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FRBの利下げにも関わらず米国長期金利が上昇。その背景は?
はじめに
2024年の金融市場では、FRB(連邦準備制度)が複数回の利下げを実施しているにもかかわらず、長期金利である10年物米国債利回りが上昇しています。
本来、利下げは金利全体を低下させ、経済活動を刺激するはずですが、今回のケースでは異なる結果が生じています。
本記事では、この現象の背景を具体的なデータとともに解説し、FRBの金利政策が抱えるリスクについても考察します。
1. FRBの利下げ政策と日程
2024年9月以降にFRBは以下のスケジュールで合計100ベーシスポイント(1%)の利下げを実施しました:
9月20日: 0.50%(50ベーシスポイント)の利下げ
政策金利(FF金利)を5.25%から4.75%に引き下げ。この大幅な利下げは、景気の下振れリスクを抑えることを目的としていました。
11月1日: 0.25%(25ベーシスポイント)の利下げ
政策金利を4.75%から4.50%に引き下げ。インフレ率が低下傾向にある中、緩やかな利下げで経済の安定を図る動きです。
12月13日: 0.25%(25ベーシスポイント)の利下げ
政策金利を4.50%から4.25%に引き下げ。
これにより、FF金利は2024年初頭の5.25%から年末時点で4.25%に低下しました。
2. 長期金利の動向とデータ
一方で、10年物米国債利回り(長期金利)は以下のように推移しました:
9月17日(利下げ直前):10年物利回りは3.60%
FRBが初回の大幅利下げを実施する直前、長期金利は52週間の最低水準を記録しました。これは市場がFRBの利下げを織り込んでいたためです。
11月15日(2回目の利下げ後):短期的な高値である4.5%を記録。
FRBが2回目の利下げを実施したにもかかわらず、インフレ期待の高まりや経済指標の強さが長期金利を押し上げました。
12月6日:一時的に4.13%まで低下。
トランプ政権がスコット・ベッセント氏を財務長官に指名し、財政政策の安定感を市場に印象づけたことが、利回り低下を引き起こしました。
12月27日(年末時点):再び4.62%に急上昇。
FRBの3回目の利下げ直後に市場がインフレ懸念を再び強めた結果、長期金利が急騰しました。この動きは、FRBの政策が市場心理に十分に応えていないことを示しています。
FRBの利下げにも関わらず、この期間に長期金利は大幅に上昇しています。
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3. なぜ長期金利が上昇しているのか?
インフレ期待の上昇
トランプ政権は2024年の大統領選挙で再選を果たした直後から、関税引き上げや減税を柱とする政策を打ち出しています。これらの政策がインフレを加速させると予測され、長期金利を押し上げる結果となっています。
また、労働市場の堅調さが賃金上昇圧力を高め、インフレ期待をさらに強める要因となっています。
財政赤字拡大への懸念:債券市場の一部の投資家は、トランプ政権の大規模な財政赤字拡大に強い懸念を示しています。特に、国債の供給増加が需給バランスを崩し、利回りを押し上げる一因となっています。
経済指標の堅調さ:FRBの利下げ後も、米国の雇用や消費のデータが強い数値を示しています。これにより、経済が追加刺激を必要としていないとの見方が広がり、長期金利の上昇につながっています。
政策の信認低下:市場参加者の一部はFRBの政策が「必要以上に緩和的」だと捉えており、金融政策への信頼が低下しています。この不信感が長期金利のさらなる上昇を招いています。
4.FRBの政策が機能しないリスク
政策効果の逆転現象
利下げは本来、借入コストを下げて経済を刺激することを目的としていますが、長期金利が上昇すると住宅ローンや企業借入のコストが増加し、経済への逆風となります。
金融政策の限界
長期金利の動きが市場の期待や政策への信頼に大きく依存しているため、FRBの短期金利政策だけでは市場全体をコントロールしきれない状況が明らかになっています。
市場の不安定化
長期金利の上昇が株式市場のボラティリティを高め、結果としてリスク資産の売却や資本流出が発生する可能性があります。
おわりに
FRBの利下げにもかかわらず長期金利が上昇する現象は、金融政策と市場心理の複雑な相互作用を浮き彫りにしています。
FRBが2025年に追加の利下げを行ったとしても、インフレ期待や財政赤字の進展次第では、長期金利の高止まりが続く可能性があります。
また、トランプ政権が財政赤字削減に向けた具体策を講じない限り、市場の懸念は払拭されないでしょう。
この長期金利の高止まりは米国株市場にとって今後もリスク要因の一つとしてくすぶり続けると思われます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
この記事が読者の皆様がリスクとリターンを考慮したより良い投資判断を行うための手助けとなれば幸いです。
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