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『シュトヘル』を読んだ感想
※シュトヘル全14巻のネタバレを含みます
まず本作品、2024年に読んだ漫画の中のベスト作品です。
作品概要
時は13世紀始め、まだ「西夏」という国があった頃のお話。
しかし情勢は危うく、モンゴルによって滅ぼされそうになっていた。
さらにそれだけではなく、モンゴルの長であるチンギス=ハン(カン)は「西夏文字」を根絶させようとしていた。
そこで主人公であるユルール(祝福の意)が、西夏文字を守るために、西夏文字が刻まれた玉の板、通称「玉音同」を保護しに宋(南宋)に向かう。
その道中、モンゴルによって仲間を皆殺しにされた西夏の少女のシュトヘル(悪霊の意)と出会って……。
感想
そもそも西夏という国を言われて、「ああ、あの国ね」と思い至れる人間がどれだけいるだろうか。
できたならその人は、ほぼ確実に学生時代に世界史選択だ。しかも、そこそこ勉強してた方だろう。
教科書に出てくるとはいえ、記述は非常に少ない。
タングート(党項)の李元昊が建てて、宋と慶暦の和約を結んで、1227年にモンゴルに征服される。
情報量としてはおそらくこの程度だろう。
そんな国のお話だが、言ってしまえばニッチすぎる。
私も西夏は存じ上げていたが、この国のことをもっと知りたいと思ったことはただの一度もなかった。
だが、『シュトヘル』にはそれをさせる力がある。
西夏の文化を、なにより文字を知りたいと思わせてくれるのだ。
人間の知的好奇心を刺激してくれる漫画は総じて名作というわけだ。
という歴史性もそうなのだけれど、まず単純にストーリーが素晴らしい。
主人公であるユルールの目的が作中を通して一貫しているため、非常に読みやすい。
西夏文字の刻まれた玉音同を、宋国まで届ける。やっていることはそれだけだ。
それを追うのが、ユルールの「兄」であるハラバルとモンゴルの長であるチンギス=ハン。
とはいえメインの追跡者がその二人であって、作中で玉音同の存在を知った者は、ほぼ確実にそれを追ってくる。
例えば、金国の将軍であるジルグスが対モンゴルとの外交カードとして使うために玉音同を欲する。
史実を見れば分かるが、金国は1234年に滅びる。後にまた再興したりするがそれは置いといて……金国もモンゴルの餌食になる運命なのだ。
だからこそ作中の結末は分かってしまうのだけれど、このように玉音同に新たな付加価値を与えていくのは非常に上手い。
動機がしっかりしているから、納得感が強い。
個人的にはジルグス編のまとまりがお気に入りだ。
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ジルグス編最後の、兄ハラバルの喉笛を噛みちぎろうとするシュトヘルに、ユルールが告白をするシーンは必見だ。
この後のシュトヘルのアンサーまでは、確実に読んでほしい。
と、ここまで半ば意図的にシュトヘルのキャラクター像について語らなかったが、おおむね上記の画像の通りです。
女の子は、ちょっと過激なぐらいが可愛いよね。
そんなユルールとシュトヘルが織りなす歴史ファンタジーをどうぞご賞味あれ。
と、簡単に締められれば良かったのですが、少し残念な話があります。
『シュトヘル』を紙で買うのは、おそらく中古を当たらないと無理だと思います。
絶版はされてませんが、新たに刷られることは望み薄です。1000人ぐらいが欲しがれば、印刷所を稼働させてくれそうですが…。
なので買うなら電子版ですね。それなら基本どこにでもありますので。
『シュトヘル』全巻、新品の紙で売ってたなら私のリサーチ不足です。北海道でも沖縄でも買いに行きます。
しかし、妙案思いつきました。『シュトヘル』をアニメ化することです。
アニメ化すれば、漫画が刷られる…!
そんなわけで、よろしくお願いします。
公式サイト
https://bigcomicbros.net/work/6234/