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[FC岐阜 0-0 ヴァンラーレ八戸]の試合を終えて(戦術分析編)

はじめに

岐阜県の岐阜メモリアルセンター長良川競技場で行われたFC岐阜とヴァンラーレ八戸の一戦は、0-0のスコアレスドローに終わった。岐阜は今季ホームでは初のノーゴール、試合としても第3節のアスルクラロ沼津戦以来8試合ぶりのノーゴール。天皇杯のガンバ大阪戦120分を戦い敗れたことが影響したのか、肉体的疲労もあって、攻守ともにパッとしない出来に終わってしまった。この後上位陣との連戦が続くだけに、この一戦は是が非でも勝ち点3が欲しい試合だったが、痛すぎるドローとなった。特に後半はシステムを変えて打開を図ったが、最終ラインからのつなぎのパスも出ず、攻撃が全体的に停滞していた。この停滞ムードを打開したのは、後半から投入された窪田稜、終盤に投入された村田透馬、田中順也とガンバ戦も出場して中3日で臨んでいる交代組。先発で起用された選手のうち、7人は中6日と休養万全だったが、最後まで気合を見せたのは、中3日組だった。

スターティングメンバーについて
[両チームのスターティングメンバー]

この試合は両チームともに3-4-2-1のフォーメーションで臨むミラー型のゲームとなった。

岐阜はGKに松本拓也。3バックの右にヘニキ、左に舩津徹也、中央に服部康平。中盤ボランチに柏木陽介と庄司悦大。ウィングバックの右に菊池大介、左に宇賀神友弥。1トップに石津大介が入り、2シャドーには藤岡浩介とンドカ・チャールスが起用された。この前線3人は流動的にポジションを変える。ベンチには、若い窪田稜、村田透馬、そしてベテランの田中順也らが入った。
 
一方の八戸も同じフォーメーション。GKには服部一輝が今季初出場。3バックの右に赤松秀哉、左に小林大智、中央に藤井航大。ボランチには山田尚幸と相田勇樹。ウィングバックは右に國分将、左に佐藤和樹。1トップには萱沼優聖が入り、2シャドーには江幡俊介と有間潤が起用された。ベンチには島田拓海やミスターヴァンラーレの新井山祥智が入った。

戦術面から試合を振り返る

120分戦ったガンバ大阪戦から中3日ということも影響したのか、この試合はチーム全体として攻守ともに動きがパッとしなかった。特に後半の序盤はボールを握る時間が長いにもかかわらず、チーム全体の動きが停滞。最終ラインからの組み立ても意味をなさず、攻撃に転じることができない時間が続いてしまった。八戸も疲労を感じてきたところから裏を突く窪田の動きに八戸もついていけず、チャンスまでつながったが、90分を通しての戦いとしては、もったいない試合と感じざるを得ない試合となった。攻守ともに何が起こったのかを分析していく。
 

【攻撃面】

[八戸戦 岐阜の攻撃の課題]

前半特に目立ったのは、最終ラインからのビルドアップの時に、サイドに展開するも、そこから八戸のプレッシャーもあって、ロングボールに逃げる場面が多かった。意図的にロングボールを前線のンドカめがけて蹴り込むシーンももちろんあったが、「逃げる」とう表現したシーンでは、キックの瞬間に前線の動きが連動しておらず、ンドカの頭上を越すボールだった。
 
こういったところからもう一度岐阜の選手一人一人が意識しなくてはならないのは、J3の間合いだ。J1で活躍してきた選手がJ3で圧倒できない理由の1つが、この間合い。特にボールを保持している状態でのプレッシャーの強度はJ1とJ3では異なる。何が違うかというと、最終ラインからの組み立て時、ブロックを敷いてディフェンスし、サイドやチームとして決めたエリアに入った時に、チーム全体が一気にプレッシャーをかけるのがJ1クラブに多い守備の形。一方でJ3は、最終ラインにも圧力をかけ、サイドにボールが出た際には、前線とサイドバック、中盤が挟み込むように圧力をかけてくる。J3は、全体的に若い選手が多いため、90分通してこの守備が展開できるのと、トラップが流れやすいため、圧力をかけると、ロングボールやタッチラインに蹴り、自分達のボールにしやすいのだ。岐阜はどちらかというと、J1のように、ブロックを組まれた相手の方が比較的やりやすい。ガンバ戦と八戸戦では、モチベーションの違いが少しあるにせよ、この守備の間合いとプレッシャーのかけ方の違いで岐阜の攻撃の完成度が異なった。

[八戸戦 後半のビルドアップのシーン]

後半のビルドアップでは、かなり苦しんだ。3バックから4バックに変更し、舩津・宇賀神を高い位置に配置し、左サイドの藤岡が中央気味に、右サイドの窪田がサイド張ったポジショニングをとったが、前半八戸のプレッシャーを受けたことで、センターバックから効果的な縦パスがほぼ入らなくなってしまった。さらに、厳格な5バックシステムによる守備ブロックの前に前線のオフザボールの動きも徐々になくなり、八戸の守備陣を揺さぶるパスや動きがなくなった。このことで、後半10分過ぎあたりから、パスの出しどころが見えず、最終ラインでのパス回しもスピードがなくなったため、こう着状態となった。その後は、窪田の縦への仕掛けや途中投入の田中順也のポストプレー、柏木がより高い位置でプレーしたことで、アタッキングサードまで入り込むことはできるようになり、攻撃の厚みを増したが、90分通して攻撃の質を落とさず戦うことができれば、かなり強力な攻撃が展開できるはずだ。

[八戸戦 サイドからの打開策]

打開策の1つとして、やはり前線陣がもっとボールサイドに寄って来ても良いと感じる。つなぎの時に、図の●のエリアにFWが降りてくると、相手ボランチを惹きつけることができる。そこにワンタッチパスで折り返し、ボランチが出てきた裏のスペースに入り込む動きで背後をとる。さらには、サイドに渡ったときに、シャドーが寄ってきて、ワンツーパスで相手ウィングバックの裏を取る動きも加えたい。この動きは窪田・村田が得意としていて、後半はこのウィングバックの裏を取る動きを増やしていた。それは1つの良い作戦だった。
 
ポジティブに感じる攻撃も少なかったわけではない。まず、攻撃において今季核となるのは、窪田・村田の2000年組のスピードスターではないだろうか。この2人は今季出場した試合ではコンスタントに結果を残し、存在感を示している。窪田はリーグ戦すでに3ゴール。村田もリーグ戦ですでに4アシストを記録している。両者ともに縦への仕掛けが持ち味で、速攻・遅攻の使い分けが巧みだ。
 
窪田はアタッキングサードで受けることができれば、すぐに縦へ持ち出す。相手もこの動きは熟知していて対策を打って来ているが、窪田は初速がかなり速く、ボールを受けて前を向いて仕掛けると、かなりの確率で相手ディフェンスの前に身体を入れることができるため、ドリブルをカットされにくい。日本代表の伊東純也のようなドリブルができる。さらに、窪田は以前も紹介した通り(詳しくはここをタップ)、逆サイドからのクロスに対しての入り込む動きの能力が高い。相手の背後から前に進入できるので、相手はオフサイドと思い込んでしまうが、しっかりオンサイドの位置から走り込んでいる。
 
一方の村田は、相手ディフェンスを構えさせてから、足技を加えながら、縦へ仕掛ける動きと縦から中へ切り込む動きを使い分けることができる。このため、ディフェンスは中への警戒をしながら、盾も切らなくてはならない。今季の村田が昨季までと違うと感じるのが、ドリブルを仕掛けた時にしっかり中を確認できていることだ。ドリブル時にヘッドが高いことと、ペナルティーエリア内の状況把握が速いので、クロスボールの精度が高い。
 
この2人の仕掛けが大きなストロングポイントだが、もう1つ良い攻撃と感じたシーンがある。前半14分のシーン。GKから前線に送り、両サイド幅広くボールを回し、サイドからのクロスに対して、ペナルティーエリア内に人数をかけて攻撃できた。

[八戸戦 前半14分の岐阜の攻撃シーン]

GKからのボールに対してンドカがしっかりディフェンスの前に身体を入れ競り勝ち、近くにいた石津が逆サイドに展開。藤岡がサイド深い位置に進入してボールを受ける。この動きでディフェンスラインを押し下げ、その間にPA内に多くの岐阜選手が進入。ワンタッチで宇賀神がクロスを上げたことで、八戸ディフェンス陣が整う前に、ギャップを作った。柏木のヘディングはキーパーにキャッチされたが、GKから崩し、人数をかけて厚みある攻撃を展開できた。サイド攻撃の時は、やはりPA内に人数をかけて、相手のギャップを突きたい。

【守備面】
岐阜がボールを支配する時間が長く、攻撃回数が多かったため、守備の時間は短かったが、その中でも課題がいくつか見つかった。ここでは3点を挙げる。

[八戸戦 岐阜の守備の課題]

岐阜は守備時5-2-2-1のような形を取り、前線の3人が近い距離を保ちながら、両サイドの守備を行う。この狙いとしては、同サイド圧縮からボールを奪い取り、奪ったところから前線が近い距離でプレーして同サイドからゴールに迫ることが狙いだろう。ただ徐々にその距離が開き、ボールホルダーに対して圧力をかけることができず、逆サイドが開いてしまったり、ボランチの脇を使われ始めてしまった。
 
さらに、大きな課題と感じたのが、ボランチの部分。この試合では柏木と庄司が起用された。岐阜がボールを握る時間が長くなると予想されたため、縦パスの供給とパスで試合をコントロールできるこの2人を起用したが、そのことで守備時の強度が少し落ちてしまった。守備時、前線3人とボランチが連動した守備ができず、3人とボランチの間に大きなスペースが生まれてしまった。そこに入り込む選手だけでなく、最終ラインからドリブルでセンターバックが持ち上がる動きに対して、前線もプレスをかけられず、ボランチも飛び出すことができなかった。
 
3つ目の課題が、トランジションの部分だ。この試合もそうだが、長野戦の後半も感じたのが、このトランジションの意識の低さだ。ボールを奪われた後の切り替えの部分が遅く、ボールホルダーに対してプレッシャーがほとんどかかっていない。現代型のポゼッションサッカーを展開するには特に重要視されるトランジションの動きがないため、攻撃のパスがミスとなった時に、一気にピンチを招いてしまう。

[八戸戦 前半9分の八戸の攻撃シーン]

前半9分のシーンは、この試合の課題が全て露見したシーンだっただろう。左サイドから石津が持ち上がり、最前線のンドカへ繋ごうとしたが、そのパスがずれた。問題はこの後だ。パスを奪った八戸の藤井が大きく持ち出したが、ボランチが共に構えてしまい、圧力をかけることができず、縦へのスルーパスを許した。萱沼と江幡の連動した動きで、センターバックの服部を釣り出され、その背後をしっかり江幡に突かれ、シュートまで運ばれてしまった。
 
ここのシーンは八戸の上手さもあるが、1番の違いは、トランジションの速さ。岐阜の「攻撃→守備」より八戸の「守備→攻撃」の全体の切り替えが速かった。1人2人ではなく、全体が切り替えたため、1本のパスからゴール前に迫ることができた。対して岐阜はどうだっただろうか。奪われた後、ボールホルダーの藤井に対して、誰も縦へのコースを塞ぐことができなかった。もちろん「守備→攻撃」の方が意識としては切り替えがしやすいが、ポゼッションで崩すスタイルを実行している以上、リスク管理の意識はチーム内で共有しないと、守備の人数がいても、人と人の間や、裏のスペースが開きやすい。このシーンはまさにトランジションの速さの違いが生んだシーンと言える。

【マネジメント面】
今回はマネジメントの部分でも課題が見られた。横並びとなる選手の相性がこの試合ははっきりしただろう。昨季、吉濱遼平と柏木陽介がトップ下で並ぶ際、お互いの役割と特徴が似ていたため、ポジションが被ることや、守備時にスペースが生まれやすくなってしまうことがあった。この試合もボランチの部分で、特徴が似てしまうことやボランチに欲しい守備の部分での強度がなくなってしまった。柏木、庄司、吉濱らを横並びで起用する時は、攻撃意識をこれまで以上に高く持ち、先に先手を奪いに攻め込む動きなど、起用する意図をよりハッキリさせた戦いをしなくてはならない。ボランチはチームのバランスを整える舵取り役。ドイスボランチで戦う時には、パスで試合をコントロールする選手(柏木、庄司、吉濱、生地ら)とボール奪取と危機察知能力に長けた選手(ヘニキ、本田、大西ら)の同時起用が好ましいと感じる。そういう意味でも、本田の離脱はかなり痛い状況だ。
 
センターバックでも起用面での相性が重要だが、現状ディフェンス陣に負傷者が多いことと、連戦であることを考えると、この八戸戦は致し方ない部分はあるため、横山監督も悩ましいだろう。ロングボールを多用するチームに対しては、服部・ヘニキの最終ラインは頼もしいが、ビルドアップ時には、少し物足りなさを感じる。負傷者たちが戻ってきた際には、縦に運べる選手(フレイレ、藤谷、岡村ら)が1人は最終ラインに必要となる。
 
こういったところのマネジメントは横山監督も長けているはずだ。ボランチに関しても、実戦で試すことで課題と相性が分かる。この2人の並びでスタートしたのは、横山体制では初のこと。この試合でそういった部分を横山監督も感じ、次節に向けて、テコ入れをしてくるだろう。

さいごに

今季対戦時下位に沈む相手に対して、勝ち点の取りこぼしてしまい、また少し上位陣との差が開いてしまった。それでもまだ3分の1を消化したところ。前半戦の残りの対戦カードを考えると、まだまだ浮上のチャンスは残している。そんな中で次節は、首位・鹿児島ユナイテッドをホームに迎える。現在4連勝、3試合連続完封勝利とチーム状態も最高潮の相手だが、攻撃的に出てくる相手の方が、その裏のスペースを突きやすい。また鹿児島戦の試合前考察で分析するが、やはり窪田・村田のサイドアタッカーがこの試合もキーマンとなりそうだ。ここで鹿児島を撃破し、中盤戦に向けて、良いチーム状態を作り上げたい。

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