攻守両面において豊富な選手らを獲得した。それでも後半の失速が大きな原因となり、2年でのJ2復帰の目標は叶わなかった。

ここでは、Football LABさんのデータを分析しながら、今季のFC岐阜の戦い方を総括し、来季に向けた課題と解決策を提案していこうと思う。

シーズンサマリー
2021シーズン 勝ち点41(6位)
12勝(6位) 5分(3位) 11敗(9位)            38得点(7位) 35失点(9位タイ)

2021シーズンは昨年と同じ6位。ただ今季は28試合と昨年よりも少なく、1試合平均の勝ち点は1.46。34試合に換算すると、勝ち点50と昨年よりも少ないペースだった。シーズン全体での勝率は、52.2%だった。[注1] これは昨年の61.8%と比較すると、10%近く低下している。今季昇格を決めたロアッソ熊本やいわてグルージャ盛岡を見てみると、熊本は4敗で勝率60.7%、岩手は5敗で62.5%と高い数値を記録している。やはりシーズンを通して2桁敗戦してしまうと、2枠しかない昇格への道は厳しいものとなる。

ここで今シーズン全体の戦いぶりを振り返る。

開幕戦は、2季連続ホームで迎えたが、ヴァンラーレ八戸相手にスコアレスドロー。不安の残るスタートだったものの、第2節から3連勝、7得点1失点と充実の内容を残し、第3節時点で首位に躍り出た。しかしクラブ内で新型コロナウイルスの集団感染が起こり、チームは活動休止。その影響からか、再開初戦でガイナーレ鳥取に勝利した後、カターレ富山、ロアッソ熊本と上位陣相手に連敗を喫した。それでも大きく崩れることはなく、前半戦は8勝1分5敗の勝ち点25で首位・カターレ富山、2位の福島ユナイテッドFC[注2]に次いで3位に位置していた。

ところが後半戦でまさかの大失速となってしまった。後半戦再開初戦でいきなり上位対決となった福島相手に0-4の大敗。アウェイでYSCC横浜に3-0と快勝し、悪い流れを止めたかに思われたが、当時最下位だった鳥取にホームで0-3と再び大敗。ホーム2試合0得点7失点とまさかの結果となった。休節を挟み迎えたアウェイ・鹿児島ユナイテッドFC戦も0-1で敗戦。その後も波に乗ることはできず、後半戦は4勝4分6敗と14試合で勝ち点を16しか積むことができず、第28節アウェイでヴァンラーレ八戸に1-2で敗れたことで、早々昇格の可能性が潰えてしまった。後半戦は連勝が1つもなく、さらにはシーズン通してホーム&アウェイ両方で勝利する「シーズンダブル」も1つもなかった。この期間何が起こったのか。ここについてはⅣ章で詳しく述べる。

その前に、データから今季の戦いを振り返りたい。

今季の戦いを振り返る(データから見る)

2021シーズンをデータから見てみると、守備から試合をコントロールするチームであることは明白だが、やはり攻撃の数値で物足りなさを感じるデータもある。

a. 攻撃面

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上図は攻撃面での岐阜の数値とリーグ内順位を示している。1試合における攻撃回数はリーグ8位で、シュート数、チャンス構築率はリーグ13位と軒並み上位に食い込めなかったものの、シュート成功率は11.7%でリーグトップを記録した。ここから少ないシュートチャンスをモノにできていることがわかる。さらには川西翔太らのシュートの巧さも窺える。だからこそ、より攻撃への意識を持つことができれば、より多くの得点が生まれたのではないかとも考察できる。

その原因が次の数値に隠されている。ボール支配率、Football LABが独自で編み出している攻撃ポイントとドリブルポイントの数値の3つにおいて、リーグ最下位の数値となった。(ここの数値の算出方法については参考文献のURLを参考にしてほしい)攻撃ポイントにおいては、リーグでダントツの最下位となっていた。相手にボールを支配されながらも、最後のところで耐えてカウンターを仕掛けるスタイルで戦ってきたが、オリンピックによる中断期間以降、その最後の砦が崩壊して失点を重ねた。

さらに、AGIの数値ではクラブ史上最高値を記録した昨季の57.5から大きく数値を落とし、49.9となった。AGIとはApproach Goal Indexの略で、攻撃の際にどれだけ相手ゴールに近づくことができたかを表すFootball LAB独自のデータだ。攻撃時間で相手ゴールに近い位置でボールを持っていた時間の割合が高い、敵陣PA内まで到達するのにかかった時間が短い場合に高い評価を得られる。つまり、昨年よりも攻撃において相手ゴール前で脅威となった回数が少なかった。

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上図は今季の岐阜の得点パターン。セットプレーからの攻撃が1番多く、全体の34%を占める13ゴールをあげた。直接セットプレーからの得点を合わせると、全体の40%近くを占める。三ツ田啓希、甲斐健太郎ら高身長の選手のヘディングからの得点に加え、彼らにマークが集中したところでファーサイドに逃げた川西が押し込むシーンも何度も見られた。岐阜のセットプレーは対戦相手にとってかなりの脅威となっていた。次に多いパターンがクロスからの得点。やはり橋本和、窪田稜、舩津徹也らサイドを主戦場としている選手が高い位置を取るスタイルでそこからのクロスに川西らが反応して8得点を奪った。

b. 守備面

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上図は守備面での岐阜の数値とリーグ内順位を示している。シーズン平均失点数は1.3で鹿児島ユナイテッドFCと並んでリーグ9位タイ。ボール奪取ポイントはリーグ7位だったが、相手の攻撃を跳ね返したり、クロスを防いだりする時のポイントを表す守備ポイント[注3]ではリーグトップを記録した。守備から試合を組み立てるスタイルのため、やはりここのポイントは高くなるが、リーグトップは見事だった。

そして、先ほどのAGIの逆であるKAGIの数値では47.5と昨年の48.5から落ちたものの、ほぼ変わらず、リーグ内でも10位だった。KAGIはKeep Away from  Goal Indexの略で、守備の際にどれだけ相手を前進させなかったか、相手を自陣ゴールに近づけなかったかを示している。この数値が高いほど、相手の攻撃時間のうち、自陣ゴールから遠い位置でボールを持っていた、自陣PA内まで到達するのにかかった時間が長いということを表す。

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上図は今季の岐阜の失点パターン。岐阜の1番のストロングポイントは実は1番のウィークポイントであり、セットプレーからの失点が全体の29%を占める10失点となった。さらにクロスボールからも20%の7失点を喫した。特に後半戦は相手がサイドでボールを持つと、守備陣の目線がボールに集中し、セカンドボールへの対応などが遅れていた。ここは早急な改善ポイントである。

c. 選手個別データ


ゴールランキングでは、見事川西翔太が得点王に輝いた。今季26試合で13ゴールを挙げる活躍を見せ、シュート決定率も20本以上シュートを放った選手ではダントツの24.1%を記録し、その決定力の高さを見せつけた。プレーやシュート本数から算出されるゴール期待値ではJ3では唯一2桁の10.499を記録。実際にはそれを超える13ゴールを挙げたことを考えると、やはり決定力の高さはデータからも証明された。

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物足りなさを感じるのが、このチーム内の得点ランキングだ。得点王に輝いた川西に次いで、2番目に得点を挙げたのはDFの三ツ田啓希だった。もちろん彼の高さとセットプレーのキッカーを多く有する岐阜にとってはそのスタイルが身を結んだことが結果として出たが、やはり前線の攻撃的選手たちの得点数を伸ばしていく必要がある。a.攻撃面の部分で述べたチャンス構築率や攻撃ポイントの低さがここにも表れているのだろう。守備に人数を割き、そこからカウンターを仕掛けるスタイルであったため、最前線の川西が点を取り、シュートから生まれたセットプレーから三ツ田が決める。その形がこの得点ランキングからも分かる。

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上表はアシスト数のランキング。こちらも岐阜からは吉濱遼平がカターレ富山の椎名伸志と並んでリーグトップタイの9アシストを記録した。ただ吉濱は、先発出場は13試合にとどまり、出場時間では1183分で、同率トップの椎名の2223分の約半分の時間で8アシストをあげた。彼の魅力は正確な左足からのボール。同じようなタイプの柏木とキックの質は似ていて、コーナーキックやフリーキックでは同じような精度の高いボールを持っているが、グラウンダーのパスでラストパスを供給する柏木と少し異なり、吉濱はクロスボールからチャンスを演出する。クロスからの攻撃を得意とした今季は彼のクロスボールは大きな武器となっていた。

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これをみると、今季26試合に出場し、シャドーやボランチから岐阜の攻守を支えた大きな存在は中島賢星だったということが言える。下の表は、パス交換をした2選手のランキングだが、ここでも中島と川西のラインが岐阜を支えていたと分かる。またランキングにはないが、川西から中島のパス数も51本あり、2人で126本のパスを渡し合い、攻撃のチャンスを探っていた。中島の吉濱・柏木と少し異なるストレート系のロングボールの精度、そしてピッチを俯瞰的に把握する能力の高さがシーズン通して表れていた。こういったところのチーム貢献度も含めて、中島の契約満了は少し驚きと寂しさを感じる。

中島に次いで川西にパスを供給したのは、柏木陽介だ。川西→中島と同数の51本を供給した。途中加入から徐々に関係性を深め、川西の飛び出しを生かすようなパスや中盤で時間をかけて2人がパスをつなぐ様子が今季は見られた。

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d.  データから分析するチームスタイル

岐阜のスタイル

上図は岐阜のチームとしてのスタイルを指標化したものである。大きく表示されている数値が指数。%にて表記されているデータは、該当する攻撃がシュートに至った割合を表している。指数として高いのは、中央攻撃とショートカウンター、攻撃のセットプレーである。シュートまで至った割合が高いのは、中央攻撃(25.7%)と攻撃セットプレー(21.4%)、敵陣ポゼッション(20.5%)だった。中央攻撃で言うと、中島、柏木、吉濱らのスルーパスに加え、多く見られたのが、CB甲斐健太郎らからのロングパスによるものだ。詳しく見てみると、左サイド攻撃、中央攻撃、右サイド攻撃、ショートカウンター、ロングカウンター、敵陣ポゼッション、自陣ポゼッションと7部門において、ロングパス使用率は全てにおいてリーグトップの使用率で、リーグ平均を大きく上回る結果だった。ロングパス使用率が高いため、自ずと空中戦使用率もほぼ全てリーグトップ。つまり、岐阜の攻撃スタイルとしてロングパスを多く利用し、そこからのこぼれ球やつなぎからシュートへつなげ、ゴールを奪うスタイルといえる。ただ、選手の能力や得意としていることを考えると、攻撃において、ロングパスを正確に収め、攻撃を組み立てるようなFWタイプはあまりいないように感じ、選手層とのギャップを少し感じる試合も多々あった。

2021シーズンの試合展開

2021シーズンはリーグを引っ張った前半戦から異なり、後半戦は序盤の取りこぼしから順位を落とし、上位についていく状況が続いた。終盤にかけて粘ることができず、攻守両面において、岐阜のウィークポイントを修正することができなかった。ここでは、前半戦・後半戦に分けて、分析する。[注4]

a. 前半戦

多くの実力派選手を獲得、安間隆義新監督を迎えて3バックシステムに変更し、高い期待値を背負いながら臨んだ今季開幕戦は、ヴァンラーレ八戸にスコアレスドロー。開幕というプレッシャーから全体的に重い試合内容となってしまった。それでも第2節の藤枝MYFC戦は昨季から得意とする雨の中での試合だったが、うまく試合をコントロールしながら、勝利を掴んだ。第3節ではボール奪取ポイントで今季最高の数値を記録するなど、攻守が連動し、4-0と快勝を収めた。

前半戦の戦い方を支えたのが、相手ボールホルダーに対するプレスの強度の高さだ。3-3-2-2の中央型3バックシステムを採用し、前線2枚が相手ディフェンス陣のパスコースを限定し、後ろ向きでボールを受けるボランチやサイドの選手に対して一気にプレスを仕掛ける。ボールを奪う位置で仕掛けるプレスの連動性がハマり、相手の焦りを生み、パスが乱れたところからチャンスを構築する。特に3節の讃岐戦はこのプレスに加え、雨のピッチが味方をして、ボールを奪うシーンが何度も見られた。さらに、三ツ田の存在感と吉濱らのキック精度によるセットプレーの脅威はかなりのものだった。第5節のアスルクラロ沼津戦は雨でパスが繋ぎにくいピッチでこういう空中戦の強さが功を奏し、今季最高のシュート22本を放つなど空中戦が大きな武器になっていた。

岐阜 基本フォーメーション前半戦

上図は前半戦の基本的なフォーメーション。システムとしては3-3-2-2。中央を分厚く配置し、サイドの選手の運動量を武器にするスタイル。守備時は両ワイドが最終ラインまで下がる5-3-2を主流に守るスタイルだ。前半戦はこれが上手くチームにフィットし、前線2枚がコースを限定し、中盤3枚でプレッシャーをかけてボールを奪い、攻撃につなげる戦術を基本としていた。

まずポイントは基本的にコンビを組んだFW2枚だろう。川西はもちろん、村田透馬の敏捷性と俊敏さが生きた前半戦となった。第3節の讃岐戦でのプロ初ゴールを皮切りに、裏へ抜け出す動きやコースを限定する動きが試合をこなすごとに状態を上げ、第8節のいわてグルージャ盛岡戦では裏抜けの動きからゴールを決めた。この2人間、そして2列目の距離感が絶妙なラインでパスが回った。中央に相手を引きつけたところでサイドを上がってきた舩津徹也や橋本和がクロスを出す。色々な形がシュートに結びついた。

前半戦苦しんだのは、4バックシステム、特にサイドを起点とするチームに対する戦い方だ。前半戦序盤のカターレ富山戦はチーム活動再開明けでの連戦によるコンディション面が原因。その次のロアッソ熊本戦は敗れたものの、得点の匂いは常に感じさせる戦いだったため、課題のようなネガティブな要素はあまりなかった。ここで取り上げるのは、第12節のFC今治、第14節AC長野パルセイロの2試合。今治戦は文字通りの「完敗」、長野戦は前半相手の攻撃を上手く受けながら先制点を奪う理想的な形だったが、後半は何もできずに逆転を許した。この2試合が後半戦の失速につながる1つの要素にもなっていたと感じた。

岐阜vs今治 前半戦

岐阜vs長野 前半戦

左は今治戦の両チームのフォーメーション。右は長野戦のフォーメーションである。どちらも共通しているのが、4バックシステムからサイドで起点を作るチームであるということだ。こういったスタイルのチームに対して、3バックはかなり苦戦を強いられることが多い。両ワイドとCBのサイドが対応にあたるため、中央が手薄になったり、守備で押し込まれ、バイタルエリアでセカンドボールが相手に渡ってしまうことが多く、2次3次攻撃を呼び込んでしまう。前半戦内容ともに完敗に終わったのは、この2試合だった。つまり、中断期間ではこういったサイドで起点を作るチームに対してどう対応するかが1番の修正内容であった。

ただ前半戦のプレス強度高く縦に速いサッカーはある程度プラン通りだったのだろう。後半戦ここを警戒してきた相手に対して、中断期間にボールポゼッションサッカーを取り入れ、また少し違うカラーのFC岐阜を築くという狙いだった。

b. 後半戦

東京オリンピックの影響で約1ヶ月、岐阜は前半戦最後の第15節が休みだったため、約1ヶ月半の中断期間があった。前半戦最終順位がかなり混戦であったことで後半戦序盤の試合も重要度がかなり高いことが予想されていた。さらに岐阜は再開初戦が上位の福島ユナイテッドFC。3試合戦うとまた休節となるため、この3試合は最低でも勝ち点6は取りたい状況だった。しかしこの中断期間で新型コロナウイルスの影響で再びチーム活動が停止。6試合予定されていた練習試合は大幅キャンセルされ、新たな策を試す機会が少なかった。

その結果、先ほどの3試合含めた8月9月の重要な4試合1勝3敗と勝ち点3のみに終わってしまった。特にホームでは0勝2敗0得点7失点と惨敗に近い成績となってしまった。

原因としては、大きく3点ある。

① 高すぎる守備意識が生む落とし穴                    ② 繰り返される失点パターン                       ③ 選手の適性について

1点目は、高すぎる守備意識が逆に守備の穴を生んでしまったことだ。特に気になるのは、後半の入り15分。前半戦のように前半の45分は上手く相手の攻撃を受けながら、縦に速い攻撃からシュートチャンスを作る形ができているのにもかかわらず、45分〜60分の間は、前半の出来がまるで見られず、相手の攻撃に対して受け身になりすぎ、中盤も失点を恐れて最終ラインにまで下がってしまうケースや、クロスボールに対してボールウォッチャーになる時間が増えてしまっているのだ。後半の早い時間に先制点を奪われることで、守備意識が必要以上に高くなりすぎてしまい、福島戦では一時6バックのようなライン構成になってしまうほどバランスが崩れてしまうシーンが散見した。守備での粘りから攻撃につなげるスタイルが1失点によって大きく崩れてしまう。守備意識が高くなりすぎると、丁寧に守備するがあまり、ボールホルダーに対しての距離が遠く、相手の脅威になりきれてない。福島戦の2失点目は確かにスーパーゴールではあるが、シュートを打った選手に対してのプレッシャーは0に近かった。この再開初戦の0-4という敗戦が岐阜に与えたダメージはあまりにも大きすぎた。

選手を替えて臨んだYSCC横浜戦は攻撃において、素晴らしい出来で、1点目は完璧に横浜の守備を崩した。さらにそこから立て続けに得点を奪い、3-0とリードを広げ、福島戦の悪夢を払拭するような結果だった。ただこの試合も終盤の戦い方は再び悪夢を見る可能性を残すような出来だった。相手の攻撃を跳ね返すものの、セカンドボールを拾われ、最終ラインに5人から6人いるにもかかわらず、横パスや縦パスのケアが遅れ、ズルズルとラインを下げられてしまい、何度もシュートを打たれた。GK桐畑の好セーブもあり、完封勝利につなげたが、守備面では改善が必要なのではないかと少し不安の残る終盤だった。前半戦、他のチームにとって見れば、岐阜はかなり警戒すべき存在であった。岐阜の縦に速い展開についていけず、失点したチームや岐阜の堅い守備を崩せなかったチームは当然分析を重ね、対策を練ってくる。その対策に対する岐阜側の策があまりなかったようにも思えてしまった。

その不安が再び悪夢となってしまったのが、その次のガイナーレ鳥取戦だ。この試合の後半はほぼ福島戦の後半と同じようなものとなった。前半粘りの守備で守り切り、シュートにもつなげたが、後半の入りで鳥取に主導権を握られ、53分に失点。そこからは防戦一方になり、攻撃の形も作れず、当時最下位だった鳥取に0-3と大敗に終わった。結果的にこのホーム2試合の敗戦が最終的に大きく響いてしまった。

2点目は、1点目にもつながるが、失点パターンが何度も繰り返されてしまっていることだ。終盤戦のテゲバジャーロ宮崎戦、ヴァンラーレ八戸戦もだが、サイドからのクロスボールに対して中央に人はいるのに、ボールウォッチャーになっているため、相手FWの動き出しへの反応が遅れる。またほぼ全員がボールを追っているため、落下地点に人が集まるが、動き出しは相手の方が速いため、中央に折り返され、バイタルエリアでフリーの選手がシュートを放つ。この形で少なくともシーズンを通して4失点はしている。クロスボール、さらにはセットプレーからもマークで守る守備なのか、ゾーンで守る守備なのかがハッキリせず、ヘディングを許し、失点も重ねた。こういったところも含めて、守備面で後半戦は修正できなかった要素が多かった。

3点目は、試合別の分析でも指摘したことがあるが、選手の適性を生かせなかったことだ。これは、前半戦は1選手を除いてあまり感じなかったが、後半戦は何度も感じざるを得ない起用が続いた。

岐阜 基本フォーメーション後半戦

上図は後半戦の基本的なフォーメーションと選手。前半戦基本ベースだった3-3-2-2もあるが、上記のフォーメーションは主に鳥取戦以降使用し始めたシステムだ。中島がボランチに下がり、ダブルボランチを形成し、最終ラインと前線の舵取り役を2人配置するものだ。

このシステム変更自体は良い要素だった。特にカターレ富山戦、AC長野パルセイロ戦はこの形が功を奏し、見事勝利につなげることができた。ただ選手起用では少し疑問に残ることがあった。そう感じる選手は3人いる。ここでは、個人的に感じた選手であり、日々の練習やコミュニケーションから安間監督がそのポジションで戦えると感じた要素があるはずだ。あくまでも個人的に感じたことである。

① 村田透馬(FWだが、後半戦は主にWBで起用)
1人目は村田だ。彼の良さを整理すると、スピードと裏に抜ける能力にある。前半戦は川西と並んで2トップで起用され、自身初ゴールを決めたことから序盤は積極性が見て取れた。その後、結果が出ず、柏木陽介の起用もあり、ベンチスタートも多くなった。そして後半戦からはWBとして起用され始めた。だが彼はこのポジションの適性はあまりないのではないかと感じる。サイドを主戦場とする選手がそのままWBに対応できるかというと全員がそうではないだろう。WBは攻撃と同等に、守備時は5バックになるため、サイドでの起点に対してプレスやドリブル突破を防ぐ守備の対応が求められる。つまりどちらかというと、SBで戦う選手の方がこのポジションに適応しやすい。今夏途中加入した窪田稜はサイドMFの選手だが、守備時に体を張る能力やドリブルの方向を限定する守備時の動きが上手くインプットされていたため、このポジションに適応できた。村田の場合は、後半戦序盤は裏を取られる場面やサイドで抜かれる場面が見られた。1点を追う状況や同点の状況での途中出場では、仕掛けることに集中しているため、途中出場で存在感を発揮した。ただ、前半戦でのFWでの躍動を考えると、このシステムではトップが彼の適正ポジションだったと感じた。

② 深堀隼平
2人目は、夏に加入した深堀だ。彼はポジションというより、役割のことになる。岐阜はロングボールを主体として攻撃を組み立てるスタイルである。おそらく後ろからのロングボールに対して深堀が抜け出す形を期待し、即戦力として獲得した。ただ試合を見ていると、相手DFとGKの間に蹴り込むようなボールよりは、FWに収めさせるようなロングボールを多用していた。そうなると、深堀の良さはこういったポストプレーではなく、裏抜けのスピードのため、試合を通しては良さが活きるシーンはあまり多くなかった。深堀と川西の2トップならば、最終ラインから2列目の柏木や吉濱につなぎ、そこからのスルーパスに期待するシーンが多くても良かったと感じる。

他にも、粟飯原や富樫がワイドで起用される試合もあったが、やはり順応する難しさがあり、後半戦はともにトップ、もしくは2列目で起用されるようになった。

『川西×富樫』の可能性
選手起用も含めて、今季とても魅力的に感じたコンビがいる。それが川西翔太と富樫佑太だ。主に後半戦に試合途中から富樫が交代でピッチに投入されると、このコンビの相性の良さが随所に表れていた。攻撃において、この2人の素晴らしい距離感と阿吽の呼吸で幾度となくチャンスを演出した。特にホーム・カターレ富山戦とアウェイ・ヴァンラーレ八戸戦。前線にボールが入った時のオフザボールの動き、そしてその動きをしっかり見ているこの2人が攻撃を牽引し、富山戦の2ゴールも2人で演出した。このコンビの力は来季も必ず必要となるだろう。


後編では、来季に向けた予想と期待を述べている。


注釈

[注1] ここでは引き分けを0.5勝0.5敗としている。
[注2] 福島はその後ヴァンラーレ八戸戦のけん責処分で勝ち点3を剥奪され、岐阜は2位に浮上していた。
[注3] 相手のプレーの成功(味方へつなぐ、もしくはゴール)を阻止した場合に、成功していれば攻撃側に付与されていたポイントがそのまま守備側に与えられる。よって味方ゴールに近い方が高いポイントが付く。奪取と違いマイボールにならなかったとしてもポイントとなるので、クロスボールをクリアして相手にコーナーキックを与えたとしてもクロスを阻止したポイントが加算される。(Football Labから引用)
[注4] ここで言う前半戦は第1節から第15節、後半戦は第16節から第30節までを指している。


参考文献

Football Lab, [サッカー×データ]データによってサッカーは輝く, FC岐阜, 閲覧日 2021-12-20,
Football Lab, [サッカー×データ]データによってサッカーは輝く, 2021J3リーグ, 閲覧日 2021-12-22,
Football Lab, [サッカー×データ]データによってサッカーは輝く, チャンスビルディングポイントとは, 閲覧日 2021-12-22,

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