A-SPECはDXのカギとなるか? | わたしとトイレ設計06 ~special column~
私は現在DX推進部でBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)を活用した技術開発などに携わっていますが、元々は空調や衛生設備の設計者でした。
今までさまざまな用途の建物で設備設計に携わりましたが、いろいろと思い返すと、実はトイレの設計が一番難しかったなと感じます。
実は一番難しい「トイレの設計」
トイレの設計が一番難しいというのも、設備設計は意匠プランが決まらないと検討が進められないことが通例ですが、特にトイレの詳細は設計期間の後半にようやく検討されることが当たり前だったからです。
また、トイレは平面プランがあれば設計できるという話でもありません。ライニングの配管スペースのように、人からは見えない限られた狭小空間の中を詳細に検討する必要があります。そのため、器具とライニング形状や接続したい立配管のあるシャフト、下階の天井空間との関係などを整理し、平面・断面ともミリ単位で検討できる状態にいかに早く整理できるかが設備設計のポイントになると思います。
さらにトイレの設計は空調設備など他の設計と比較し、調整代がほぼないことを前提に設計をする意識が大切だと個人的に思います。
例えば「改修性を考えてトイレ配管は床上に設置する」という設計思想はあっても、施工段階で詳細に検討した結果、わずか数ミリのズレで立配管に接続できず、実現を諦めざるを得ないといった状況を、多くの設備設計者が一度は経験しているのではないでしょうか。
「プランを早期に決める」ソリューション
BIMは従来の2次元設計とは異なり3Dモデルがあることで、確認したいさまざまな断面を即座に表示し確認できるので、トイレ設計に対してとても強力なツールを手に入れることができたと感じました。しかしながら、先ほどの「プランを早期に決める」という課題は残ります。
その点で、A-SPECの登場はその課題を解決できると強く感じました。
器具や空間の平面寸法といった簡単なパラメータを設計者が入力すると、AIが複数のプラン案とそれぞれの評価を作り上げてくれます。設計者はその中から自らの設計思想と照らし合わせて案を選ぶことができ、この流れは多くの設計者が待ち望んでいたソリューションではないかと思います。
さらに、選択したデータを出力できることも大きなポイントです。ぜひ意匠設計者には早い段階からフル活用していただきたいものです。
それぞれが歩み寄って叶えるDX
昨今、DXというワードはほぼ一般化してきたと思います。A-SPECはその一部を担う存在だと感じる一方で、DXという概念を具現化するためには、あと一歩の工夫が必要だろうと思います。
具現化に向けたひとつの大きな課題は、今後BIMの利用が加速していく社会情勢の中で、A-SPECから得られるアウトプットをどのようにユーザー(設計者)のBIMモデルと柔軟に連携していくかという点でしょう。多くのユーザーは、自分自身が作成しているモデルと連動できることを望むと思います。しかし、これはA-SPECの開発負担が膨大となったり、データならではの責任問題があったりと障壁が多すぎるため現実的ではありません。
モデルそのものを受け渡すのではなく、例えば現在出力できる器具表に座標といった位置情報などを受け渡すようなシンプルな方法が有効かもしれません。A-SPECが簡単な情報を追加し、設計者はその情報を活用するスキルを身に着け、お互いが少しずつ歩み寄る――これがDXの実現には必要だと思います。
また、プランの決定が遅れる理由として、設計の終盤でクライアントから変更要望が出てくるという話もよく耳にします。私も過去の担当案件で、クライアントから「ゴージャスなトイレにしたいので、これから検討チームを立ち上げます!」と終盤に発表されたことがあります。今では笑い話ですが、当時の設計チーム全員が青ざめたことが思い出されます。
もちろんクライアントの想いを形にしたい気持ちは、設計者であれば当然持っていますが、設計に割ける時間は有限です。そのような経験からA-SPECには、専門性がなくとも楽しく検討できるソリューションに進化し、ユーザーの範囲が設計者だけでなく建物オーナーにまで広がってほしいと感じました。
例えば、VRをはじめとする没入技術を活用すれば、紙やPCモニターで見る図面より実際の大きさをリアルに体感できるため、専門知識がない方々でもイメージしやすくなるでしょう。それと同時に、設計をやってみる楽しさを感じてもらえると思います。
誰でも・楽しく・直感的に
私も以前、「誰でも楽しく設計に参加できる環境をつくる」という目標を掲げ、没入技術とBIMを連携する研究開発をしていました。その中で、指でつまんで動かすといった人間らしい直感的な操作機能を体験し、まるで積み木で遊んでいるかのような感覚で、子どもの頃のように純粋に楽しかったことを覚えています。
いつかお互いの技術を持ち寄り、「DXで楽しいトイレ設計を」のようなコンセプトを実現するコラボレーションができればと、開発者としての本能がくすぐられます。
さいごに、建築設計におけるDXの目的は、喜ばれる空間を作るための「考える時間」を設計者へ与えてくれることだと考えています。A-SPECはまさにその目的に合致しており、DXの重要なパーツとなることは間違いありません。
今後もA-SPECのさらなる発展を大いに期待しつつ、動向を楽しみにしています。