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エスカレーター

わたしがいつも通勤で乗り降りする駅は、日本一乗降客数が多いと言われているターミナル駅だ。

たしかにいつもどこかへ向かうひとでいっぱい。老若男女、国籍もさまざまなひとたちが行き交う。
発車の合図などで常に放送も入っていて、目まぐるしく分刻みで到着発車する電車を見ているとまるで色別対抗リレーをしているみたい。

ホームにすべりこんだ電車を降りて、改札口へ向かうには1階分上がらなければならない。
エスカレーターに近い電車のドアを把握しているので、たいてい降りてすぐのところにエスカレーターはあるのだが、それでもだいたいひとがいっぱい並んでいる。

いつものように、エスカレーターに乗って左に寄り、スマホでSNSチェックを始めた。すごく長いエスカレーターだし、これは歩きスマホにはならないと思うから。この時間は何か家族の対応で急に遅れるなどの連絡が多い。案の定ひとりからそんな連絡が入っていた。

大丈夫だよ。仕事の方は落ち着いているし、なにかあったら連絡するかもだけど。お子さんについててあげて〜お大事にね〜!

的なラインを返して、やれやれ。

そして昨夜のケンカを思い出す。
どうしてあんな風に言われなきゃいけないのか。
どうしてあんな言い方してしまったのか。
ふたつの思いが湧き上がる。

ふと、すれ違う下りのエスカレーターでこちらに向かって手を振っているひとがいることに気がついた。
あー!おはようございます!お久しぶりですね〜と声には出さないが、こちらも笑顔で手を振り返す。だいぶ前に退職されたあの方は監査役だったかな?こんなところで会うなんてびっくり。下りのエスカレーターは上りよりだいぶ空いている。

手を振り終わり、スマホに目を落とし、ラインを開く。向こうからは謝りのメッセージは来ていない。わたしから謝るまできっとなにも言ってこないだろう。いつものことだ。
ため息をつきながら、どうせ謝る羽目になるなら、最初に折れておく方がこじれないかとこれまたいつもの結論に行き着く。

昨日はごめんね。

とタイプしたところで、今朝のエスカレーターはなんだかいつもより遅い気がすると思って顔を上げた。とたんに、となりの下りエスカレーターを見覚えのある男の子が駆け降りていった。こないだたしか事故で危篤ってご近所さんが言ってた角の家の子だ。どうしてあんなに元気なんだ?

そうだ、さっきの監査役も、たしかご病気だけど、快方に向かってると聞いた。そうかお元気になられたのか。

ふいにわたしの名が呼ばれて、見上げると下りエスカレーターで降りてくるのは。。。おじいちゃん。え?おじいちゃん?病院のはず。意識戻ったの?どうしてここにいるの?たまらずわたしも声を出す。

おじいちゃんは、少しこわばった顔で、だめだそのエスカレーターから降りなさい、こっちに来なさいと大きな声で言った。すれ違いざま、おじいちゃんの痩せた手がわたしの指に触れることなく空を切った。




エスカレーターはまだ着かない。


びっしりとひとが乗っているせいもあるけれど、上の方が霞んで見えない。

並んで乗って。順番に。





#エスカレーター #どこ行き #改札階 #駅 #上り #下り  

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