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[FC岐阜 3-4 藤枝MYFC]の試合を終えて(戦術分析編)

はじめに

静岡県の藤枝総合運動公園サッカー場で行われた藤枝MYFCとFC岐阜の一戦は、壮絶な打ち合いの末、4-3で藤枝に軍配が上がった。前半は両チームともにチャンスを生かせず0-0で折り返したが、後半開始早々に藤枝が2分で2ゴールを奪い、優位に立つ。5試合連続で追う形となった岐阜だが、73分に途中投入の藤岡浩介が移籍後初ゴールを奪うと、その直後の74分にまた藤岡がゴール。こちらも2分間で2ゴールを上げ、あっという間に同点に追いつく。80分に藤枝がリードするが、わずかその1分後に、またもや岐阜の藤岡がゴールネットを揺らし、ハットトリックの活躍。再び振り出しに戻した岐阜だったが、後半アディショナルタイムにクロスから失点し、この撃ち合いを制することはできなかった。これで岐阜は痛恨の3連敗。順位も14位に落とし、1試合少ないとはいえ、首位のいわきFCと勝ち点差が「7」に開いてしまった。7試合を終え既に4敗を喫し、昇格のためには、もうこれ以上負けられない状況となった。攻撃面では、藤岡に3ゴール、さらに、その3点全てをお膳立てしたのは、村田透馬。攻撃的な交代策がハマったが、一方で守備が崩壊。3-3に追いつき、勝ち越すためにも、集中を高めたかったセットプレーからの流れのプレーでボールウォッチャーとラインコントロールの欠如が同時に起きてしまい、逆サイドで藤枝の選手が3人フリーとなるなど、守備ブロックが完全に崩された。
 
最終目標はもちろん昇格だが、まずは1試合ずつ勝ち点を積み重ねることに集中しなくてはならない。ここから中2日で今度は天皇杯の岐阜県予選決勝が控えている。本戦出場のため、そして公式戦での連敗をストップするためにも、チーム一丸となって、決勝で勝利を収め、その次の15日SC相模原戦につなげたい。

スターティングメンバーについて
[両チームのスターティングメンバー]

岐阜は、システム自体は前節と同じの4-4-2だが、4人を変更して変化を加えてきた。まずはGKには松本拓也が今季初出場。連敗中ということもあり、守護神を変えた。4バックの右に山内寛史、左に宇賀神友弥。センターバックは前節退場したフレイレに代わって岡村和哉が入り、藤谷匠とコンビを組む。中盤ランチに庄司悦大と柏木陽介。右に窪田稜、左に菊池大介を起用。そして驚きだったのが、2トップの一角にヘニキを起用してきたことだ。おそらく狙いとしては、前線でのポストプレーの役割、そして藤枝が3バックとボランチで攻撃を組み立てることから、そこへの激しいプレスを仕掛けるといったところだろう。もう一方には前節得点を決めた石津大介が起用された。
 
一方の藤枝は、システム・メンバーともに前節と全く同じ11人。ベンチメンバーも前節と同様のメンバーが入った。GKには内山圭。3バックの右に小笠原佳祐、左に神谷凱士、中央に川島将が入る。ボランチに鈴木淳と試合日(5/4)が誕生日で古巣対戦となる水野泰輔。ウィングバックの右に久保藤次郎、左に榎本啓吾と若い2人が入り、1トップに岩渕良太。シャドーにこちらも古巣対戦の押谷祐樹と横山暁之が起用された。

戦術面から試合を振り返る

この試合は攻撃的な部分では好材料がいくつかあり、守備的な部分では多くの課題が見てとれる試合となった。讃岐戦で気になった選手の距離感と細かいパスワークという部分では、まだまだ不安要素は多いが、讃岐戦よりは選手が全体的に動きながらディフェンスの間にポジションを取るなど、少しずつ改善されていた。
 
攻撃面でのポジティブな要素としては、3つある。1つは、アタッキングサードでの全体の連動性だ。2点リードを許した中で1点目は、相手のパスを窪田が高い位置でカット。そこから中央にドリブルを仕掛け、左サイドに展開。左サイド村田からのクロスは防がれたが、すぐにボールを拾った村田がすぐに縦パスを供給。藤枝の守備はこの一瞬ボールウォッチャになり、1人ゴール前で準備していた藤岡が振り向き様にシュートを放った。このシーンもボールを奪ってから全員が藤枝ゴールに進入したことで、藤枝守備のマークのズレを生んだ。

[2得点目のシーン]

個人的に注目したいのは、2点目のシーン。図は村田が縦へのドリブルを仕掛け、ペナルティエリアに進入する時のシーン。この時ポイントとなったのが、柏木のオフザボールの動きと村田の落ち着きだ。村田がディフェンスを剥がしサイドを突破したところで、柏木がしっかりとニアサイドに進入し、藤枝の川島と鈴木をひきつけることができた。それにより、マイナスの位置で待っていた藤岡に対してのチェックが一瞬遅れた。その一瞬の遅れを柏木が生み出したことで、藤岡のシュートがディフェンスにブロックされることなく、ゴールに吸い込まれた。

そしてもう1点が、村田の落ち着き。今季の村田はサイドでボールを受けると、しっかり自分の間合いで縦に仕掛けることができている。昨季ホーム最終戦の藤枝戦で魅せたような縦への仕掛けが今季はかなり安定している。2得点目に関しては、村田が縦に仕掛け、ペナルティーエリア内に進入した時、しっかりとマイナスの位置にいた藤岡を確認できていた
 
さらに、今季の村田は、ドリブルを仕掛けるだけではない選手になっている。それはこの試合記録した3アシストが物語っている。1アシスト目は、効果的な縦パス。2アシスト目は、サイド縦への突破からマイナスへのパス。そして3アシスト目は、精度の高いクロスを供給した。ドリブルからのクロスが1番の持ち味である村田に冷静な判断力が加わり、かなり脅威の存在になってきている。今季の更なる飛躍に大きな期待がかかる。
 
藤岡に移籍後初ゴール、さらにハットトリックが生まれたことも好材料だ。ここまで最前線で起用されることの多い田中順也、ンドカ・チャールス、藤岡らにゴールがまだ生まれていなかったが、ここで藤岡に得点が生まれたことで、前線陣の更なる奮起、そして藤岡自身もこれでさらにプレーが研ぎ澄まされるだろう。
 
さて、一方で前節に続いて課題が露見したのが、守備面。前半はディフェンシブサードで粘り強く守備してきたが、後半早々にミスからPKを与え、失点。そこから崩壊してしまった。
 
1失点目は藤谷のハイボールの処理ミスから生まれてしまったが、チームとして早急な改善が必要なのが、それ以降の3失点だが、2失点目が今季の岐阜の守備での課題に大きくつながるものとなった。

[2失点目のシーン]

上図は2失点目をアニメーションで表したものである。課題のポイントを4つ挙げる。1つ目は、長い縦パスを供給した小笠原に対して、ノープレスの状態となってしまい、縦パスを入れられた点だ。その前段階として、右サイドでボールを持っていた久保が時間をかけたため、岐阜の2列目と2トップが連動して守備ブロックを作り、あの位置からのバックパスに対しては、トップの一角であるヘニキが小笠原へのパスコースを制限して欲しいところだった。何よりヘニキはこの試合、藤枝の最終ラインとボランチに対してプレスを仕掛けるという意味合いも持って起用されていただけに、後半の早い時間帯では、しっかりとここに対してチェックをして欲しかった。

[藤枝・横山にバイタルエリアへの進入を許してしまった]

2つ目は、またも一瞬ボールウォッチャーになったことで、藤枝のシャドーで起用されていた横山のバイタルエリアへの進入を許してしまったことだ。この要因としては、1つ目のポイントで挙げた前線の守備との連動性が招いてしまった。前線からの守備でパスコースを限定できなかったため、久保の横でフリーだった鈴木にパスが来ることを警戒して、ボランチの庄司が飛び出した。その瞬間、藤谷、宇賀神、菊池、庄司の間のスペースが開き、横山にそこをうまく突かれた。
 
3つ目は、微妙な点だが、キーパー松本のポジショニングが気になった。押谷が裏に抜け出してしまったが、山内が追いつく距離感にいたので、キーパーとしては、ペナルティーエリアギリギリのところまで出て行く必要はなかったように思える。難しいところだが、オフサイドなしで、最終ラインの背後を取られてしまったことで、少し松本としても焦ってしまったのかもしれない。
 
4つ目が、1番まずいポイントだ。これまでのほとんどの失点に関連することだが、ディフェンスラインの統率がなされていないことだ。讃岐戦の1失点目もそうだが、ディフェンスラインがガタガタなため、右サイドバックの山内が低い位置で残っていて、オフサイドを仕掛けられず、横山にチェックに向かった藤谷の裏の本来はオフサイドになってほしい部分に、広大なスペースができてしまっている。この要因は、「コミュニケーション」の少なさだろう。この試合に関しては、普段喝を入れる役目であるフレイレがいないこともあるが、ほとんど守備時での声かけが見られなかった。ディフェンスラインがバラバラになり、藤谷が出ていった後にスペースに藤枝の選手が入り込んでも、オフサイドがとれなかった。「コミュニケーション」の少なさは、ボールウォッチャーにつながりやすい。それが4失点目。コーナーキックからのボールを弾いた後、ディフェンス面での整理と声かけがまるでできていなかったがために、ファーサイドで3人も藤枝の選手がフリーとなった。セットプレーを弾いた後は、再びブロックを作ることが難しい状況ではあるが、同点に追いつき、終盤の時間帯であることを考えると、もっと粘り強く集中して守りたかった。
 
システム的な問題もあるだろうが、柏木はもう1列前でプレーさせたいと感じる。庄司・柏木のドイスボランチは、攻撃時縦関係になることや、庄司は最終ラインの組み立て役、柏木はサイドバックが出た穴のスペースを埋めるなど、流動的にポジションを変えるが、守備時は、かなりこのボランチと最終ラインのバイタルエリアを利用されてしまっている。

さいごに

岐阜は6日、三浦俊也監督の退任と横山雄次ヘッドコーチの監督就任を発表した。三浦監督が目指したポゼッションサッカーにJ3での経験が豊富な横山新監督のディフェンスの修正力を組み合わせ、新たなFC岐阜の構築に期待がかかる。その横山新体制初戦となった天皇杯岐阜県予選決勝は岐阜協立大学相手に5-0と快勝。これからの戦いに向けて、素晴らしいスタートを切った。幸いリーグ戦の次の試合であるホームSC相模原戦は5月15日と時間がかかる。横山イズムをしっかり浸透させ、リーグでの連敗もストップさせたい。


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