メタ(META) vs マイクロソフト(MSFT) 決算分析:AI投資戦略とDeepSeekへの対抗策
2025年1月29日メタ(META)とマイクロソフト(MSFT)が相次いで決算発表を行いました。
両社とも生成AIへの積極的な投資を継続する方針を明らかにしましたが、その戦略や市場の反応には違いも見られます。
本記事では、両社の決算カンファレンスコールの内容を深掘りし、特に「多額のAI投資に対する投資家の反応・各社の説明」と「DeepSeekとそれに象徴される生成AIのコモディティ化についての各社の考え方」の2つの軸から、今後のAI競争の行方を読み解きます。
1. AIへの巨額投資:市場の期待と各社の戦略
両社は、生成AI分野への巨額投資を継続する方針を明らかにしました。しかし、その規模、対象、収益化への道筋、そして市場の反応には違いが見られます。
マイクロソフト(MSFT):Azureを軸に、AIを全方位展開
投資家の反応:
Azureの成長鈍化、特に非AI部分の成長鈍化を受け、AI投資の収益化に対する懸念が示唆されます。
第3四半期の売上高見通しが市場予想を下回ったことも、懸念材料となりました。
決算発表後の株価は時間外取引で下落しました。
投資規模・期間:
データセンターのキャパシティを過去3年間で2倍以上に拡大。
昨年は過去最大のキャパシティを追加。
今後も継続的に設備投資を行う予定です。
設備投資は、データセンター、ネットワーク、ラック、シリコンなど、クラウドと次世代AIワークロードの両方を支えるシステム全体に及びます。
投資対象:
Azure OpenAI Serviceの拡大。
データセンターのキャパシティ拡大。
AMD、Intel、NVIDIAの最新製品と、Maia、Cobalt、Boost、HSMなどの自社製シリコンの活用。
Microsoft Fabric、Power BIなどのデータ関連サービスへの投資。
GitHub Copilotなど、AIを活用した開発ツールの強化。
収益化・費用対効果:
AI投資は長期的な視点で行われています。
Azureの成長率は、AI関連サービスが牽引。特に、AIサービスの成長率は前年比157%増。
「Azure OpenAI Service」は、顧客獲得と利用拡大に貢献しています。
GitHub Copilotは、開発者の生産性向上に貢献しています。
AI関連サービスの需要は高いが、供給が追い付いていない状況。
「オペレーショナルな規律」を維持しつつ、効率性を重視しています。
リスク・課題:
Azureの非AI部分の成長鈍化。
市場への展開の課題、特にパートナー経由や間接販売が中心の顧客層における課題。
AIへの投資が、非AI部分のビジネスに影響を与えている可能性。
キャパシティの制約。
競争環境の激化。
メタ(META):Llamaのオープンソース化で、AIエコシステムの中心へ
投資家の反応:
数百億ドル規模のAIインフラ投資を計画しており、現時点では、大規模投資の継続と利益率への影響に対する懸念が示唆されます。
投資家は、長期的な利益成長への確信が持てれば、大規模投資を容認すると思われます。
投資規模・期間:
長期的に数百億ドル規模のAIインフラ投資を計画。
2025年には約1ギガワットのAIデータセンターの設備容量をオンライン化する予定。
2ギガワット、もしくはそれ以上の規模のAIデータセンターを建設中。
今後数年間で、これらのAI投資による収益成長を加速させる計画。
投資対象:
Meta AIの開発と普及:パーソナライズされた高度なAIアシスタント。
Llama 4の開発:オープンソースで最先端のAIモデルを目指す。
AIエンジニアリングエージェントの開発:コーディングと問題解決能力を持つ。
AIインフラへの投資:データセンター、サーバーなど。
Ray-Ban Meta AIグラスの開発。
収益化・費用対効果:
AIへの投資は長期的な視点で行われています。
2025年は、AIへの投資が収益に大きく貢献する年ではないと明言。収益への貢献は、早くても2026年以降。
AIへの投資は、広告、レコメンデーション、フィードなどのビジネスの改善にも活用。
AIへの投資は、長期的には、効率性の向上、コスト削減、収益拡大につながると考えています。
リスク・課題:
AIへの投資は、長期的な視点で行われているため、短期的な収益への貢献は限定的。
AIへの投資が、短期的な利益率に影響を与える可能性がある。
AIの開発と普及には、多くの不確実性が伴う。
特に、AIアシスタントの普及には時間がかかると予想され、ユーザーへの価値提供や利用拡大に向けた課題が存在します。
2. 中国発「DeepSeek」の衝撃:オープンソース戦略で対抗
両社は、決算カンファレンスコールで、中国のAI企業が開発したオープンソースの大規模言語モデル「DeepSeek」に言及しました。
特に、METAのザッカーバーグCEOは、DeepSeekを「新たな競合」と名指しで警戒感を示し、オープンソース戦略の重要性を強調しました。
マイクロソフト(MSFT):多様なモデルをサポートするプラットフォーマー戦略
DeepSeekへの言及: あり。DeepSeekのR1モデルが、FoundryとGitHubで公開されたことに言及。
DeepSeekへの評価:
「DeepSeekは真のイノベーションをもたらしている」と評価。
「これはOpenAIが"01"に見出したものの一部でもある」と、その技術力を認めています。
「これらの技術がコモディティ化され、広く使われるようになると、最大の受益者は顧客である」と、オープンソース化のメリットを強調しています。
DeepSeekへの対応:
FoundryとGitHubでDeepSeekのR1モデルを公開することで、オープンソースモデルのサポートを強化。
「我々は、OpenAIの主要モデルとオープンソースモデル、そしてSLM(Small Language Models)をサポートする上で良いポジションにいる」と、多様なモデルをサポートする戦略を強調。
生成AIのコモディティ化への対応:
「AIのコモディティ化は、AIの利用を拡大し、新たなアプリケーションやビジネス機会を生み出す」と、コモディティ化を前向きに捉えています。
「推論コストが継続的に削減されており、その結果、AIがよりユビキタスな存在になる」と予測。
「Foundry」への投資を通じて、多様なモデルが共存するエコシステムを自社のプラットフォーム上で構築し、ビジネス機会につなげる戦略です。
メタ(META):Llamaオープンソース化で、「アメリカの標準」確立を目指す
DeepSeekへの言及: あり。ザッカーバーグ氏が「新たな競合」として、特に名指しで複数回言及。
DeepSeekへの評価:
DeepSeekを「新たな競合」と明確に位置づけ、強い競争意識を表明。
「中国」という言葉を強調し、競争が国家間の競争でもあることを示唆。
「グローバルなオープンソースの標準が生まれる中で、それがアメリカの標準であることが重要である」と、アメリカ企業としての立場を明確化。
DeepSeekへの対応:
「Llamaとオープンソースが最も先進的で広く使われるAIモデルになる」と、Llamaのオープンソース化を推進。
「Llama 3ではクローズドモデルと競争力を持つことを目標とし、Llama 4ではそれをリードすることを目指す」と、性能面での優位性を追求。
「オープンソース化によって、イノベーションの促進、コスト効率の向上、エコシステム全体の発展など、多くのメリットが生まれる」と、オープンソース化の意義を強調。
生成AIのコモディティ化への対応:
Llamaのオープンソース化を通じて、生成AIのコモディティ化を積極的に推進。
オープンソース化によって、イノベーションの促進、コスト効率の向上、エコシステム全体の発展など、多くのメリットが生まれると考えています。
特に、中国発のモデルとの競争を強く意識し、「アメリカの標準」を確立することを目指しています。
まとめ:AI競争は新たなステージへ、各社の戦略と投資の違い、そして投資家心理
METAとMSFTの決算カンファレンスコールからは、両社が生成AIのコモディティ化を重要な戦略と位置づけ、巨額の投資を行っていることが明らかになりました。
MSFTは、Azureを軸に、多様なAIモデルをサポートするプラットフォーマー戦略を展開し、広範囲な顧客層へのAI普及を目指しています。 一方、METAは、Llamaのオープンソース化を通じて、生成AIのエコシステムを拡大し、業界標準の確立を目指しています。
特に、METAは、中国発のDeepSeekを強く意識し、オープンソース戦略を通じて、生成AI市場での主導権を握ろうとしていることが伺えます。これは、技術競争だけでなく、国家間の競争という側面も反映しており、今後のAI覇権争いの激化を予感させます。
両社のアプローチの違いは、投資対象にも表れています。 MSFTは、Azure OpenAI Serviceの拡大や、データセンターのキャパシティ増強など、クラウドインフラとサービスへの投資に注力しています。一方、METAは、Llama 4の開発やAIエンジニアリングエージェントの開発など、AIモデル自体の開発と、それを活用したアプリケーション(Meta AIやRay-Ban Meta AIグラス)への投資に重点を置いています。
両社に共通しているのは、AIへの投資が長期的な視点で行われており、短期的な収益への貢献は限定的であると説明している点です。
MSFTに対しては、Azureの非AI部分の成長鈍化や、AI投資の収益化、特にパートナー経由や間接販売が中心の顧客層における市場展開への課題、供給面のキャパシティ制約、そして競争環境の激化について、投資家からの懸念が示唆されています。 これに対し、MSFTはAI関連サービスの需要は高いものの供給が追い付いていない状況を説明し、効率性を重視する姿勢を示しています。また、長期的な視点での投資の重要性と、AIサービスによる顧客獲得と利用拡大への貢献を強調し、市場の懸念払拭に努めています。
一方、METAに対しては、数百億ドル規模のAIインフラ投資計画から、現時点では、大規模投資の継続と利益率への影響に対する懸念が示唆されます。 特に、2025年はAIへの投資が収益に大きく貢献する年ではないと明言していることから、投資家は、ユーザーへの価値提供や利用拡大に向けた課題、そして短期的な利益率への影響を注視していると考えられます。METAは、AIへの投資が長期的な視点で行われていることを説明し、広告、レコメンデーション、フィードなどのビジネスの改善にも活用することで、将来的には効率性の向上、コスト削減、収益拡大につながるとの見通しを示しています。
投資家心理としては、両社による大規模なAI投資の長期的な利益成長への確信が持てれば、投資は容認される可能性があります。 しかし、短期的には収益化への課題や利益率への影響が懸念されるため、今後の投資の進捗と成果が注視されるでしょう。特に、MSFTのAzure非AI部分の成長回復や、METAのAI投資による具体的な収益貢献の道筋が、投資家心理を左右する重要な要素となります。
生成AIを巡る競争は、技術革新、オープンソース戦略、そして国家間の競争といった、複数の側面から目が離せない状況です。今後も、両社の動向、そして生成AI市場全体の発展に注目です。
免責事項
この記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。株式投資にはリスクが伴いますので、投資を行う際はご自身の判断と責任において行うようにしてください。