さよならのラブソング

さよならのラブソング - episode 2

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第1章 出会い

「お先です!」
パソコンを片付けて鞄を持って駅に向かった。今日は思ったより忙しくならず、早めに帰ることができてホッとしている。とはいえ、定時は過ぎて外は真っ暗になっているのだけど。

「なんだか疲れたなあ。」
仕事から帰るとき、いつもこう思っている気がする。でも、家に帰るのだからもう忘れてしまおう。電車に揺られてボーっとしていた。思い出したようにスマホを取り出してなんの気無しにSNSやニュースをチェックする。すると、知らない人からのメッセージが届いていた。

「スパムなんて届くこともあるんだなー。」
と思って削除しようとしたが、なぜかできなかった。そのメッセージを開いて中身を確認した。

忘れないで。
誇り高き時代があったことを。
温かく優しい世界を。

なんだか薄気味悪い気がしたが、どこかで聞いた言葉だった。どこで聞いたのかわからないが、初めて見る言葉ではなかった。モヤモヤした気持ちでしばらく画面を眺めていると、同じ人からもう1通メッセージが来た。

もうすぐ着くよ!
遅くてゴメンね。

おそらく、これは間違って違う人に送るはずのメッセージを送っているんだろう。ちゃんと教えてあげないと、また間違って送られてくるから返信することにした。

すみません。
送る相手を間違っていると思いますよ。
僕はあなたと待ち合わせをしていないので。

さっと送信ボタンを押して、前の画面に戻る。その瞬間、突然電車が止まった。何か障害物でもあったのか、それからしばらく止まった。しかし、3分ほど経っても電車は動かない。人身事故でもあったのか、と心配になりだしたとき、電車は真っ暗になった。もっとおかしいのは、誰もそれに対して声を漏らさないことだ。まるでこの通勤時間の電車に誰も乗っていないかのように。

「ごーめんごめん!遅れちゃった!こっちだから!」
若い女性の声がした。彼女は僕の右手をとって引っ張ってどこかに連れて行こうとしていた。振りほどこうとすると、女性の力であるにも拘らず、全くふりほどけない。
「ちょっと、人違いですよ?」
そう言うと、彼女ははたと足を止めて可愛らしい大きな目で僕の顔を覗き込んだ。まじまじと覗き込んだ後、一瞬顔をしかめた。
「間違ってないです!岡原太一さんでしょう?」
「え、ていうか何で僕の名前を知っているんですか?」
「どうしたの?忘れたの?」
「初対面だと思うんですけど。」
「そうか、そうなってるのか。わかったわかった。じゃあ黙ってついて来て!」

彼女はそのまま僕の手を引いて電車のドアに向かった。ドアに着くと、そのドアだけ開いた。
「えっ、ここ橋じゃないですか!下、川ですよ!」
僕は声が震えていた。しかし、彼女にはそれが聞こえていないのか、手を繋いだまま飛び降りた。

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