ローリングスシ
いまはもう他界した祖母は、元気だし気楽だから、と90に近くなるまで1人暮らしをしていた。
ようやっといっしょに住み始めて、10日ほどのころ。
1人で生活していく緊張やおさんどんからも開放され、ゆったりと過ごしていた祖母だったが、やはりその年齢なりの思い違いや、もの忘れをしていることがたびたびあった。
この年齢だもん、そういうこと無いわけないよね。多少、ん?と思うようなことがあっても、祖母のペースに合わせて行こう、と表立っては話さないが、そういう了解で家族みんなが過ごしていた。
ある日の夕食時のできごと。
海の幸がたっぷり入った海鮮太巻きが食卓に並んだ。
すごいねえこれは何種類入ってるんだろうね、きれいだねえ美味しいねえと祖母もまた喜びながら食していた。
それぞれ自分の分を手元の取り分け皿に移していたが、気づくと大皿の方にあとひと切れ余っている。
祖母がひ孫である娘に向かって、大きくならないといけないんだから食べなさいと確固たる口調で言った。
娘も、いいの?ありがとう〜!今のが食べ終わったらあとひとつ食べる〜とニコニコしていた。これなら何個でも食べられちゃうねとひとしきり笑ったところへ。
にゅにゅにゅーと箸が伸びてきた。
誰の箸?
祖母だ。
祖母の箸が最後のひときれをつかんだその瞬間、7歳のひ孫は「あっ」と声には出さずにいたが、驚いた表情でわたしを見た。
だって、さっき最後のひとつ食べていいって…という顔で、次に祖母をぼうぜんと見つめる。
家族みんなが笑いをこらえつつ、しかし、祖母がそのひとつにパクリと食いつくのを、わたしたちは静かに見守った。
今でも、7歳の子が、あのときよく自分の分だと声をあげなかったもんだ、と笑いながら、ひ孫である娘が褒められるはなし。
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