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『ハコヅメ』カメラを通さずに見たリアルな警察の日常に乾杯

■紹介(POP)

諸君、これは警察コメディである。
渋めの昭和演劇でもなく、お色気訴求の美少女なんてのはゴリラで、切れ味鋭いセリフ飛び交う熱血なんてものもない。
酒を食らえば愚痴も吐く、冗談も言えば自己顕示欲をむき出し馬鹿になる。
カメラ目線じゃない、生活を守る警察官たちの清濁併せ呑む日常(リアル)がここにある。
今まさに令和な警察物語、その一挙一動を見逃すな!

■基本情報

著者:泰三子
巻数:11 巻(以後続刊)

■個人の感想

警察物と聞いて思い浮かべるものと言えば、
・娘のいる渋いおっさんが若造を連れて活躍する刑事ドラマであったり、
・警察密着ドキュメンタリーであったり、
・突出した能力でカッコよくアクションをキメる作品であったり、
格好良さや人情を強調するため不要なノイズを削ぎ落とした、一言にまとめるならカメラを通して舞台裏を覗く作品がほとんど。
だけどこの作品は違います。
取材クルーなんてものを排除した、自然体の警察官たちが演じる、もう一つの舞台裏作品です。

1. トーク主体のコメディ
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この作品を読み始めた時、最初に押し寄せる衝撃は、軽妙に、引っかかりなくごく自然に流れるトーク主体のコメディです。
笑いを呼ぶ手法としてあるのは、だいたい以下のようなものがあるかな。
・漫画であることに依存する浮世離れしたリアクション
・とんでもな存在にイケてるセリフを言わせるような斜め上設定
・ドン引きと隣合わせのセクシャルトーク
・日常的に聞けそうな共感性高い普段着のトーク
この作品は4番目の普段着トークを主体としたものなので、普段接さない未知の世界が舞台ではありますが、まったく違和感なく「わっかるぅ~」することができます。
そしてそれを始めから終わりまで楽しむことができる。舞台が舞台なのでシリアスな場面も多々あるわけですけど、笑いと真面目の境界がまったくわからないぐらいに、スッと聴けてスッと笑える。取って付けたような感じがない。これがすごい。
泰先生は「会話」というものをとても大事にされているんじゃないかなと思います。かといって「動態」を無視しているなんてのはなくて、併せて普段着感のある、登場人物の心理が読み取れるような味わい深いものになっていたりするので、ほんと素晴らしいです。

2. 老若男女に嫌われるヤバい組織の人間
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トークを自然と受け入れられる理由の1つとして、近寄りがたくない、人間味あふれる登場人物たちがいることが挙げられます。
大人にも子供にも嫌われるヤバい組織ではありますが、彼らだってそう、ヤバい組織所属なだけで、それ以外同じ人間なわけで。
業務後の酒は楽しみだし、
結婚願望は人並みに持つし婚活もするし、
ミスることもあれば、感情に流されることもあるし、
今の有様に愚痴だって言いたくなるし、
組織の上下関係に苦しめば、身近の人間関係に悩みだってする。
ドラマなどで思い描いていたような世界じゃないし、
国民の生活を守り支えているなんて誇りは、組織の嫌われ具合を払拭するにはあまりにも心もとないのだけども、けして驕らず法執行官としての職責を果たす。
意外と近い部分もあるんだな、と親近感を感じさせるのは格好良さからすると真逆の効果しかない気がするけども、だからこそ共感できる部分もあったりします。こんなでも父ちゃん母ちゃんは社会に貢献しているんだぞ、そんな感じの「誇り」ですね。

3. 確実に社会を守っているという誇り
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警察官だけでなく、例えばバス運転手、宅配業者、小売業のレジの人など、いなければ社会が成立しない程重要な職業であるにも関わらず、どこかこう「当たり前な存在」にしてしまっている感じ。
そればかりか、更にサービスという名の高度技術を要求してくるというね。
サービスがサービスでなく「当たり前」になってしまっているわけですよ。やらなきゃクレームまであげる始末で。
「その日常は決して当たり前ではない」という言葉を思い出させてくれました。彼らは彼らなりに、自分らと同じように、高度な要求に「当たり前みたいな顔をして」応え続けている。
全員がそうであるとは言わないけども、ありがとうを告げるとか、軽く会釈するとか、そういう感謝の気持ちは大事にしたいものですね。

4. まとめ
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まぁとにかく、流れるようなトーク主体のコメディがとても素晴らしい作品です。ダサかったりアルハラかましたりヤバメの愚痴を吐きまくったり、とにかくノイズがあまりにもきつくて、格好いいを伝えるのにはとても向いていない。けれども1つ1つの小事を大事として、当たり前ですと言わんばかりにこなす姿は、確かに格好いい大人の姿だと思います。それをさりげなく見せてくれるこの作品、一見の価値大ありですよ。