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銀行株決算から見た米国経済への懸念

いよいよ2024年第2四半期の決算発表シーズンが始まりました。

トップバッターは銀行株の決算発表です。
銀行株決算は経済全体の健康状態を反映するものであり、特に大手銀行の結果は市場の動向に直接影響を与えます。

JPモルガン・チェース(JPM)の決算はその代表例であり、その内容と影響は注目に値します。


①JPMの決算(7/12)

決算の要旨
純利益: 181億ドル(前年同期比増加)
EPS: 6.12ドル(市場予想:5.85ドル)
売上高: 502億ドル(市場予想:422.3億ドル)
純金利収入: 22.9億ドル
総貸倒引当金: 31億ドル
クレジットカード純貸倒引当金: 21億ドル

EPS、売上高は市場予想を上回り、投資銀行部門が特に好調であったことから過去最高益を更新しました。

決算発表後の株価の動き
一見良好な決算であったにも関わらず、7月12日の米株式市場では、JPMの株価は急落し、前日比6.5%安で取引を終えました。

この背景にあるJPMの決算に潜む問題点について詳しく見ていきましょう。

②一見良好なJPMの決算の問題点

JPモルガンの決算は表面的には良好に見えますが、クレジットカード債務の焦げ付き(不良債権化)という重大な問題が潜んでいます。

以下ではJPMの決算報告書からクレジットカードの焦げ付き(貸倒れ)に関する情報を取得していきましょう。

1)貸倒引当金(Provision for Credit Losses)

貸倒引当金は、将来の貸倒損失に備えて設定される会計上の準備金です。JPMorgan Chaseの第二四半期の貸倒引当金は、総額で31億ドルでした。これは前年同期比で5%の増加を示しています。

2)与信コスト(Credit Costs)

与信コストは、貸倒引当金の増加や実際に発生した貸倒損失を反映します。JPMorgan Chaseのクレジットコストは31億ドルで、

その内訳は以下の通りです:

  • 22億ドルのネットチャージオフ(実際に回収不能となった金額)

  • 8.21億ドルの純引当金増加(将来の損失に備えるための引当金の増加)

3)貸倒損失率(Charge-Off Rate)

カードサービスにおけるネットチャージオフ率は3.50%でした。これは、クレジットカードの貸倒れが増加していることを示しています。

4)セグメント情報(Segment Information)

セグメント情報には、各事業部門ごとの詳細な業績が記載されています。特に、消費者とコミュニティバンキング(CCB)セグメントの情報が重要です。

  • CCBセグメントの純収益:177億ドル、前年同期比3%の増加

  • カードサービスおよびオートの純収益:60億ドル、前年同期比14%の増加

  • 貸倒引当金:26.43億ドル、前年同期比42%の増加

CCBセグメント全体の貸倒引当金が増加していることから、クレジットカードの貸倒リスクが高まっていることが推測されます。

JPMの今期決算では貸倒引当金の増加やカードサービスのネットチャージオフ率の高さが確認されており、クレジットカードの貸倒リスクが増加していることが示唆されます。

特に22億ドルのネットチャージオフという数字は、同社の投資銀行部門の第2四半期の投資銀行収益25億ドルと比較しても、その大きさが際立ちます​。

クレジットカード債務の焦げ付きがJPMにとってかなり大きな負担となっていることがわかります。

クレジットカード債務の焦げ付きが今後も増加するようであればかなり大きな問題となり得るでしょう。

決算を手掛かりにした個別株投資はこの本で勉強しました。


③他の銀行株決算はどうか?

Citi(シティグループ)の2024年第2四半期決算

1) 貸倒引当金(Provision for Credit Losses)
Citiの第二四半期の貸倒引当金は、総額で25億ドルでした。これは前年同期の18億ドルから増加しています。前期(第一四半期)の貸倒引当金は約23.65億ドルでした。

2) 与信コスト(Credit Costs)
Citiのクレジットコストは25億ドルで、その内訳は以下の通りです:

  • 22.83億ドルのネットチャージオフ(実際に回収不能となった金額)

  • 前年同期は15.04億ドル、前期は23.03億ドル

  • 6800万ドルの純引当金増加(将来の損失に備えるための引当金の増加)

  • 前年同期は1610万ドル、前期は2100万ドル

3) 貸倒損失率(Charge-Off Rate)
カード関連の純貸倒損失率は2.68%で、前年同期比52%の増加を示しています。
前年同期は1.76%、前期は2.55%

やはりCitiにおいても債務の焦げ付き状況が悪化していると考えられます。

④ニューヨーク連銀によるレポート

ニューヨーク連邦準備銀行が発表した2024年第1四半期のレポートからも、クレジットカード債務の延滞率が上昇していることが分かります。

具体的には、延滞率が8.9%に達し、前年同期の2.45%から大幅に増加しました
この延滞率の上昇は、消費者の財務状況の悪化を示しており、インフレ対策のための高金利環境が影響しています。

若年層・低所得者層を中心に高金利下で財政状況が悪化していることが示されています。

⑥米国経済減速の懸念

若年者や低所得者層を中心にクレジットカード債務の焦げ付きが増加していることは、米国経済の先行きに対する大きな懸念材料です。

これらのグループは消費の主要な担い手であり、彼らの財務状況の悪化は消費支出の減少を引き起こし、経済全体の成長を抑制する可能性があります。

現在の米国GDP成長(2.0%: 2024.7.10 GDP now )はそれほど悪い値ではありませんが、主にAI関連のデータセンターへの投資による経済成長がGDPを支えている形であり、かなり不安定な状況です。

本来、米国は消費がGDPをけん引する国なので、FRBによる高金利維持が予想以上に経済にダメージを与えている可能性があると考えられます。

⑦まとめ

JPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの第2四半期決算からは、クレジットカード債務の焦げ付きが大きな懸念材料となっていることが浮き彫りになりました。

これらの銀行の決算データは、米国経済全体の健康状態を反映しており、消費者の財務状況の悪化が今後の経済成長に対する大きなリスクとなっています。

FRBの高金利を維持する政策はインフレを抑制するという点では効果を挙げつつあります。
しかし、インフレ抑制&景気減速なしのソフトランディングから、インフレ抑制&景気後退のハードランディングのシナリオのリスクが上がりつつあることが今期の銀行株決算でも垣間見えました。

以下の記事でもFRBの姿勢の変化も含めてこのテーマに触れています。

引き続き米国株の景気の行方に注目していきたいですね。

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n=1|米国株投資@外科医
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