[FC岐阜 2-2 AC長野パルセイロ]の試合を終えて
はじめに
長野県の長野Uスタジアムで行われたAC長野パルセイロとFC岐阜の一戦は、一時長野が逆転に成功するも、後半アディショナルタイムに岐阜が追いつき、2-2のドローに終わった。前半は長野がボールを支配することは多かったが、後ろ重心だったこともあり、長野の攻めがそこまで脅威に感じなかった中で前半36分に前線からのプレスでボールを奪うと、速攻から先制点を決めた。ゴールを決めた藤岡浩介はこれで公式戦5戦連発5戦7発と絶好調をキープしている。ところが後半は全く違う流れとなった。前半主導権を握ることができた岐阜はシステム変更をして追加点を狙いにきたが、これが仇となり、岐阜の懐に入り込まれるシーンが立て続く。そして、警戒すべきだった後半開始15分以内に長野に同点弾を許してしまった。こうなると無類の強さを誇る長野が波に乗り、後半31分に長野が逆転。昨年の長野ホームでの試合とほぼ同じような展開となり、敗戦がチラついてきた後半アディショナルタイムに村田透馬のクロスにファーサイドで窪田稜が合わせ、2000年組の2人が素晴らしい同点弾を打ち込んだ。後に解説するが、やはり村田・窪田という若きサイドアタッカーが今季は安定した活躍を見せている。
スターティングメンバーについて
岐阜は前節同様に3バックシステムを用い、3-4-2-1のフォーメーション。GKは松本拓也。3バックの右に大西遼太郎、左に舩津徹也、中央に服部康平。ボランチには、スタメン発表時庄司悦大と本田拓也が並んでいたが、アップ中に本田が負傷。試合直前に変更となり、庄司とヘニキが入った。ウィングバックの右に菊池大介、左に宇賀神友弥。1トップに石津大介が入り、2シャドーに藤岡浩介とンドカ・チャールスが入ったが、この前線3人は流動的にポジションチェンジする。前節からは6人を変更した。ベンチには窪田、村田が入ったが、スタメン変更があったため、ベンチは6人となった。
一方の長野は今季の基本スタイル4-1-2-3を採用。GKは大内一生。4バックは少し変更を加え、右サイドバックにセンターバック起用が多い池ヶ谷颯斗が入った。左サイドバックは杉井颯が入り、これまで全試合に出場していた水谷拓磨がベンチからも外れた。センターバックは喜岡佳太と秋山拓也。アンカーに住永翔。その前にアンカー起用が多い坪川潤之と佐藤祐太。3トップの右に三田尚希、左に森川裕基、中央に宮本拓弥が起用された。ベンチにはJ通算300試合出場を達成した東浩史らが入った。
データから試合を振り返る
上表はこの試合の主なスタッツを比較したものだ。シュート数は長野が11本うち枠内4本、岐阜が13本うち枠内4本と同じような数値となった。パス数もあまり差はないが、長野が424本で岐阜を上回った。三浦体制から少しずつ横山体制にカラーが変わり始めたのが、この辺り。三浦監督時はパス数、ボール支配率で相手を圧倒していたが、横山監督になり、三浦監督時代よりは相手にボールを持たせながら、自分達が守備ブロックを組み立てる時間も長くしている。そして横山体制で増えたのが、クロス数。中央からサイド、サイドからサイドで攻撃を展開し、最後はクロスからチャンスを演出する機会が増えている。アタッキングサードへの進入回数やボール支配率は長野が上回ったが、チャンス構築率は岐阜が10.0%で上回り、ゴール期待値も長野0.844、岐阜1.678でほぼ倍近く差がついた。
上図は15分ごとのボール支配率、シュート数、プレースタイルを表したものである。まずは前半を比較すると、ほとんど差はないが、どちらかというと、長野がボールを握る時間が多かったが、岐阜は前半30分までにシュート7本を放つなど、攻撃的に試合を展開していたのは岐阜だった。攻め込む時間が長かっただけに、前半に得点が奪えないと苦しい展開になるが、31分から45分の前半終盤の時間帯にゴールを奪うことに成功した。両チームともにプレースタイルで「ポゼッション」がついていることから、お互いに縦に素早くというよりも、自陣でのパス回しから攻撃を組み立てることが多かったということが推測できる。
両チームのプレーエリアの割合を示すホットゾーンを比較すると、長野はボランチから最終ライン、そこから両サイドの攻撃を主としていることがわかる。また岐阜も同じように、最終ラインからサイドの攻撃を組み立てていたことがわかる。長野はボランチが1番濃くなっているのに対し、岐阜は両サイドの方が色濃くなっている。特に右サイド低い位置に大西と菊池、庄司らが絡んでパスを回していた。前線3人も石津、ンドカは下がり気味でポストプレーに入り、藤岡はサイドのフォローに向かうため、中央高い位置でのプレー時間は短かった。
後半のボール支配率等を比較すると、前半の流れから徐々に長野がボールをより支配し、シュートを放つ回数が増え、ゴールまで到達したことがわかる。やはり劣勢の長野は後半の試合の入りからガラッとチームの流れを変えてくる。岐阜のシステム変更も相まって、岐阜はシュートが打てず、前線も自陣に押し込まれ、長野がシュートまで到達した。同点に追いついたことでより長野が活性化され、61分から75分の時間帯で、60%近くボールを支配して、3本のシュートを放った。76分に長野がゴールを奪った後は、逆に同点を狙う岐阜と守備に重きを置く長野の構図になったことで、岐阜が62%近くボールを支配し、4本のシュートを放った。うち1つがゴールにつながり、同点で試合を終えた。
後半のホットゾーンを比較すると、色合いが似ていた前半から異なり、後半は長野がより後ろ気味、岐阜はよりピッチ全体でプレーすることが多くなった。試合前の考察通り、やはり長野は最終ラインでボールを回してから、左サイドでの攻めを主としてきて、得意のスタイルに切り替えた。自陣ペナルティーエリア内でもパス回ししていたため、色がかなり濃い。中盤から前線を見ると、左と右で色合いが違う。岐阜はどこかが深緑になっているわけではなく、両サイドともに幅広くプレーしていた。サイド高い位置までボールを運び、クロスを上げるスタイルを後半も展開していた。
戦術面から試合を振り返る
前半は長野が後ろ重心で戦っていたからか、岐阜がボールを握れる時間帯では、敵陣深い位置までボールを運びサイドまで展開することができた。岐阜は高い位置からのプレスを行い、先制点ではそのプレスがしっかりハマった。うまく試合の主導権を握れていただけに、試合を決めにかかろうとしてスタイルを変更したことと、長野が後半に勝負をかけていたことが合わさってしまい、後半開始から長野に主導権が渡ってしまった。ここでは、攻守の両面からこの試合を分析する。
【攻撃面】
攻撃時は3バックの両脇がサイド幅をとり、菊池・宇賀神がより高い位置をキープし、長野の両ウィングが大西・舩津にハイプレスを仕掛けさせないようなポジショニングで最終ラインのパス回しをフォローした。両脇のセンターバックにボールが渡ったときには、菊池・宇賀神が下がり、短い距離でパスを回し、そこからロングボールや引いて受けにきた石津・ンドカに短いパスで繋いだ。上図は攻撃時の平均なポジションを表してみた。ポイントとしては、前線3人の動き方。藤岡はより中央で長野のボランチの脇に上手くポジショニングをとった。藤岡は、ボールを受けた時に、前を向く能力が高いため、ここまで運べると、攻撃がシュートまでつながった。石津とンドカはかなり流動的で、ポストプレーに行くこととトップでディフェンスの背後を狙う役割を上手く使い分けた。ンドカが最前線に入った時には、積極的にディフェンスの背後にロングボールを配給し、ンドカのスピードと身体の強さを生かした。前半は人数をかけて攻撃ができたため、そこからの流れもあり、守備時に前線からのプレスが機能した。その象徴が先制点のシーン。
上図は先制点のシーンをアニメーションで表したものだ。左サイドバックの杉井がセンターバックにボールを戻したタイミングで、岐阜がパスコースのカットと全体的な押し上げを行い、住永に入る縦パスをカットしてゴールにつなげた。この縦パスも岐阜が狙いとして出させたパスだった。秋山にボールが渡ったときに、石津が横パスのコースをカット。杉井に対しては藤岡が近い位置に寄せたことで、パスコースを限定した。さらに、巧さを見せたのが、実は庄司とヘニキのボランチ陣。秋山がボールを受けて前を向いたところで、アンカーの住永に対して、あえて距離を取っていたことで、住永へのパスコースを生み出した。ンドカも住永に対して近くまで寄せなかったことで、秋山の選択肢は住永に固まった。まさに岐阜の狙い通りに、縦パスが住永に入ったところで、ンドカがスピードを上げ、パスカットに成功。ヘニキ、庄司も狙いとしていたため、近い位置にポジショニングをとっていた。
加えて、サッカーIQが高かったのが、庄司だ。ンドカがボールカットに成功すると感じた庄司は、住永へのプレスのスプリントのまま、中央のスペースに走り込んだ。その動きもしっかり確認できたヘニキがワンタッチで庄司へ。そして、石津がオフザボールの動きで秋山を惹きつけ、空いたスペースに藤岡が入り込み、庄司の技ありスルーパスからゴールを奪った。前線とボランチが連動したプレスからの守備&奪ってからの速攻。全てが組み合わさった素晴らしいゴールだった。
さらにポジティブな要素は、やはり窪田・村田の2000年組が結果を出せていることだ。村田はこの試合のアシストで既に4アシストを記録。窪田も2試合連続ゴールを含めてこれで3ゴール。両者ともに今季は数字として結果を残すことができている。スピードを武器としたサイドアタックで岐阜攻撃を牽引。今季縦への突破に迫力がある窪田はこの試合早々に出場したが、長野に縦への突破を封じられ、なかなかサイド打開することができなかった。個人的に窪田のもう1つの魅力と感じているのが、クロスに対してディフェンスの背後からゴール前に迫る能力の高さだ。それがこの試合も発揮された。村田のクロスに対して、守備まで戻ったデュークカルロスの背後から飛び出した。長野守備陣はオフサイドをアピールしていたが、この一瞬の動き出しが一級品だった。
【守備面】
岐阜の守備は5バックで、2シャドーがサイドに回る5-4-1を主としていた。ただ長野が最終ラインからサイドに展開してきた場合には、両ウィングバックが高い位置で対応し、最終ラインがそれぞれスライドして4バックを形成する。さらにダブルボランチは前線と連動して嵌めた時にはヘニキ・庄司ともに飛び出して対応する。そのスペースは大西や服部が少し高めの位置をとり、対応。この全体の連動性がここ数試合チームとして機能していた。
では、後半何が起こったのか。後半から大きく変えてきたのが、守備時の前線の配置だ。前半はシャドーがサイドをカバーし5-4-1に近い形を取ったが、後半はシャドーが中央に止まり、住永・坪川に良い形で入るパスを警戒するポジショニングをとっていたように感じる。この意図としては、この試合長野はサイドから深く崩すというよりも下がり気味の坪川と住永がダブルボランチのように並び、そこから中央突破のスタイルを攻撃プランとしていたことから、その2人に入るパスコースの限定と早いプレス、そして奪ってから近い距離間でカウンターを仕掛けるというところにあっただろう。ただ後半から長野も攻撃プランを持ち味の左サイドからのアタックに絞ってきたことで、これまで岐阜が警戒していたポイントにスペースが生まれてしまった。
上図のように、ボランチの脇のスペースにサイドバックの杉井や佐藤が入り込み、岐阜の守備ブロックを崩す。誰かが飛び出して生まれたスペースにすかさず長野の選手が入り込むため、岐阜の守備が後手になってしまった。攻撃時に池ヶ谷、喜岡、秋山の3バックのような形にして、杉井がより中寄りのポジションを狙ってきた。さらにここに前半影を潜めていた佐藤が縦横無尽にポジショニングをとり、岐阜守備を翻弄。その動きがまさに後半14分の同点弾を生み出した。
上図は長野の同点弾をアニメーションで表したものだ。長野の最終ラインの組み立てから中盤を経由し、最後は宮本のシュートが絶妙なコースに決まった。このシーンは宮本の見事なフィニッシュだったが、それだけで片付けて良いシーンではない。3バック気味にしたことで秋山が左サイドにポジションを取り、杉井がより前のポジションに。秋山から杉井に渡った際には、窪田が飛び出し、その裏のスペースを最終ラインがスライドして埋める形は上手くいったが、佐藤にボールが渡ったところで、ヘニキが簡単に剥がされてしまった。ヘニキが高めで対応して開いたところに藤岡がプレスバックしてきたが、佐藤のドリブル突破を許し、宮本へ。
この時に宮本のゴールに繋がったポイントが2つある。1つは、舩津と服部の連携ミスだ。宮本に対して後ろからチェイスした舩津と服部が同サイドに寄ってしまい、宮本の右側にスペースを生んでしまった。そこは大西が対応したいところだったが、ここで2つ目のポイントがあった。それはパスを出した佐藤のオフザボールの動き。パスを出した佐藤がそのまま前線に上がり、宮本の横を通ったことで大西をひきつけた。この横のスペースに宮本が持ち込み、服部もすぐに対応したが、後ろから対応したヘニキも1枚イエローカードをもらっていたことがよぎったのか、強く行けず、そのままシュートまで運ばれてしまった。ここまでシュートが少し外れ気味だった宮本が自ら打開してゴールを決めたことで、宮本本人も長野も勢いづいて、逆転弾に繋がった。
この辺りの迫力は流石の長野だったが、後半早々に良い形を作られたことで、岐阜も少しずつ人ではなく、ボールに対して動くようになってしまったことが失点につながったと考える。その辺りの修正が次節への課題か。
さいごに
横山監督になり、これでリーグ戦は2勝1分。平均勝ち点2.3と目標の1試合あたり勝ち点2獲得を新体制になってクリアしている。この試合も前半の流れからシステム変更で追撃に出たことが流れを断ち切ってしまうミスもあったが、そこから敵地で同点に追いつく粘り強さは横山監督になって、岐阜につき始めた新しい力ではないだろうか。ここから天皇杯・ガンバ大阪、ホーム・ヴァンラーレ八戸戦を経て、大一番の首位・鹿児島ユナイテッド戦が控える。戦術成熟度を高めていき、首位撃破といきたい。